![新人校正者の研修のあり方[未経験者に教える側の役目]](https://kousei.club/wp-content/uploads/2020/01/Training-for-inexperienced-proofreader.jpg)
目 次
新人校正者の研修のあり方[未経験者に教える側の役目]
毎年、新人の校正者が入ってくる現場であれば研修も慣れたものですが、数年おき、もしくは誰かが辞めたときの補充として新人採用するという職場になれば、色々と戸惑う場面が多いかもしれません。
校正という仕事では、一般的な研修マニュアルというものが作りにくい職種かもしれません。
ただ研修の流れの骨組みだけでも作っておかないと、教えるほうも教わるほうも戸惑うだけです。新人校正者には、順序立てて校正に必要な知識を教えていき、その知識を実務で深めていく流れにしておかないと、効率の悪い研修となってしまいます。
間違っても、最初から色々な知識を詰め込みすぎたり、いきなり校正をやらせたりするのは避けたほうがいいでしょう。
「自分の時代はこうだったから」「習うより慣れよ」とかは、今の時代にはちょっと向いていないかなと感じます。
研修の内容は、諸事情で省略したり濁したりしていますが、大体の流れだけでも掴んでいただいて、少しでも研修の参考にしていただければと思います。
1. 研修の事前準備
まず、教える側(新人校正者を迎える側)は、常日頃から校正し終わったゲラや原稿などをコピーして保管しておく必要があります。
いきなり予告もなく明日から新人が入社してくるわけでもないので、事前に準備する時間はあるはずです。付け焼き刃の研修だと、必ずボロが出てきます。普段からの準備が大切です。
これは研修目的だけでなく、自分達の業務の振り返りや、起こりやすい間違いなどの発見にも役立ちます。普段、蓄積したものを新人の研修材料に転用できるので一挙両得です。
校正を済ませてそれで終わりでは、スキルアップは望めません。
振り返りや、他の校正者の赤字や疑問出しを見ることで、新しい視点を取り入れることができ自分の視野も広がっていきます。何でもそうですが、復習や他人の意見は大事です。校正ゲラなど何も蓄積していないのであれば、すぐにでもやったほうがいいでしょう。
過去に自分が入れた疑問出しでも、後で振り返って見てみると『こういう言い回しのほうが伝わりやすかったかな』という気づきも生まれ、改善点も見つかります。
何もすべての校正物をコピーで残す必要もなく、残しておいたほうがいいと思うような赤字や疑問の場合だけ蓄積しておけば大丈夫です。ゲラが多くて邪魔になると思う方は、コピー機でスキャンしてPDFにすれば何百ページあっても一ファイルにおさまります。
校正だけではありませんが、校正という仕事はずっと学び続ける仕事です。
ノウハウの蓄積は、将来への自己投資でもあり、新人研修にも活かせる重要な業務の一つです。
2. 研修期間は、概ね4週間
研修期間は4週間で、前半2週間と後半2週間にわけて考えます。
きっちり4週間と区切っているわけでもなく、新人の理解度次第で変わってきます。ただ研修期間が延びることはあっても、短くなることはほとんどありません。
4週間でなくても問題ありませんが、期限を決めておかないと計画性が生まれないので、ダラダラとした研修になってしまう恐れがあります。
3. 研修期間の前半2週間
▼ 初日から2~3日間
初日から2~3日の間は新しい環境に来たばかりで、新人は校正以外のことも覚えないといけません。そのため実務は全くしてもらいません。
最初の数日は、目を慣らしてもらうことに専念してもらいます。
自社の制作物(書籍や雑誌、パンフ、カタログなど)や、事前準備で用意しておいた校正済みのゲラを、その2~3日間見て勉強してもらいます。
数日間で目が慣れるものではないですが、初日から慣れない環境の中、緊張状態で実務をしても何も頭に入らないのでこちらのほうが効果的です。
見て勉強してもらうといいましたが、ただ見ているだけでなく、赤字や疑問出しに対して「どうしてそのような疑問が入ったのか」「こういう赤字はよく入りやすい」といった説明も当然してあげます。
わからない用語などがあれば質問してもらい、ただ黙々と見てもらうというだけではありません。
初日から数日まで
1.自社の制作物に目を慣らしてもらう
2.赤字の入れ方や疑問の入れ方を、過去の校正済のゲラから学んでもらう
3.校正済のゲラからどんな間違いが起こっているのかを知ってもらう
2と3のためにも、校正終了後のゲラのコピーのストックは常にしておく必要があります。最初の期間だけでなくとも、それ以降でもちょっとした空き時間に見てもうことができます。時間を有効に使えて非常に便利です。
▼ 3~4日目から
だいたい3~4日目ぐらいから簡単な校正をしてもらいます。
「はい、これ校正してください」とは絶対に言いません。
内規の【校正の手順書】があるので、まずはそれを説明します。これは校正するにあたってのチェックの仕方だったり、疑問の入れ方だったりをまとめたものです。
校正してもらうにあたっては、段階的に見る項目を決めて校正してもらいます。一度に色々なことを確認してもらうようなことはありません。
まずは、ページ周り、塗り足しが足りているか、仕上がり線(断裁線)近くに文字がないかなど、外側に目線を誘導するように教えます。
段落でも、いきなり文字を読み始めるのではなく、段落の一字下げ・文頭文末が揃っているか、禁則などといった体裁から確認していきます。
外側から内側に視線を持っていくのが肝心です。目線の持っていき方は、新人であればあるほど飲み込みが早いです。
そして、赤字や疑問の入れ方は最初の内はとやかく言いません。最初の2週間では、赤字と疑問は好きなように入れてもらいます。多少おかしくても指摘はしません。
間違いを見つける(違和感を覚える)ことに専念してもらいます。
といっても、校正者を目指しているのである程度は校正記号も知っています。見当違いな赤字や疑問を入れることは少ないです。
また事前準備で蓄積した校正済みゲラのコピーも見ているので、スムーズに進むことが多いです。とにかく、この期間は気づくことに専念してもらいます。
それから徐々に校正してもらう項目を増やしていきます。口頭でなく、ちゃんとチェックしてもらいたい項目は、紙ベースで伝えます。
段々と視野を広げてもらい、詰め込みすぎないよう、段階を追って校正作業を覚えていってもらいます。
1.校正記号は無視
2.おかしな点に気づいてもらうことに専念してもらう
4. 研修期間の後半2週間
前半の2週間を踏まえて校正作業をしてもらいます。
前半で教えたチェック項目をすべて校正してもらいます。ただし校閲はしません。まだ校正だけに専念してもらいます。
この頃になれば、自分一人で一から校正するため質問はかなり出てきます。質問の内容も、教える内容も前半の2週間と比べれば質が変わってきます。
この時に大事なのが、新人が質問しやすいような雰囲気を作ってあげることです。
忙しそうにバタバタしていたり、実務に集中していたりする姿は見せないことです。嘘でも『今暇だからいつでも何でも聞いてね』っていう余裕を見せておくことです。
職場の雰囲気づくりは大事です。ただでさえ、新人は何度も質問しづらいです。教える側が忙しそうにしていると尚更です。
後半の2週間は、赤字の入れ方や疑問の出し方に対しても細かく教えます。
この場合はこういう赤字の入れ方のほうがいい。校正記号だけだとわかりにくいので、文字で補足したほうがいい、など。
最近は、若手の制作者も増えてきているので校正記号だけでは伝わらない場面もあります。状況によって臨機応変な赤字の入れ方を教えてあげます。
何度も研修をした経験のある方はわかると思いますが、新人校正者の質問の内容・赤字や疑問の入れ方で、理解している部分・理解していない部分がわかります。
それを無くしていくためにも、質問はしっかり聞いて納得するまで教えてあげることです。これは教える側の役目です。
ただし、最初の内は今の段階では気づかなくてもいい(指摘しなくてもいい)ことと、絶対に気づいてほしいことをわけて教える必要があります。なんでもかんでも教えていると知識の整理が追いつかず、かえって効率の悪い研修になってしまいます。
たとえば、見落とした箇所でも、ただ単に指摘するのではなく、
まずは考えてもらいます。(←これは何でもそうだと思いますが)
どうして見落としたのか、間違ってしまったのか。
場合によっては、こういう理由であえて指摘しませんでしたということもあります。
5. 4週間が過ぎたら
4週間が過ぎたら、ベテラン校正者のダブルチェックをしてもらいます。
ベテランの校正者が見終えた原稿とゲラで、もう一度新人に校正をしてもらいます。
ベテランの校正者が入れた赤字や疑問に対して、
・自分なら気づけたか?
・どうしてこういう疑問が入ったのか?
・どうしてここは指摘しなかったのか?
など、色々と考えてもらいます。
4週間ぐらいになれば、今まで教わってきたことの点と点がつながり質問もどんどん沸いてきます。一度時間を作って、これまでの研修を振り返っておさらいする場面も作ります。
当然ながら4週間経っても新人が校正したものは、赤字や疑問の確認はします。ダブルチェックもします。
複雑な校正はなるべく避けてもらいます。フィードバックや質問ももちろん継続です。
研修とよばれる期間はありますが、ずっと研修のような感じが校正という仕事だと思います。
2~3カ月ぐらいしてから、やっと何か仕事を一つ任せることになります。
自分が主体となって仕事を持つと責任感が湧き、校正という仕事への取り組む姿勢もガラッと変わってきます。
6. 教える側のまとめ
1.事前準備は必須
2.「習うより慣れよ」は研修放棄。ちゃんと教えてあげないとわからない。
3.職場の空気感を大切にする。忙しそうにしていると新人も質問しにくい。
4.褒める。無理に褒める必要はないですが、よく気づけたものに対しては褒めてあげる。
5.新人の今後を考えてあげる。
→数年後、どこの会社に行っても通用できるぐらいの校正者に育ててあげる。
→自分の会社だけでしか通用しない校正者には育てない。
5の視点だけでも持っていれば、教える側の意識も相当変わってくるのではないかと思います。
おわりに
研修方法や教え方に正解はありません。人によって研修の内容や教え方を変えることはよくあります。
ただ、事前準備は忙しくても日頃からやっておかないと、教える側も教えてもらう側も混乱するだけなのでちゃんとしておく必要があります。
新人の校正者は、職場環境を作れません。教える側(迎える側)が新人によりよい環境を提供してあげることが、人を採用する側の心得だと思います。
自分が初めて校正を教わったときのことを思い出して、自分が研修を受けた以上の環境を、これからの新人校正者には提供してあげましょう。