正しい引用の仕方[4つの条件と3つの原則]

information

正しい引用の仕方[4つの条件と3つの原則]

プレゼン資料やレポート、ブログ記事などの文章を書くにあたって、他の人が書いた文章を参考として利用したい場面があると思います。他の人の文章を自分の著作物の中に取り込むことを「引用」といい、正当な範囲内であれば、著作権者(書いた人)の許諾を得ずに利用できると著作権法上でも規定されています。

しかし、ルールをきちんと理解せずに引用してしまった場合、意図せずとも誰かの著作権を侵害してしまうことがあります。そのようなことがないよう、この記事では他の人が書いた文章を正しく引用するための、必要な知識と守るべきルールを解説します。

この記事をご覧になって、引用に関する知識を深めていってください。

引用の仕方や形式は、論述する分野や学会などの慣習やルールによって違ってきます。

学術論文などアカデミックな場面では、引用の仕方や出典の表記についてより厳密に考える必要があり、学会や雑誌がそれらのルールを規定していることが多くあります。

この記事で紹介する引用の仕方は、ビジネスシーンや趣味の範囲で文章を引用するうえで最低限知っておくべきこと・守るべきことにフォーカスしています。

1.「引用」が認められる4つの条件

著作権法において、引用が認められるのは、次の4つの条件を満たす場合であるとされています。

引用の4つの条件

 他人の著作物を引用する必然性があること
かぎ括弧をつけるなど、自分の著作物と引用部分とが区別されていること
 自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること
 (自分の著作物が主体)
 出所(出典)の明示がなされていること

【参考URL:著作物が自由に使える場合 | 文化庁 (bunka.go.jp)

以下4つの条件について詳しく紹介していきます。

① 他人の著作物を引用する必然性があること

例えば他人の著作物を批評する場合は、当然その著作物を引き合いに出す必要があるので、「引用の必然性がある」ことになります。

当然ながら、必要性がないのにわざわざ引用するのは不適切です。

② かぎ括弧をつけるなど、自分の著作物と引用部分とが区別されていること

自分の著作物との境界を曖昧にして、引用部分まであたかも自分が書いたように見せるのは許容されません。また区別を曖昧にすると、他人の著作物の趣旨が曲がってしまうことも多いので注意します。

③ 自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること(自分の著作物が主体)

あくまでも自分の著作物がメイン(量的にも、文脈的にも)であり、引用部分はそれを支える役割に留めましょう。引用部分が主になってしまうと、他人の著作物を無断使用していることになりかねません。

④ 出所(出典)の明示がなされていること

引用する著作物の著作者を明確にすると同時に、自分の著作物の読者が、必要に応じて引用元の著作物を参照できるように、出典に関する必要な情報を記載する必要があります。
※「引用元の記載方法」は後述しています。

2.「引用」の3つの大原則

前述の4つの条件を満たせる場合は、他人の著作物を引用することができます。ただし、引用する際には、次の3つの原則を忘れないようにしましょう。

引用の3つの原則

 引用元の文章の趣旨を変えないこと
 信頼できる引用元から引用すること
 引用元の文章の原文にあたって引用すること(孫引きはしない)

以下3つの原則について詳しくみていきたいと思います。

① 引用元の文章の趣旨を変えないこと

引用には「直接引用」と「間接引用」があります。

直接引用  …  引用元の文章を改変せず用いる
間接引用  …  引用元の文章を要約して用いる

引用をする際はできるだけ「直接引用」を行い、引用元の文章を改変せずに使うようにしましょう。

引用したい箇所があまりに長い場合など、やむを得ず「間接引用」をする場合は、引用元の文章の趣旨を変えないよう、慎重に記載する必要があります。

<直接引用の例>

引用部分をかぎ括弧でくくり、引用部分については引用元の文章をそのまま用います。

なお、学術論文では「佐藤は」「佐藤(2022)は」など、引用元の著者に敬称などをつけずに記載するのが通例ですが、ビジネスシーンなどでは違和感のある場合もあるので、「佐藤氏は」などとしてもよいでしょう。

入試問題における文章掲載について、佐藤氏は「できるだけ中略を使わず、原文そのままで掲載するべきである」としている。*

*佐藤弘美『現代文入試の研究』(○○出版社、2022年、P.52

<間接引用の例>

かぎ括弧は用いず、自分の文章として記載します。ただし、自身で要約したり、情報をつなぎ合わせたりした場合も、必ず出典は記載しましょう。

入試問題における文章掲載について、佐藤氏は著書の中で、出題都合の「中略」が原文の趣旨を曲げている場合があるとし、できるだけ原文そのままで掲載するべきだとしている。*

*佐藤弘美『現代文入試の研究』(○○出版社、2022年、P.52-55

② 信頼できる引用元から引用すること

信頼できる引用元から引用することは、自分の著作物の価値を落とさないために重要です。一般に、公的機関の発表した内容や新聞・雑誌など専門の記者が取材して書いた記事、信頼できる著者の著作物、学術論文などは信頼できるソースであるといえます。

一方で、インターネット上の情報は玉石混交であり、特に匿名で書かれたものは信頼性を十分に検証する必要があります。

<引用情報の検索に役立つサイト>

国立国会図書館オンライン

引用に役立つサイト

国立国会図書館オンラインでは、著者名、書籍名、出版社、発行年月はもちろん、論文や雑誌記事などの引用情報を含む資料も検索できます。また「国立国会図書館のWebサービス一覧」からは様々な情報が検索可能なので、引用に関する情報検索にも役立ちます。

レファレンス協同データベース

引用に役立つサイト

レファレンス協同データベースは、全国の図書館等が提供する資料やデジタルコンテンツを統合的に検索できるサイトです。具体的に、図書館で行われた質問・回答サービスの検索、特定のテーマやトピックに関する情報源の調べ方を検索、コレクション情報(蔵書や資料)などを検索することができます。

③ 引用元の文章の原文にあたって引用すること(孫引きはしない)

誰かが引用した文章を、さらに引用する「孫引き」と呼ばれる方法は、引用元の著作物を改変なしに用いているか確認できないまま引用することになる点で問題があります。

誰かが引用した文章を自分も用いたいと思ったときは、必ず出典情報を参考に原文にあたり、自分の目で確かめながら引用しましょう。

3. 引用元の記載方法

他人の著作物を引用する場合の条件として、4つの条件の項目の④で「出所(出典)を明示すること」とあります。

出所(出典)を明示する場合に、文章中にすべての情報を記載してしまうと、文章が読みにくくなることもあるので、一般には注釈の形で出典を記載することが多いです。

<引用例>
※引用箇所は、わかりやすくするために青色にしています。

著作権法で、合理的な引用であれば著作者の許諾がいらないとしているのは、「著作物等を利用しようとするたびごとに,著作権者等の許諾を受け,必要であれば使用料を支払わなければならないとすると,文化的所産である著作物等の公正で円滑な利用が妨げられ,かえって文化の発展に寄与することを目的とする著作権制度の趣旨に反することにもなりかねないため*1であるとされています。

*1:文化庁「著作物が自由に使える場合」https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/
chosakubutsu_jiyu.html(参照2023-6-16)

このように文章中では、かぎ括弧を用いて引用であることを示し、引用元については注釈番号を入れ、欄外などにまとめて出典を記載することが多いです。

また、出典について書くべき情報は、どのような媒体から引用するかによって変わります。実際にどのように出典を記載すればよいのか、引用元の媒体別に紹介します。

① 書籍の引用形式

<引用形式>
著者名『書名』(出版社、出版年、引用ページ)

<具体例>
佐藤弘美『正しい引用の仕方』(○○出版、2011年、P.52

② 雑誌記事の引用形式

<引用形式>
著者名『記事名』(雑誌名、発行年、巻数、号数、引用ページ)*号数は記載がある場合のみ

<具体例>
佐藤弘美『正しい引用の仕方』(月刊○○、2011年、423号、P12-14

③ 新聞記事の引用形式

<引用形式>
署名記事の場合は記者名「記事名」(新聞紙名、発行年月日、朝刊or夕刊、掲載面)

<具体例>
佐藤弘美「AIは人間を超えるか」(○○新聞、2023525日、朝刊、13面)

④ Webサイトの引用形式

<引用形式>
わかれば著者名(わかれば更新日)「記事名」サイト名、閲覧URL(閲覧日)

<具体例>
2023-6-24)「読みやすい文章の書き方の基本[例文で学ぶ10のコツ]」Tokyo校正視点、https://kousei.club/writing-points/(参照2023-5-25

Webサイトの場合は情報が更新されることが多いため、いつ時点の情報なのか、閲覧した日を必ず記載します。

4. NGな引用例

NGな引用1. 引用元の文章の趣旨とは異なる文脈で引用する

先に述べたように、引用においては「引用元の文章の趣旨を変えない」ことが原則とされています。自分の都合のいいように情報を切り取ったり、解釈を誤って引用したりしないように注意しましょう。

【引用元の文章】

2023525日○○新聞の朝刊13面に記載、AI研究の第一人者である佐藤弘美氏が「AIは人間を超えるか」と題した論説記事。

確かに、ChatGPTのような生成AIが人類にとって脅威である面はあろう。例えばAIによって生成されたフェイクニュースが政治や経済に影響を及ぼす事例が見られるようになってきている。しかし、日本として新しい技術をただ忌避するのではなく、有効活用するためのルールを早急に設けて、健全な開発で世界をリードしていくことこそが求められている。

【引用したWeb記事】

人間がコントロールできない生成AIの開発は今すぐストップするべきだ。○○新聞において佐藤弘美氏も「ChatGPTのような生成AIが人類にとって脅威である」*1として警鐘を鳴らしている。

*1 佐藤弘美「AIは人間を超えるか」(○○新聞、2023年5月25日、朝刊、13面)

元の文章を読めば、佐藤氏は生成AIを否定しているのではなく、「ルールを設けて有効活用していくべき」という趣旨の著述をしているとわかります。

しかし、その一部を切り取って自説の補強に使い、あたかも佐藤氏が生成AIに否定的な立場を取っているかのように見せてしまっています。これは引用元の趣旨を変えていることになり、不適切な引用の仕方です。

引用の際には、引用元の文章の内容を十分に理解し、著者の主張を踏まえた上で行うことが大切です。

NGな引用2. 自分の文章よりも引用部分が主になっている

そもそも引用が認められるのは、引用部分よりも自分の文章が主になっていることが条件です。引用部分が主になるような文章は、そもそも引用になっておらず、文章の無断使用と思われても仕方がありません。
※引用箇所は、わかりやすくするために青色にしています。

ドイツは「男性は仕事、女性は家庭という性別に根差した役割意識が強かった*1とされるが、「少子高齢化が進み、いち早く少子化対策に着手し、出生率の向上を達成した*2国であり、「少子化対策の効果が限定的とされる日本の、よい見本になる*3という。

*1~3 「ドイツに学ぶ少子化政策」(○○新聞、2023年4月30日、朝刊、3面)

この文章では、1つの新聞記事からの引用で、文章のほとんどが構成されています。出典をきちんと示しているとはいえ、ここまで引用が主になってしまうと、自分の文章として公開するのは不適切です。

NGな引用3. 引用の引用を行う「孫引き」

文章を引用するときは、必ず原文にあたって引用を行う必要があります。原文の確認なしに、引用部分が含まれる文章をさらに引用するのは適切ではありません。

【引用元の文章】

幼児への早期教育の効果について、佐藤(2002)は「読み書きや計算を早く教えても、そうではない子と比較して将来の成績や学歴に有意な差はなかった」としている。
それに対して、将来の成績や学歴に影響を及ぼす能力とされているのが「非認知能力」である。小山健二『非認知能力とその影響』(△△出版、2020年)

【元の文章だけを見て引用した文章】

幼児への早期教育の効果についてはいくつかの研究結果が明らかになっている。例えば小山健二著の『非認知能力とその影響』(△△出版、2020年)では、佐藤(2002)の研究結果について「読み書きや計算を早く教えても、そうではない子と比較して将来の成績や学歴に有意な差はなかった」と紹介している。

一見問題なさそうに見えますが、元の文章で引用されている文章については、必ず原文(佐藤(2002)とあるもの)を確認したうえで引用しなくてはなりません。「元の文章」だけを見て引用したのであれば「孫引き」にあたり、ルール違反です。

また今回の場合は小山氏の著書を介さずに、佐藤(2002)の論文を直接引用したほうが適切と言えます。

おわりに

他人の著作物を適切に引用すれば、自分の文章の信頼性を向上させたり、内容を充実させたりすることができます。また引用部分に対しての批評を通して、議論の深まりも期待できます。

引用するにあたってのルールを解説しましたが、それ以上に引用する側のモラルが非常に重要になります。他の方が書いた文章を引用する際は、「もし自分の文章だったら、このように引用されて不快な思いをしないだろうか」という視点で振り返りながら、慎重に誠意をもった引用を心掛けましょう。

引用に関するルールのおさらい

<引用の4つの条件>

 他人の著作物を引用する必然性があること
かぎ括弧をつけるなど、自分の著作物と引用部分とが区別されていること
 自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること
 (自分の著作物が主体)
出所(出典)の明示がなされていること

<引用の3つの原則>

 引用元の文章の趣旨を変えないこと
 信頼できる引用元から引用すること
 引用元の文章の原文にあたって引用すること(孫引きはしない)