素読み校正で役立つ校正術!文章の読み間違えを防ぐ[例文で解説]

information

素読み校正で役立つ校正術!文章の読み間違えを防ぐ[例文で解説]

校正の素読み作業においては、文章表現に対して指摘を出すことがあります。しかし、文章表現に関しては誤字脱字のような明らかな正解がないことも多く、特に校正初心者にとってはどこまで指摘すればいいのか判断が難しいです。

自分の好みに合わせて、なんとなく感覚的に指摘を出している人もいるかもしれません。しかし校正者として指摘を出す際は、好みやフィーリングではなく論理的な根拠が必要です。

そのままでは誤読される恐れがある」というのもその根拠のひとつです。

この記事では、誤読の恐れがある表現とはどのようなものか、書き手の意図が確実に伝わる文章にするためにはどのような視点で素読み校正をすればよいかについて、実例をあげながら解説します。

1. 指示語が指す対象が曖昧でないか注意する

次の文を読んで、文中の「それ」が指すものは何か考えてみてください。

この本を買ったのは三年ほど前だが、読み始めたのは今年に入ってからだった。文学賞を受賞した本だということはそれ以前に聞いていた。

「それ」は、「この本を買った」ときとも、「読み始めた」ときとも解釈できるため、迷ったのではないでしょうか。

「それ」「この」などの指示語が出てきたときは、指す対象が明確かどうかに注意が必要です。上の例文のように指示語が指す対象がわかりにくい、または複数考えられるといった場合は、対象を明確にする指摘を出します。

指摘の出し方としては、
指示語の位置を変える方法
指示語を使わず具体的な表現に書き換える方法
の2つがあります。

上の例文をそれぞれの方法で書き換えた例を以下に示します。

指示語の位置を変える

この本を買ったのは三年ほど前だが、文学賞を受賞した本だということはそれ以前に聞いていた。読み始めたのは今年に入ってからだった。

指示語を使わず具体的な表現に書き換える

この本を買ったのは三年ほど前だが、読み始めたのは今年に入ってからだった。文学賞を受賞した本だということは読み始める以前に聞いていた。

文意がより明確になるのはの形ですが、指す対象が複雑な内容であるときなどは、繰り返し表記すると冗長な印象になってしまいます。場合に応じて、のどちらの方向で指摘を出すかを使い分けましょう。

2. 修飾語の位置に注意する

次の文には、修飾語の位置を変えたほうがよい箇所があります。どこを変えればよいか考えてみてください。

徳川家康は1616年に没して久能山に葬られ、1617年の死去の翌年に日光に改葬された。

<修正例>

徳川家康は1616年に没して久能山に葬られ、死去の翌年の1617年に日光に改葬された。

元の文だと「1617年」が「死去」にかかるように読めるので、「死去の翌年」を指すことが明確になるように位置を変えたほうがよいでしょう。

なお、事実確認(ファクトチェック)をしなければ修飾語がどこにかかるのか判断がつかないケースもあります。

たとえば、上の例文は文中に「1616年に没して」と死去した年が明記されていますが、これが「徳川家康は1617年の死去の翌年に日光に改葬された。」という文だった場合は、ファクトチェックしなければ「1617年」が「死去」にかかるのが適切かどうかの判断が難しいです。

校正作業にファクトチェックが含まれる案件であれば、事実関係を確実に押さえたうえで、修飾語が適切な位置にあるか確認しましょう。

ファクトチェックが含まれない案件であっても、書かれていることがすべて正しいと思い込まず、修飾語の位置に違和感があったりどこにかかるのか曖昧に感じられたりした場合は「○○のように読めますがよろしいでしょうか?」といったアラートを出す必要があります。

3. 読点の位置に注意する

次の文は誤読される可能性があるため、読点を入れたり位置を変えたりしたほうが望ましいです。それぞれどのように直す指摘を出せばよいか考えてみてください。

厳戒態勢の中年が明けた。

熱中症予防のため壊れたエアコンを、早急に買い替える。

<修正例>

厳戒態勢の中年が明けた。

熱中症予防のため壊れたエアコンを早急に買い替える。

有名な「ここではきものをぬいでください」(「ここで履き物を脱いでください」「ここでは着物を脱いでください」)という文のように、区切る位置で意味が変わってしまうケースは多々あります。

読点の入れ方には明確なルールがなく、書き手の好みによるところもあるので校正の指摘を出しづらい部分ですが、誤読の恐れがあるときは指摘が必要です。

の文は「厳戒態勢の中」で意味が区切れますが、文字がつながっていることによって「中年」まで一続きのように見えます。このように違う語に見えてしまう場合は、読点を入れる提案をしましょう。

は、元の文だと「熱中症予防のため」が「壊れた」にかかるように読めます。「熱中症予防のため」に「買い替える」と読めるように、読点の位置を調整します。

おわりに

書き手の意図が確実に伝わるようにサポートすることは、校正の役割のひとつです。

書き手は当然ながら内容を理解したうえで文章に書き起こしているため、指示語が指すものが曖昧であったり修飾語が他の語にかかるような位置にあったりしても、頭の中で補完できてしまい、読者が誤読する可能性に気づきにくいものです。校正者は初めてその文章を読むという点で、読者と同じ視点に立つことができます。

この記事で紹介したように、読者に書き手の意図と違った読み取られ方をされそうな箇所については、意図が正確に伝わるようにする提案をしましょう。

※「修飾語の位置」の例文は、日本大百科全書(ニッポニカ) 「日光東照宮」を参照しています。