目 次
その校正・校閲の筆記テスト意味ある?[経験者採用を考えている方へ]
校正・校閲の正社員・契約社員・アルバイトなどを採用する際、スキル判断の一つとして筆記テストはよく行われます。
経験者採用でしたら、どこの会社でも何らかの試験やテストはあると思います。これに適性試験が加わることも多いです。
ですが、この校正の筆記テストの結果が、必ずしも校正者としての能力に比例するわけでもありません。場合によっては、筆記テストの点数だけを基準にしたがために、入社後にミスマッチが生じるというケースもあります。
これは校正・校閲だけでなくどの職種でもそうですが、ミスマッチの可能性を少しでも下げるのが採用担当者の重要な役割です。
試験時間は、大抵30分~60分ぐらいです。問題数も限られてきます。どういう基準で校正者の能力を測るのかは、採用担当者の能力が大きく問われてきます。
そもそも筆記テストの内容が校正者の能力を試せるものになっているかどうか、改めて振り返ってみる必要があります。
筆記テストを作成するにあたって
自社媒体が何を扱っているか、何系かでまず分類していきます。
自社媒体が、何か一つの業界やジャンルものを扱っている(例:アパレル業界、不動産業界、旅行系など)。これを『特化型』とします。逆に、複数の業界やジャンルを扱い、どれかに特定できない場合を『複数型』とします。
これで2つに分類します。
■ 自社媒体 … 特化型
■ 自社媒体 … 複数型
さらに、自社で扱う媒体が『校正系』か『校閲系』かで分類していきます。
■ 自社媒体 … 校正系
■ 自社媒体 … 校閲系
これで4つの組み合わせができるので、それぞれに応じた筆記テストが必要になってきます。
[1]自社媒体:特化型 ― 校正系
[2]自社媒体:特化型 ― 校閲系
[3]自社媒体:複数型 ― 校正系
[4]自社媒体:複数型 ― 校閲系
[2]特化型 ― 校閲系
[4]複数型 ― 校閲系
[4]複数型 ― 校閲系
[2]と[4]の筆記テストは、SPI問題(言語分野と構造的把握力)で十分です。テスト作成に余程の自信があるという以外は、下手にテスト問題を作るのはやめたほうが無難です。
たとえば、
同音異義語の使い分けとしてよく紹介される「異動」と「移動」ですが、
それを使用した次のような問題はよく見られます。
問題A:適切なものを選びなさい。
1.人事異動
2.人事移動
学生の頃のテストではこの問題で大丈夫ですが、校正者の試験には相応しいとはいえません。
現在では、テキスト作成はパソコンですることがほとんどです。
「じんじいどう」と入力して、変換しても「人事移動」に変換されることはありません。
実務で起こる可能性が低い間違いを出題しても効果的ではありません。
このような場合には、
問題Aよりも誤変換が起こりやすく、より実践的能力を問える次のような問題にするのが適切です。
問題B:適切なものを選びなさい。
1.来月から営業部に移動する。
2.来月から営業部に異動する。
[2]特化型―校閲系の会社は、自社で使用される用語もおおよそカテゴライズ化されるので、自社に寄った問題を出題しがちです。ですが、これは大きな間違いです。
自社でよく使用される用語は、入社後の研修で教えればいいだけです。
自社の校正物に偏った内容を出題し、その採点で判断してしまうと偏った知識を持った校閲者が採用される可能性があります。たまたまその知識を持っていた人が採用されるということです。
校閲の適性を測るのであれば、一般的な知識と思考法を問うのが一番です。
社内独自の用語や知識は、入社してから教えても十分間に合います。
[4]複数型―校閲系は、複数あって絞れないため尚更SPIが最適です。これも[2]と同様、一般的な知識と思考法を問うのが大切です。
▼ どうしても社内で問題を作りたい場合
「追求 ⇔追及 ⇔ 追究」「改訂 ⇔ 改定」「指示 ⇔ 支持」など、校閲者として知っておくべき基本的な言葉の使い分けである同音異義語などを長文内にちりばめ、そこに誤字脱字なども混ぜ合わせて作成すればよいと思います。問題文は、長文2つほどで大丈夫です。
重箱の隅をつつくような問題を出しても、決していい結果は生まれません。これは採用側・採用される側、両方にとってです。
[関連記事]> 着実に校正ミスを無くしていく、同音異義語の使い分け
[1]特化型 ― 校正系
「特化型 ― 校正系」は、職務経歴が自社媒体に合致しているかが一番重要です。そのため職歴とこれまでやってきた校正内容を十分にヒアリングする面接を重視すべきです。
また筆記テストよりも、実際の原稿とゲラを用意して実技試験の結果を重視したほうが効果的です。
校正の実技試験は、社内で実際に使用している原稿を参考に作成すれば大丈夫なので、日頃から準備しておくことが大切です。
[3]複数型 ― 校正系
この「複数型 ― 校正系」のテストが、採用担当者を一番悩ませるかもしれません。
このような会社では、常に対応力とスピードが要求されてきます。この能力を面接やテストで測るのは至難の業です。
[1]と同様、このタイプの会社も面接重視になってきます。ですが、それ以上に実技試験も重要になってきます。面接では、自社の職務内容と応募者の前歴がどこまで合致するかを詰めていかなければいけません。
筆記テストはやめて、実技試験で色々な切り口の問題を出したほうが、ミスマッチのリスクを抑えいい結果につながる可能性が高いです。
実技試験には、違うジャンルの校正の実技試験を複数用意します。問題数を多めに設定するか、試験時間を短めに設定するかして対応力とスピードを見極めます。
▼ 実技試験の基準
━ 間違いが12個ある実技試験の採用基準の例 ━
[A] 6個は、絶対に見落として欲しくない間違い
[B] 3個は、経験者なら見つけて当然という間違い
[C] 3個は、その間違いを見つけたら優秀という間違い
というように、レベル分けして間違いを作成します。
ここでの採用基準は、合計点ではありません。
[A]の全問正解が最低の合格ラインです。たとえ[C]を全問正解したとしても、[A]の点数が低ければ不採用です。
校正・校閲という仕事では、致命的なミスは何が何でも見つけなければいけません。そのために、[A]の点数が重要になってきます。
おわりに
採用する側は、どんなテスト問題を作成して、何を採用基準にすればいいか迷うかもしれません。
ですが、試験で問うのはあくまでも校正者としてのスキルです。自社に見合った人物かどうかは適性テストや面接などで判断します。
試験の問題内容がそれを問えるものになっているか慎重に見極める必要があります。その試験問題で「どういう能力を図りたいのか?」と質問された場合に、具体的に答えられるかどうかが問題を作成する側には大切になってきます。