校正・校閲にかける適切な時間[予算を軸にした時間と品質のバランス]

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校正・校閲にかける適切な時間[予算を軸にした時間と品質のバランス]

校正・校閲という仕事は、時間をかければかけるだけ、品質も比例して上がるというものではありません。

以下のグラフのように、時間を縦軸、品質を横軸にした場合、ある程度まで時間と品質は比例して伸びていきます。ですが、一定の時間が経ったところで伸び率は小さくなり横ばいに近い状態になっていきます。

 校正校閲の時間品質予算
伸び率が小さくなる点で、ほぼ間違いを見つけ出したということがいえます。

1. 校正にかけられる時間

ここで問題になってくるのが『どこまで校正に時間をかけるか?』です。

これは校正者に課せられたジレンマで、時間をかけすぎても採算がとれなくなります(割に合わなくなります)。逆に、時間をかけないのと品質が心配になってきます。

校正・校閲をボランティア、もしくはまだ研修の段階でしているというのなら、特に時間を気にする必要はないですが、仕事として対価をもらって校正をしているなら、この問題をいつも頭の中に入れておかなくてはいけません。

『どこまで時間をかけるか?』の基準は『予算』になってきます。

たとえば、派遣社員に校正を依頼する場合、
予算10万円の校正の仕事があるとすれば、
時間給2500円として、
10万÷2500円/時間=40時間

一日、8時間労働とすれば、
40時間÷8時間=5日間

⇒ 予算10万円の仕事なら、一日8時間労働として、5日間使えることになります。
(※実際には休憩等の時間も費用に含まれるので使える時間は減ってきます)

このように、まずは予算を軸に時間を決めていきます。

※時間給2500円は、企業側が派遣会社に支払う金額を目安としています。

ここで『品質』の観点を加えると。

1.その仕事を一人で作業するなら、5日間
2.その仕事を二人で分担するなら、2.5日間

納期が3日しかないとしたら、を選ぶしかないですが、
仮に納期が7日あるなら、どっちを選ぶか?

仕事の回転率を上げたいならが妥当ですが、品質という点ではになります。

仕事の内容にもよりますが、手分けして校正作業をしたときの品質のバラつきのリスクを避けるためです。一人に任せるほうが、作業の方向性がブレることなく品質の安定が見込めます。
そのためを選択します。

予算10万円の段階に話を戻しますが、
予算10万円といってもまるまる予算を使い切る訳にもいかず、
とりあえずとして、10万のうち10%ぐらい利益を残すとします。

10万-1万(利益10%)=9万円
9万÷時給2500円=36時間
なので、36時間を目途に作業を終えられるように一旦線を引きます。

ここで重要なのが、その時間内でベストな品質を出せる作業設計をすることです。
ここでの設計とは、「校正の作業項目の選定と作業手順」です。
クライアントからの要望があればそれも考慮しなくてはいけません。

時間や残したい利益を何も考えず、仕事を受けてしまうと、
時間と利益をどんどん食いつぶしていくことになります。

「あれもやったほうがいいかも…?」
「こっちも気になる……」
「やっぱやってると間に合わない……」
 など右往左往する状況に必ず陥ります。

ここではわかりやすくするために残す利益を10%としましたが、校正という労働集約型の業種で、利益10%残すのはかなり難しいことです。(※利益率は、会社や業界によって変わってきます)

時間と品質のバランスを取るのは、品質が重視される校正という仕事上、割り切れないところもあると思います。ただ、『どこまでか』の線引きを自分の中ではっきりしておかないと、後々自分で自分の首を絞めることになります。

2. 正社員か? フリーランスか

校正は非生産的であるため、真っ先に企業のコストカットの対象になりやすい仕事です。校正を正社員に任せるのでなく、フリーランスの方をメインに依頼している会社も多いです。

一般に正社員を雇うのに、企業は1.5~2.0倍ぐらいのコストがかかっているといわれます。給料だけでなく、保険や福利厚生費等が加算されるためです。

ここでは、あいだを取って、仮に1.8倍とします。
そうすると、給料20万円の社員には、会社は28万円支払っていることになります。

その点、フリーランスなら実際にかかったお金をお支払いするだけなので、会社はコストだけ見れば、正社員を採用するよりフリーランスのほうが割安になります。
これが、非正規雇用が増える原因の一つです。

単純にコストだけの観点なので、ここに責任感とかモチベーションなど色々と加わってくるとややこしくなるので一旦省きます。

ちなみに、校正・校閲に関しては、フリーランスの校正者のほうが、色々な現場で揉まれているので経験値も高く、正社員以上に優秀な人材はゴロゴロいます。即戦力になる方も多いです。当然、その分時間給も高くなってきますが。

話しを戻すと、仮に100時間かかる仕事があるとして、
会社側が支払う給料を「xとすれば、どちらのほうが時間単価が高いか?

1.フリーランス:  x円÷100時間=x/100
2.正社員   :1.8x円÷100時間=1.8x/100

当然、の正社員のほうが、圧倒的に時間単価が高くなります。
コストだけ見たら、スキルが同じで時間単価が安ければ、正社員でなくフリーランスを選ぶのは当然です。

実際には、このように単純な計算とはいきませんが、いいか悪いかは別としてこの考え方に陥ってしまうことがよくあります。

会社の経営が芳しくないと、正社員の採用を抑制してフリーランスを増やす傾向にあります。

コストカットをするためにはやむを得ない手段だといえますが、目の前のコスト(お金)だけに囚われていると、将来の人的資産の目減りに繋がります。人材が育たない、人材を確保できないということになります。

いいか悪いかはわかりませんが、このような単純な考えで成り立っている現場は意外と多いです。

以上、予算と時間の観点から見ると校正の仕事では、予算から使える時間を算出し、その中でベストな品質を設計するということになります。(※ここでの設計とは、校正の作業項目の選定と作業手順です)

校正者としては、当然品質に重きをおきたいところですが、お金と時間の基準を持っておかないと品質だけに目が行き時間をかけすぎることになります。

これは、時間給でもページ単価でも、月給でも同じです。予算管理をしていない正社員や時間給で働く方が、過剰品質に陥る傾向にありますが、その原因は、大抵お金と時間の考えが抜けているせいです。

潤沢に予算があるなら別ですが、労働の対価として賃金をもらう以上は、お金と時間の感覚は常に頭に入れておく必要があります。

3. 時間と予算、品質のバランス

これまでは「予算」と「時間」の関係をメインに述べてきましたが、ここに「品質」も加わってくると考え方が変わってきます。

時間、予算、品質、この3つのバランスも校正・校閲では大切になってきます。何かが欠如していると過剰品質、長時間労働、低賃金労働といった負のスパイラルに陥ってしまいます。

仮に「時間と予算と品質、どれが一番大事?」って質問されたらどうでしょう。

その人の置かれているポジションによって答えは様々です。
発注側なら「もちろん、全部でしょ」というと思います。
現場サイドなら「品質第一です。そのためなら残業だってします!」と答えるかもしれません。
顧客と現場の板挟みになる営業は「そうですねぇ…なんだろう?(う~ん、予算かなぁ…)」と返答を濁すかもしれません。

理想をいえば、「高品質・短納期・低コスト」が望ましいに決まっています。

しかし、働き方改革が進められている中では、残業も制限され、品質のために多大な時間を費やすということも難しい状況です。残業したくてもできないということもしばしば出てきます。また予算が潤沢にあるといえる仕事もほとんどないのが現状です。

広告業界も紙媒体からWebや動画へとシフトし、十数年前と比べれば時間も予算も厳しくなっています。

4. 時間と予算、品質のどれを軸にするか?

校正・校閲にとって、時間と予算、品質の何を優先すべきか? 言い換えれば何を軸にしないといけないかを考えいきたいと思います。

まずこの中で、基準となるものを見つけます。考え方としては、これだけは企業努力(自分の努力)ではどうしようもないものです。

【時間】になります。

納期が曖昧という仕事もたまにありますが、その場合は、予算を基準に考えればいいと思います。ただ、期限を区切らないというのは、仕事としてはあまりいい条件とはいえません。
→「学生症候群」参考

【時間】を軸にしたら、
次は【予算】【品質】です。

仕事が予算内で丸く収まればいいですが、そういかない場合は、
クライアントの意思を尊重しないといけません。

「予算に応じた品質なのか?」
「品質重視で、多少の予算オーバーならやむを得ないのか?」

経験則からいうと、95%以上のクライアントは前者を取ります。
予算に応じた品質です。

そのため校正側も予算に応じた校正のメニューを用意しておく必要があります。ここでの校正のメニューは、品質のレベルと考えてもいいです。

たとえば、
「この時間なら、誤字脱字だけの確認までで表記統一はできません」
「この予算なら、原稿との突き合わせのみで校閲まではできません」
などのような段階的なメニューのことです。

実際に提案するときは、ネガティブなワードは相応しくないので、「この予算ならここまでできます」 というようにポジティブな表現に変えましょう。

ここまでを整理すると、
「時間を基準に、決まられた予算内で最高の品質を目指す」といったところです。

最高の品質は、あいまいな表現になるので言い換える必要があります。
予算内で出来うる限りの最善の企業努力を果たした品質ということになります。

そのためには、日々予算感覚を養うことと、品質向上の努力をしておかなければいけません。

どんなことでもそうですが、判断に迷った際は、最優先事項を見つけ基準(軸)を作ります。

また日々の仕事の中で、自分の業務を細分化しておきます。
細分化することで、各タスクが明確になってきます。
タスクが明確になると、作業の段階が見えてきます。
段階がわかると、ここまでなら対応可能といった領域がわかってきます。
それが、上記で説明したメニューとなります。

5. 時間・予算・品質の理想と現実

理想的なことを語ってきましたが、当然全てがうまくいくわけではありません。

「予算がないから、校正なんてしなくていいよ。自分でやるから」
「品質? 間違っていても誰も気にしないから」
「Webだから、間違いがあってもすぐ直せるから。納期厳守で」
 などといった話を聞くこともあります。

「時間・予算・品質」の一つ一つを取ってみればどれも大切なことですが、校正・校閲の仕事では、この3つのバランスを考えるのが重要になってきます。

3つの問題に直面したときは、まずは「時間」を基準にして考えていくのが適切です。

ただ場合によっては、品質や予算が最優先事項になることもあります。校正側だけでは判断できないことも多いです。その場合は、クライアントや担当者などと一緒に考えていく必要があります。