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文章の校正に役立つ国語辞典5選[特徴とポイント解説]
校正・校閲に国語辞典は欠かせません。知らない言葉が出てきたとき、言い回しが適切かどうか疑問に思ったとき、漢字の使い分けに悩んだときなど、折に触れて参照する拠り所です。
ただし世の中にはたくさんの国語辞典があり、校正歴の浅い人は特に、どの辞典を使うのがいいか迷ってしまうでしょう。あるいは、どの辞典も大差ないと思い、手近にあったものを何となく使っている人もいるかもしれません。
しかし、辞典にはそれぞれ特徴があり、それを把握しておくことで校正作業も効率的になります。この記事では複数の国語辞典を取り上げ、その特徴を比較します。
1.『広辞苑』(岩波書店)
『広辞苑』(岩波書店、2018年第七版発行)
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言わずと知れた有名な国語辞典です。「国語辞典といえば『広辞苑』」というイメージを持つ人もいるのではないでしょうか。
1955年の初版から2018年の第七版まで版を重ね、伝統的に使われてきた語だけでなく、新しく日本語として定着した語、定着すると考えられる語も採録しています。近年現れた表現が一般的に使われるようになっているかどうかについては、『広辞苑』に載っているかどうかをひとつの目安にすることができます。
校正に使う際に留意したいのは、送り仮名の傾向です。凡例に「『送り仮名の付け方』(1981年10月 内閣告示)に示された原則に準拠しつつ、旧来の慣行をも考慮して送った」とある通り、本則ではない送り仮名が採用されている場合があります。
たとえば「売り上げ」という語を引くと、本則の送り仮名は「売り上げ」ですが、『広辞苑』の見出し語としては「売上げ」となっています。送り仮名に関して指摘を出す際は、『広辞苑』だけでなく他の国語辞典も参照するとよいでしょう。
■ 岩波書店『広辞苑』紹介サイト
> http://kojien.iwanami.co.jp
2.『明鏡国語辞典』(大修館書店)
『明鏡国語辞典』(大修館書店、2020年第三版発行)
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『明鏡国語辞典』は、漢字の使い分け、よくある誤用などについての説明が充実しているのが特徴です。
たとえば「王朝をたてる」というとき、「立てる」と「建てる」のどちらを使えばよいか、「つまらなそう」「つまらなさそう」のどちらが適切か、「かねてから」は重言か、といった校正者を悩ませる問題が多く取り上げられています。校正をする上で頼りになる場面が多い国語辞典です。
常用外の漢字や表外音訓にマークが付されている点も便利です。「常用外の漢字にはルビを振る」という案件に役立つのはもちろん、「難読語にルビを振る」という場合にも、常用漢字かどうかは判断基準のひとつとして使えるためです。
■ 大修館書店『明鏡国語辞典』紹介サイト
> https://www.taishukan.co.jp/item/adm2024/
3.『新明解国語辞典』(三省堂)
『新明解国語辞典』(三省堂、2020年第八版発行)
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『新明解国語辞典』は日本で一番売れている国語辞典として有名です。
同じ語であっても、その意味の説明(語釈)は辞典によって異なることがあります。『新明解国語辞典』は語釈が特徴的な辞書として、ファンの多い国語辞典です。つい作業とは関係ない部分まで読んでしまい、「仕事の邪魔になる」という校正者もいるほどです(参考:毎日ことばplus )。
校正に使った印象としては、漢字の使い分けについて、前述の『明鏡国語辞典』よりも許容範囲が広いように思われます。
たとえば「はかる」という漢字の使い分けについて、『明鏡国語辞典』では、時間は「計る」、長さや深さなどは「測る」、重さや体積は「量る」というように細かく示されています。それに対して『新明解国語辞典』では、見出し語として「計る」を採った上で、末尾に「『測る・量る』とも書く」とシンプルにまとめています。漢字の使い分けには、絶対的な正解がない場合も多いことがわかります。
■ 三省堂『新明解国語辞典』紹介サイト
> https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/smk8/
4.『日本国語大辞典』(小学館)
『日本国語大辞典』(小学館、2000~2002年第二版発行)
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『日本国語大辞典』の特徴は、なんといってもその圧倒的なボリュームです。13巻+別巻という構成で50万項目を収録し、国語辞典としては最大です。古語や方言なども収録されており、他の国語辞典では確認できない語も載っていることがあるため、校正をしていて辞書で見つけられない言葉があったときは当たってみるとよいでしょう。
全14巻を手元にそろえておくのは大変ですが、有料オンライン辞書・事典サイトの『ジャパンナレッジ』や、無料ウェブ百科事典の『コトバンク』にも収録されています。
もうひとつの特徴は、語の意味を原則として古いものから順に、実際の文献における用例とともに載せていることです。
たとえば「愛」という言葉を引くと、最初に「親子、兄弟などが互いにかわいがり、いつくしみあう心」という意味が載っています。この意味で「愛」が使われた例は、万葉集(8世紀後半)にまでさかのぼることができるようです。続いて「仏教用語」「子供などをかわいがること」などの意味が挙げられ、現代人にとって馴染み深い「恋愛」の意味は最後に来ています。なお、「恋愛」の意味で「愛」を使ったのは、森鴎外『舞姫』(1890)が最初とされています。
■ 小学館『日本国語大辞典』紹介サイト
> https://japanknowledge.com/contents/nikkoku/
5.『大辞泉』(小学館)
『大辞泉』(小学館、2012年第二版発行。デジタル版は年3回更新)
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「生きている国語辞典」としてアップデートに力を入れている点が特徴的な辞書です。書籍版に加えてデジタル版を発行しており、データを年3回という高頻度で更新しています。
紙の辞書は、編集から発行までどうしてもタイムラグが生じてしまいます。その弱点を強みに変えたデジタル版の『大辞泉』(https://daijisen.jp/digital/)は、時事問題を扱ったゲラを校正するとき、特に心強い辞書です。電子辞書やアプリのほか、ジャパンナレッジ(更新は年2回)やコトバンクでも利用できます。
ちなみに『大辞泉』では語の意味について、現在日常的に使われているものを先に載せる方針を採っています。上記の『日本国語大辞典』と同じく「愛」を引いてみると、最初に「親子・兄弟などがいつくしみ合う気持ち」、2番目に「恋」が掲載され、最後に仏教用語としての意味を掲載しています。現代の一般的な文章を校正する際、直感的に使いやすい辞書です。
■ 小学館『大辞泉』紹介サイト
> https://daijisen.jp/about/index.html
おわりに
以上、国語辞典の特徴を紹介しました。
記事内でも触れた通り、語釈や漢字の使い分けの指針は辞書によって異なります。唯一の「正しい日本語」があるわけではないということが理解いただけたでしょうか。
校正をする際は、一種類の辞書を絶対的な正解として参照するのではなく、複数の辞書を引き比べて検討することが重要です。その作業を繰り返していくうちに、自分なりの辞書との距離感がつかめてくるでしょう。