訂正指示の応用[同じ間違いへ赤字を入れるときのコツ]
校正では、同じ間違いが続く場合「複数箇所を同一文字に直す指示」で対応します。
同じ間違いに対して何度も赤字を入れる手間を省くだけでなく、校正ゲラもスッキリして見やすくなります。
複数箇所を直すときに起こる間違いは、パターン化されたものが多いです。こういう間違いがあると知っておくだけで、すぐに実践で役立てることができます。
※文章中の校正記号は『JIS Z 8208:2007(印刷校正記号)』を参考にしています。
1. 複数箇所を同一文字に直す指示
▼ 使用例
訂正する文字に「△」の記号をつけ、「△」を何に訂正したいかを指示します。
■ 赤字の入れ方
△ = 雪
この赤字例は、3か所ある「妙」の文字を「雪」に訂正する指示になります。
基本は「△」の記号を使います。校正記号表では、「〇」の記号も許容として使用できます。状況によっては「〇」のほうが見やすいこともあるので、その都度使い分けたほうがよいです。
また、「△ = 雪」は、次のように指示してもわかりやすいです。
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△ を 雪 に正ス
△ を 雪 に正ス(以下同)
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■ 気を付けておきたいこと
指示の入れ方自体は非常に簡単ですが、赤字を入れる際に気を付けなければいけないことがあります。特に、同一案件を複数人で手分けして校正作業しているなら要注意です。
たとえば、
校正者Aさんは、複数の間違いに対して、
△ = 雪 を指示を出したとします。
校正者Bさんも、他のページの複数の間違いに対して、
△ = 妙 の指示を出したとします。
Aさんも、Bさんも、それぞれのパートで正しい対応をしています。
ただ、全体を通して見たときに、
△ が表しているものが 雪 と 妙 の2つになってしまいます。
「△は、雪に訂正するもの」とAさんの指示を見た修正側が、Bさんのページを修正をするときに「ここの△も、雪に訂正するものだ」と解釈してしまい、誤った修正を招く可能性があります。
そのため、一つの校正物の中で、
同じ記号(△)で、違うこと(雪と妙)を
表すのは避けたほうがよいです。
あらかじめ、指示を出す場合は、事前に校正者間で共有しておく必要があります。
たとえば、
Aさんが△を使って指示を出したなら、Aさんは「このページで△を雪にする指示として使ったので、別の訂正で使う場合は○にしてください」と共有します。
2. よくある間違い①
■ 間違い例1
次のような赤字を入れた場合は、修正側の視点も考えることが大切です。
△ = 雪
修正側は、赤字を一つ一つ修正することもあれば、同じ赤字なら検索置換で一括で修正することもあります。
■ 誤った修正結果1
指示をしていない「妙」が「雪」に修正される(□部分)
これは、修正側が「妙」の文字すべてを「雪」に訂正するものだと思い、範囲内の「妙」を一括で「雪」に置換してしまったため起こった間違いです。
■ 間違い例2
一括修正だと、誤って他の箇所も修正される危険があるという理由で、仮に一つずつ修正したとしても、修正側が間違えそうな箇所があります。
3行目に「妙子」の文字が連続しています。この部分の訂正位置を見誤る可能性が高いです。
■ 誤った修正結果2
このような修正ミスを防ぐには、赤字を入れるときに、矢印部分の「妙」も誤って修正されるかもしれないと推測しておく必要があります。
対処法しては、鉛筆書きで注意を促しておくことです。
3. よくある間違い②
■ 離れた位置にある赤字
離れた位置(青丸)に「△」がポツンとあると、修正側に見落とされる可能性が高くなります。
実際の校正ゲラでは、他にも赤字や疑問出しがたくさん入っていることが多いです。それらに、赤字が埋もれてしまうことがあります。さらに、誌面の下部は修正側の死角にもなりやすいので尚更です。
【対処法1】
● 個別に赤字を入れる
目だたない箇所には、「△」でなく、あえて訂正の赤字にすることで見落とされるのを防ぎます。
【対処法2】
● 鉛筆(青ペン)で丸囲みする
鉛筆で丸囲みしておくことで『ここにも赤字がありますよ』ということを注意喚起します。
※鉛筆書きは補足的指示に使用します。
4. 応用例:マーカーで代用
「△」や「○」の代わりに、マーカーを使うと指示が目立ち効果的です。色のバリエーションも豊富なので使い分けも容易です。
▼ マーカーで指示した例
・実際にピンクマーカーを付けたものは次のようになります。
画像が暗めですが、ピンクだと目立ってわかりやすいです。
おわりに
この「複数箇所を同一文字に直す指示」は、よく起こる間違いを知っておくだけでミスを防げます。
また、同じ間違いが2~3個続いた時点で、『もしかしたら他にも同じ間違いがあるんじゃないか?』と推測するクセを付けておく必要もあります。
何度も同じ赤字を入れるのは大変です。
早めに対処できるように心掛けておきましょう。
※校正記号の例文は、青空文庫:谷崎潤一郎の『細雪』より使用いたしました。