目 次
一つ一つ、ひとつひとつ、一つひとつの表記の違いと使い分け
「一つ一つ」「ひとつひとつ」「一つひとつ」、どの表記であっても意味に違いはなくすべて同じです。次の通りです。
意味:『多くあるものの、それぞれ。/ 一つごとに。/ いちいち。/ どの一つをとってみても、例外なくそうであることを表わす。』
意味は同じなため、基本的にどれを使っても問題ありません。
では、どの表記を使えばいいのか?
以下、詳しく使い方を紹介していきます。
[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]
・『記者ハンドブック 第14版』(共同通信社)
・『新明解国語辞典 第8版』(三省堂)
・『デジタル大辞泉』(小学館)
・『広辞苑』(岩波書店)
「一つ一つ」と「ひとつひとつ」の使い分け①[漢字とひらがな]
まずは漢字表記の「一つ一つ」とひらがな表記の「ひとつひとつ」の使い分けから紹介していきます。
「一つ一つ」と「ひとつひとつ」は様々な文書において頻繁に使用されますが、2つの表記が使用される主な原因としては、『漢字』と『ひらがな』が言葉に与える印象が大きく影響しています。
漢字で「一つ一つ」と表記した場合、文章に引き締まった印象を与えることができ、重み、説得力、厳格さを生む効果があります。一方、ひらがなの「ひとつひとつ」の表記は、やわらかさ、親しみやすさ、優しい印象を与えることができます。
2つの表記は、漢字とひらがなから与えられる印象によって、文章に適したものを選ぶことが重要です。また読み手の年齢層などにも配慮し、漢字かひらがなかを使い分けることも大切です。
ちなみに、新聞用字用語集『記者ハンドブック 第14版』(共同通信社)では、『ひとつ』の見出し語の中に「一つ一つ」と表記されています。記者ハンドブックに倣うなら「一つ一つ」の表記が適切となります。
「一つ一つ」と「ひとつひとつ」の使い分け②[文体(文章のスタイル)]
2つ目の使い分けは、「一つ一つ」と「ひとつひとつ」の表記が、文体に合っているか、周りの文章とバランスが取れているかを考慮した使い分け方です。
▼ 以下の例文から使い分けの具体的な基準を見ていきます。
<例文1>
A「ヒロアカのバトルは、ひとつひとつの技がカッコよくて面白い!」
B「夏油傑は、取り込んだ呪霊一つ一つの名前を記憶していたのだろうか……」
A、Bともに前後の語に合わせて表記を選択しています。その文にあった表記を選ぶことで全体のバランスがよく見えます。
例文1の表記を入れ替えると違った印象になります。
<例文2>
A「ヒロアカのバトルは、一つ一つの技がカッコよくて面白い!」
B「夏油傑は、取り込んだ呪霊ひとつひとつの名前を記憶していたのだろうか……」
例文1と例文2を見比べてみると、どちらの表記が文の雰囲気に合っているかわかると思います。意味は同じでも表記が変わるだけで、その文の見た目の印象は大きく変わります。文章では、「伝える」という点において「見た目」も重要な要素になってきます。周りの語とのバランスから表記を選択することも的確に意図を伝えるための重要な手段です。
「一つ一つ」と「ひとつひとつ」の使い分け③[縦書き]
文章を書く上で、縦書きの場合は漢字表記にするものもありますが、「一つ一つ」と「ひとつひとつ」はどちらの表記も使用されます。
▼ 次の例文からAとBどちらの表記が相応しいかを考えてみたいと思います。
<例文1>
A、Bどちらの表記も間違いではありませんが、文の終わりを見れば「~しましょう」と読み手に問いかける形で終わっています。この場合、読み手の共感を生むために、やわらかく親しみを与える表現である「ひとつひとつ」(B)を使うのが相応しいと考えられます。
<例文2>
文の終わりを見ると、例文1と違って「~になります」と断言しています。この場合は、漢字の「一つ一つ」(A)を使ったほうが重みや説得力が増すと考えられます。
「一つ一つ」と「ひとつひとつ」の2つの表記は、縦書き横書き関係なく使用されます。表記については、どれが正しいかという視点よりも、その表記が使用する文体や場面に合っているかという視点が大切になってきます。
「一つひとつ」の使い方
続いて「一つひとつ」の使い方を紹介していきます。この表記は「一つ一つ」と「ひとつひとつ」が組み合わさったもので両者の中間的な存在です。
『漢字ばかりだと何か文章が硬く感じる……』
『ひらがなが続くと文に締まりがない……』
という場合に「一つひとつ」の表記が最適です。
■ 一つ一つの瞬間を大切にしましょう。
⇒「漢字だとちょっと硬い。もう少しやわらかくしたい。」
● ひとつひとつの瞬間を大切にしましょう。
⇒「文頭にひらがなが多いと何か締まりがない。もう少し重みを持たせたい。」
こういうときに「一つひとつ」を使用します。
◎ 一つひとつの瞬間を大切にしましょう。
「一つひとつ」は、漢字とひらがなが組み合わさったバランスのよい表記です。見た目の印象も硬すぎずやわらかすぎず様々な場面に適しています。
ビジネスから一般的な文章まで媒体を問わず、幅広い場面での使用が可能です。雑誌や書籍、Web媒体などで多く見られる表記です。
漢字の「一つ一つ」、ひらがなの「ひとつひとつ」にこだわりがないようであれば、「一つひとつ」の表記の使用をおすすめします。
一つ一つ、ひとつひとつ、一つひとつの使い分け
以上を踏まえ、「一つ一つ」「ひとつひとつ」「一つひとつ」、それぞれの特徴をみていきます。
1. 一つ一つ(漢字)
■ 漢字の「一つ一つ」は、文書に格式や厳格さを求めたい場合に適しています。「一つ一つ」を使うことで、文章に引き締まった印象を与えることができます。公式文書やビジネスシーン、フォーマルな場面に向いている表記です。
・印象:厳格、重み、公式、フォーマル、形式的 etc.
・使用場面:公式文書、ビジネス文書、一般的な文章
2. ひとつひとつ(ひらがな)
● ひらがな表記の「ひとつひとつ」は、ひらがなが持つやわらかさや親しみやすさを文章に与えたい場合に適しています。読み手に優しい印象を与えることができます。一般的な文章からカジュアルな文章、カタログ、広告、キャッチコピーにおいて使用されることが多いです。幅広い年齢層に読まれるシーンに相応しい表記といえます。
・印象:やわらかい、親しみ、優しさ etc.
・使用場面:ビジネス文書、一般的な文章、カジュアルな文章
3. 一つひとつ(漢字+ひらがな)
◎「一つひとつ」は、漢字とひらがなの組み合わせにより、両者の印象を併せ持つ表記です。フォーマルとカジュアルの中間的存在で、硬すぎずやわらかすぎないため、あらゆる場面で使える表記です。
・印象:「一つ一つ」と「ひとつひとつ」の中間的な印象
・使用場面:公式文書、ビジネス文書、一般的な文章、カジュアルな文章
おわりに
「一つ一つ」「一つひとつ」「ひとつひとつ」のいずれの表記も正しいものです。使い分けにあたっては、文章の使用される場面、文体、読み手に応じた適切な表記を選ぶことが大切です。どこで使うか、誰に対して使うかを配慮し、使用する文脈や目的に合わせて適切なものを選びましょう。
<注意点>
3つの表記はどれも正しいですが、一つの文書内で複数の表記を混在させるのはNGです。文書においては表現や表記の統一が求められます。表記にバラツキがあると文章のまとまりに欠け、一貫性を損なう原因となります。全体の整合性を保つことが大切です。