
研修の在り方
毎年、新人の校正者が入ってくる現場であれば研修も慣れたものでしょうが、数年おき、もしくは誰かが辞めたときの補充として新人採用するという職場になれば、色々と教え方に対しても戸惑う場面があるかもしれません。
校正という職種は、研修マニュアルというものを作りにくいかもしれません。
ですが、研修の流れの骨組みだけでも作っておき、それを徐々に肉付けしていって、順序だって新人に教えるようにすれば、教える方も教わる方もスムーズで効率がいいです。
間違っても、最初から色んなことを詰め込みすぎたり、いきなり校正をやらせたりするのは避けた方がいいでしょう。
「自分の時代はこうだったから」とか「習うより慣れろ」とかは、今の時代にはちょっと向いていないかな、と思います。
※研修の内容は、諸事情で省略したり濁したりしていますが、
大体の流れだけ掴んでいただいて少しでも研修の参考にしていただければと思います。
1.事前準備
まず、教える側(迎える側)は、校正し終わった校正ゲラや原稿などを、常日頃からコピーして残して準備しておきます。
これは、研修目的というより、自分達の業務の振り返りや、起こりやすい間違いなどの発見にも役立ちます。普段、蓄積したものを新人の研修材料にも転用できるので一挙両得です。
校正し終わって、それで終わりだとスキルアップも望めません。振り返りや、他の校正者の赤字や疑問出しを見ることで、新しい視点を取り入れ、自分の校正の視野も広がっていきます。
何でもそうですが、復習や他人の意見は重要です。校正ゲラなど何も蓄積していないのであれば、すぐにでもやった方がいいです。
過去に自分が入れた疑問出しでも、後で振り返って見てみると『こういう言い回しの方が伝わりやすかったかな』ということに気づき、改善点も見つかります。
何も全物件をコピーで残す必要もなく、残しておいた方がいいと思うような赤字や疑問の場合だけ蓄積しておけば大丈夫です。
ゲラが多くて邪魔になると思う方は、コピー機でスキャンしてPDFにすれば何百ページあろうとも一ファイルに収まります。
蓄積は、将来への自己投資でもあるので校正をして終わりだと非常に勿体ないです。
校正だけではありませんが、校正という仕事はずっと学び続ける仕事です。付け焼き刃の研修だとボロが出てきます。普段からの準備は大切です。
いきなり、予告もなく明日から新人が入社してくるわけでもないので事前準備は必ずしておきましょう。
2.研修期間は、概ね4週間
研修期間は4週間で、前半2週間と後半2週間に分けて考えます。
きっちり4週間と区切っているわけでもなく、新人の理解度次第で変わってきます。ただ、研修期間が延びることはあっても、短くなることはほとんどありません。
3.前半の2週間
3-1:初日から2~3日間
初日から2~3日間は新しい環境に来たばかりで、新人は校正以外のことも覚えないといけませんので、実務は全くしてもらいません。
最初の数日は、目を慣らしてもらうことに専念してもらいます。
自社の制作物(雑誌やパンフ、カタログなど)や、事前準備で蓄積しておいた校正ゲラを、2~3日間見て勉強してもらいます。
2~3日間で慣れるものではないですが、初日から慣れない環境の中、緊張状態で実務をしても何も頭に入らないのでこちらの方が有意義です。
見て勉強してもらうと書きましたが、ただ見ているだけでなく、赤字や疑問出しに対してどうしてそのような疑問が入ったのか、こういう赤字はよく入りやすいとか、説明してあげます。
わからない用語などの質問があれば答えたりと、ただ黙々と見ているというだけではありません。
▼ ここでのポイント(初日から数日)
1.自社の制作物に目を慣らしてもらう
2.赤字の入れ方や疑問の入れ方を、過去の校正ゲラから学んでもらう
3.過去の校正ゲラからどんな間違いが起こっているのかを知ってもらう
(2)と(3)のためにも、終了後の校正ゲラのコピーのストックは常にしておく必要があります。最初の期間だけでなくとも、それ以降でもちょっとした合間に見てもらえたり出来ますので、時間を有効に使えて非常に便利です。
3-2:3~4日目から
だいたい3~4日目ぐらいから、簡単な校正をしてもらいます。
「はい、これ校正してください」とは絶対に言いません。
内規の【校正の手順書】がありますので、まずはそれを説明します。これは、校正するにあたってのチェックの仕方だったり、疑問の入れ方だったりというようなものです。
校正してもらうにあたっては、段階的に見る項目を決めて校正してもらいます。一気に色々なことを見てもらうようなことはありません。
いきなり、用語の使い分けなんかから説明するともう迷宮入りです……。
まずは、ページ周り、塗り足しが足りているか、仕上がり線(断裁線)近くに文字が無いかなど、外側に目線を誘導するように教えます。
段落でも、いきなり文字を読み始めるのではなく、段落の一字下げ・文頭文末が揃っているか、禁則などといった体裁から見ていきます。
外側から内側に視線を持っていくのが肝心です。
そして、赤字や疑問の入れ方は最初の内はとやかく言いません。最初の2週間では、赤字と疑問は好きなように入れてもらいます。多少おかしくても指摘したりしません。
間違いを見つける(違和感を覚える)ことに専念してもらいます。
と言っても、校正を目指してくる方なわけですから、ある程度は校正記号も知っています。見当違いな赤字や疑問を入れたりすることは多くはないです。
事前準備で蓄積した校正ゲラのコピーも見ていますので、あまり修正することもありません。とにかく、この期間は気づくことに専念してもらいます。
そして、徐々に見てもらう項目を増やしていきます。口頭でなく、ちゃんとチェックしてもらいたい項目は、紙ベースで伝えます。
段々と視野を広げてもらい、詰め込みすぎないよう、段階を追って覚えていってもらいます。
▼ ここでのポイント
1.校正記号は無視
2.気づいてもらうことに専念してもらう
4.後半の2週間
前半の2週間を踏まえて、校正してもらいます。
前半で教えた、チェック項目を全て校正してもらいます。ただし校閲はしません。まだ校正だけに専念してもらいます。
この頃になれば、自分一人で一から校正するため質問はかなり出てきます。質問の内容も教える内容も、前半の2週間よりも質が変わってきます。
この時に大事なのが、新人さんが聞きやすいような雰囲気を作ってあげることです。
忙しそうにバタバタしていたり、実務に集中していたりする姿は見せないことです。嘘でも、今暇だからいつでも何でも聞いてねって余裕を見せておくことです。職場の雰囲気づくりは大事です。ただでさえ、新人は何度も聞きにくいでしょうし、忙しそうにしていると尚更です。
もう一度言いますが、嘘でもめっちゃ暇そうにしておくことが大切です。
後半の2週間は、赤字の入れ方や疑問の出し方に対しても細かく教えます。
この場合は、こういう赤字の入れ方のほうがいい。校正記号だけだとわかりにくいので、文字で補足した方がいい、など。
最近は、若い制作者が多いので校正記号だけだと伝わらないことがあります。場面によって臨機応変な赤字の入れ方を教えてあげます。
何度も研修経験のある方はわかると思いますが、新人さんの質問の内容・赤字や疑問の入れ方で、理解していない部分がわかってきます。
それを無くしていくためにも、質問はしっかり聞いて納得するまで教えてあげることです。これは、新人さんを教える側の役目です。
ただ、最初の内は、今の段階では気づかなくても(指摘しなくても)いいことと、絶対に気づいてほしいことをわけて教えます。全部、教えているとパンクしてしまいますので。
見落とした箇所でも、ただ単に指摘するのではなく、
まずは考えてもらいます。(←これは何でもそうだと思いますが)
どうして見落としたのか、間違ってしまったのか。
場合によっては、こういう理由であえて指摘しませんでしたということもあります。
5.4週間が過ぎたら
4週間過ぎたら、ベテランの校正者のWチェックをしてもらいます。
ベテランの校正者が見終えた原稿とゲラで、もう一度新人に校正してもらいます。
自分で、もう一度校正してみて、ベテランの校正者が入れた赤字や疑問に対して、
・自分なら気づけたか?
・どうしてこういう疑問が入ったのか?
・どうしてここは指摘しなかったのか?
など、色々と考えてもらいます。
4週間ぐらいになれば、今まで教わってきたことの点と点がつながり質問もどんどん沸いてきます。一度時間を作って、これまでの研修を振り返っておさらいしたりします。
当然ながら、4週間経っても新人が校正したものは、赤字や疑問の確認はします。ピンポイントでWチェックもします。
複雑な校正はなるべく避けてもらいます。フィードバックや質問ももちろん継続です。
研修と呼ばれる期間はありますが、ずっと研修のような感じが校正という仕事だと思います。
2~3カ月ぐらいしてから、やっと何か仕事を一つ任せることになります。
自分が主体となって仕事を持つと、責任感も湧き、校正という仕事への思いれがガラッと変わってきます。
校閲に関してですが、
校閲は、校正と切り離して考えていますので別軸で教えています。
ざくっりでスミマセン……。
6.教える側のまとめ
1.事前準備はマスト。
2.「習うより慣れよ」は研修放棄。ちゃんと教えてあげないとわからない。
3.職場の空気感を大切にする。忙しそうにしていると新人も質問しにくい。
4.褒める。無理に褒める必要はないが、よく気づけたものに対しては褒めてあげる。
5.新人の今後を考えてあげる。
→数年後、どこの会社に行っても通用できるぐらいの校正者に育ててあげる。
→自分の会社だけでしか通用しない校正者には育てない。
(5)の視点だけでも持っていれば、教える側の意識も相当変わってくるのではないかと思います。
おわりに
教え方に正解はありませんので、人によって教え方や研修の内容を変えることはよくあります。
ただ、事前準備は忙しくても日頃からやっておかないと、教える側も教えてもらう側も混乱するだけなのでちゃんとしておきましょう。
新人の校正者は職場環境を作れません。
教える側(迎える側)が新人によりよい環境を提供してあげることが、人を採用する側の心得だと思います。
自分が初めて校正を教わったときのことを思い出して、自分が研修を受けた以上の環境を、これからの新人校正者には提供してあげましょう。