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注釈の意味と種類・注釈の校正でよくある間違い例
この記事では注釈を軸に、校正でよくある間違いを紹介しています。
校正では媒体問わずあるある的な間違いが意外と多くあります。ただ、そのような間違いは個人のノウハウとなりあまり公にされていないのが現状です。
校正は職場の研修や学校でも「経験を積めば何とかなる」と思われがちですが、実際は経験を積まなくとも知識として持っておくだけで見つけられる間違いがあります。
注釈は、紙・Web限らずどの媒体でも使用されるものです。覚えておくときっと役に立つ日がくるはずです。
注釈の意味・名称・種類
・注釈(annotation)の意味
注釈は、本文中の語句または図表などに補助的に加える説明のことをいいます。「注」ともよばれます。言葉の意味や文章の解釈、本文や専門用語の補足、文献の出典などを補足する際に使用します。
▼ 注釈の名称
注釈は、どこに配置されるかで名称が変わってきます。
具体的に注釈の種類には、次のようなものがあります。
「割注」「頭注」「脚注」「傍注」「後注」など。
1. 割注(わりちゅう)
・割注(縦組)
本文の文字サイズよりも小さい文字で、2行に分割して注釈を入れる方法。補足を必要とする語句の後ろに挿入します。挿入注の一種です。
2. 頭注(とうちゅう)
・頭注(縦組)
縦組みの書籍で用いられる形式で、本文上部に組み込んだ注のことをいいます。
3. 脚注(きゃくちゅう)=フットノート
1. 脚注(横組)
2. 脚注(縦組)
主に横組みの書籍で用いられる形式で、本文下部に付けられる注のことをいいます。
4. 傍注(ぼうちゅう)=サイドノート
・傍注(縦組)
書籍の本文ページの小口寄り(外側)に組まれた注のことをいいます。縦組ならば奇数ページの小口寄り、横組ならば左右両ページの小口寄りに入れます。
5. 後注(こうちゅう)
・後注(縦組)
書籍の本文が一区切りとなる編、章、節などの終わりにまとめて入れたり、巻末に入れたりする注のことをいいます。後ろにまとめて入れるので、注の分量が多いときによく用いられます。
【イラストの出典:日本エディタースクール出版部「本の知識」 P.23より】
6. 注記号(合印)=注釈記号
▼ 注記号の例
注記号とは、次の表内の「※1」や「※2」などのことをいいます。表下の注釈文(※1 ○○○など)との関係が明確になるように記すものです。注記号は、合印(あいじるし)ともよばれます。
▼ 注記号の例
・和文で使用される注記号には次のようなものがあります。
) | 1) 2) 3) |
※ | ※1 ※2 ※3 |
注 | 注1 注2 注3 |
* | * ** *** |
* | *1 *2 *3 |
( ) | (1) (2)(3) |
〔 〕 | 〔1〕 〔2〕〔3〕 |
[ ] | [1] [2][3] |
他にも†(ダガー)などが使用される場合があります。
▼ 注記号の表示の仕方
表記の仕方は、上付きや通常の大きさでの使用がよく見られます。
・上付きの例 ⇒ 機能対応表1)
・語句の後ろに付ける例 ⇒ 機能対応表(※1)
たとえば、厚生労働省のHPでは、上付きの「 1) 2)」の体裁のものが多く使用されています。
【出典:厚生労働省HPより】
注記号にどの記号を使用するかは、各社・各媒体のルールによるので特に決まりはありません。
ただ、あくまで注記号はその用語を補足するために使う補助的なものです。馴染みのない記号を使うよりも見慣れたものを使うほうが、読み手に補足の情報があると伝わりやすいです。
以上で説明した注釈は、配置が違うだけで基本的な要素は同じです。そのため起こる間違いがパターン化されてきます。
ここからは横書きの注釈を例によくある間違いを紹介していきますが、縦書き・横書き関係なく、どの注釈でも起こりえる間違いです。
1. 注釈の実例(ファッション雑誌より)
■ 宝島社:ファッション誌_InRed(インレッド)12月号_P.61・62の誌面より
▼ 例1
・Panasonic 「スチーマー ナノケア」の説明文
【部分拡大】
このように文中に注記号が入っているものはよく見られます。特に家電や機械系の媒体になると注記号の数も多くなってきます。
この注記号「※1」は、「約15%もアップ」に対しての補足説明です。何かと比較して優位性を示す場合にはその根拠が必要になってきます。
たとえば「電気代約30%削減」「世界最軽量」「業界No.1」なども同じように扱われます。
▼ 例2
・Panasonic 「温感かっさ」の説明文
【部分拡大】
この文では「ドレナージュ」という聞きなれない用語に対して注釈が付けられています。
一般的でない用語、専門用語、固有名詞などには、読み手のために補足しておく必要があります。これは校閲の仕事の範疇になります。読み手が迷う・理解できないであろう言葉に対しては、その説明が必要ではないかと指摘します。難解な漢字などには、ルビを振る指摘をすることがあります。
またこの文では、注記号が2か所あるのもポイントです。
同じ語が何度も出てくるからといって、そのすべてに注記号を付ける必要はありません。たとえば、最初に「ドレナージュ」が出てくる見出しの箇所、1つだけに注記号を付けるという選択肢もあります。
ただ、ここでは「ドレナージュ」という語が2つしか出てこないので両方に注記号を付けているのだと思われます。
仮に、例2の文字量で「ドレナージュ」という用語が4つも5つも出てきて、それらに逐一注記号が付いているとかえって文が読みにくくなります。
文字量と注記号を付ける語の出現数のバランスを考慮して、どこに注記号を付けるべきかを決める必要もあります。
■ 注記号が最初に出てくる語だけに付いている場合の注意点
次のように最初の語のみ注記号が付いているパターンです。
(※「■■■」は、同一の固有名詞と想定)
この文に入れ替えの指示が入った場合。
最初の語に注記号がなく、2番目に出現する語に対して注記号が付くことになります。
この場合は、最初の語に注記号が付くように入れ直す必要があります。
文字の入れ替え指示だけでなく、文字の追加や削除、レイアウト変更などの際にも最初に来る語の順番が変わることがあるので注意が必要です
2. 注記号をトル
ここからが本題になります。注釈でよくあるパターン化された間違いです。
表に入っている赤字を見て、他にも修正すべき箇所がないかという視点で考えてみてください。わかりやすく表組の例にしていますが、考え方は文章でも同じです。
▼ 注記号にだけトルの赤字が入っている場合
「解説」
・「※2」が取られることにより、同じ表内の「※3 ※4 ※5」を「※2 ※3 ※4」に繰り上げないといけません。
・表下の注釈文「※2 ○○○」も不要になるので取る必要があります。それに合わせて、注釈文の「※3 ※4 ※5」も、それぞれ「※2 ※3 ※4」に繰り上げます。
【結果】
■ 注記号が削除された場合の注意点
・3つ以上注記号がある場合
注記号が削除された場合、以降の数字は一つ繰り上がります。
「※3」を削除した場合
・2つしか注記号がない場合
注記号が削除されても数字を繰り上げることはしません。
「※1」を削除した場合
「※2」を削除した場合
2つの注釈のうちどちらか一つがなくなれば数字は不要です。仮に、一つしか注釈がないのに「※1」となっていると他にも続きの注釈があるように思われます。
数字を付けても間違いとはいえませんが、他にも数字が続くことを読み手に想像させてしまうため数字はないほうが適切です。
3. 注釈文をトル
▼ 注釈文にだけトルの赤字が入っている場合
これも考え方は前の項目と同じです。基本は、注記号と注釈文をつねにセットで追うことです。
「解説」
・注釈文の「※3 ○○○」が取られることにより、以降の注釈文「※4 ※5」を「※3 ※4」に繰り上げます。
・表内の「※3」の注記号も不要になるので取ります。注記号の「※4 ※5」も「※3 ※4」に繰り上げます。
【結果】
4. 注記号を含む部分が削除される
▼ 注記号を含む部分が削除される
注記号は小さいため、削除範囲にあっても気づかないことがよくあります。
「解説」
・表内の「※4」を含む行が取られることにより、表内の注記号「※5」を「※4」に繰り上げます。
・表下の注釈文「※4 ○○○」も不要になるので取ります。それに合わせて、注釈文の「※5」を「※4」に繰り上げます。
【結果】
ここまでの[2]~[4]の例は、赤字が入る位置や内容は違っていても、校正が見るポイントはすべて同じです。
注釈は、注記号と注釈文がセットになっていることが多いので、たとえ赤字が一つでも色々な箇所に影響してきます。そのため、どこまで修正範囲が及ぶかを考えて赤字を入れなければいけません。
理想は、赤字を入れる側が変更箇所すべてに指示を入れてくれることですが、そうでないことも多いです。注記号は小さいので、赤字を入れる側も見落としやすくなります。
5. 注記号を含む部分の入れ替え
▼ 注記号を含む部分が入れ替えられる
「解説」
・表内の注記号「※2」と「※4」が入れ替わったので、「※2→※4」「※4→※2」にします。
・表下の注釈文「※2 ○○○」と「※4 ○○○」の文だけを入れ替えます。
【結果】
注釈文の文だけを入れ替えるのは赤字を少なくするためです。赤字を少なくすることで、人の手(修正作業)が介在するのを減らすことができます。それにより修正ミスを防ぐことができます。
6. 注記号が複数箇所ある
▼ 注記号が複数箇所ある
注記号が複数入る場合は多いです。前述したInRedの例2の文でも2つ入っていました。
・注記号が複数ある例
注記号が複数入っている場合に起こりやすい間違いがあります。
・「※3」の注釈が不要になった場合の赤字
注記号が複数あると気づかれないことが多いです。単に気づいていないということでなく、注記号は一つだけと勘違いしているケースもあります。
7. 注記号の順番が違う
▼ 注記号の出現順と数字が連続していない。
この表では「※4」の位置がおかしいです。
横軸(赤線)で見れば「※1→※2→※4→※3」となり、数字が連続していません。
縦軸(青線)で見ても「※1→※4」となります。
基本、表組なら赤線の方向で見て判断します。そのため「※3」と「※4」を入れ替えるのが適切です。
注記号が多くなったり、修正が繰り返し行われたりする場合によくある間違いです。
8. 表全体にかかる注釈文
▼ 表全体にかかる注釈文
これまでの[1]~[7]の項目は、個別の情報に対応した注釈でしたが、ここでの注釈は表全体にかかるものです。表に対して、5つの注釈(補足説明)があるということです。
次の表のように数字を入れないパターンもよく見られます。数字を入れるか入れないかは自由ですが、表が複数あるなら基準を統一しておかないといけません。
おわりに
ここでは注釈だけに絞って見てきたので簡単だったと思います。ただ、実際の校正では、注釈だけでなく他の箇所にも気を配らないといけません。
やり方のコツとしては、すべての項目を一気に見るのではなくて、作業を分解して校正していくことです。
たとえば、素読みをしてから、次に注釈の対応だけを確認するといった感じです。すべての項目を見てから、再度注釈の対応だけをあとで確認する方法でもいいと思います。
パターン化された間違いは、そこに絞って見ていくほうが効果的です。
この手の間違いは、経験から身に付けるものではありません。こういう間違いがあるという知識として持っておくべきものです。
特に注釈は、色々な場面で見られるものです。このような間違いがあることを知っているだけでも校正をするときの見方はきっと変わってくるはずです。
[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]
・ダヴィッド社_編集校正小辞典
・Wikipedia_注釈
・日本エディタースクール出版部「本の知識」
・小学館_デジタル大辞泉