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「下さい」と「ください」の違いと使い分け[意味を理解し表記揺れを防ぐ]
「下(くだ)さい」は、文章を作成するとき非常によく使用される言葉です。漢字かひらがな、どっちがいいのか一度は迷った経験があるかもしれません。
表記に関して絶対はないので、たとえば、堅い文章だと「漢字」、くだけた文章だと「ひらがな」という考え方もできます。基準をもって使用するのであればどちらの表記で統一しても問題ありませんが、「下(くだ)さい」の意味を掘り下げることで使い分けをすることができます。
この記事では、「下(くだ)さい」の意味、漢字とひらがなの適切な使い分けをわかりやすく紹介しています。
[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]
・公⽤⽂における漢字使⽤等について_文化庁
・記者ハンドブック 第14版_共同通信社
・新明解国語辞典 第八版_三省堂
・明鏡国語辞典 第二版_大修館書店
・デジタル大辞泉_小学館
・広辞苑 第七版_岩波書店
1.「下さい」と「ください」の使い分け
「ください」には、動詞と補助動詞の2つの品詞があります。この品詞の違いにより「漢字」か「ひらがな」の区別ができます。
(※動詞・補助動詞と聞くと難しそうに思うかもしれませんが、使い分けのパターンを後述しているので安心してください)
たとえば、公用文での漢字の使用について定めた内閣訓令「公用文における漢字使用等について」では、「問題点を話してください」のような形のとき、つまり補助動詞のときは、原則としてひらがなで表記するとされています。
また、新聞における用字用語集である『記者ハンドブック 第14版』(共同通信社)でも、動詞の「お手紙を下さい」のような場合は漢字表記、補助動詞の場合はひらがな表記となっています。その他の一般書籍等でも同様の使い分けが見られます。
以下の使い分けになります。
・動詞の場合は、漢字で「下さい」
・補助動詞の場合は、ひらがなで「ください」
・補助動詞とは、本来の意味が薄れて、前の語の補助的な働きをしているものです。公用文をはじめ一般的な文章ではひらがな表記にします。
・補助動詞の一例(通常はひらがな表記)
~ていく (不安が増えて行く)
~ていただく(報告して頂く)
~ておく (通知して置く)
~てくる (寒くなって来る)
~てよい (連絡して良い)
<POINT>
なお、「使い分けが面倒」「単純にどちらかに統一したい」という方は、ひらがなに統一しておくのをおすすめします。
「ください」だけでなく、一般的に補助動詞は「ひらがな」で表記するものです。特にこだわりがないのであれば、ひらがなの「ください」に統一しておくほうが無難です。
また「ください」のような頻繁に使用する言葉を漢字にすると、文章内の漢字の比率が多くなり読み手に堅苦しい印象を与えてしまいます。読み手のストレスを軽減させるためにも、ひらがなに統一しておきましょう。
2.「下さい」と「ください」の辞書での意味
まずは、辞書で「ください」の意味を確認したいと思います。注目したいのは、2つの意味があることです。
1.「くれ」の尊敬語。相手に物や何かを請求する意を表す。ちょうだいしたい。
2.(補助動詞)「お」を伴った動詞の連用形、「ご(御)」を伴った漢語、また、動詞の連用形に接続助詞「て」を添えたものなどに付いて、相手に何かを要望・懇願する意を表す。
【出典:デジタル大辞泉_小学館】
1の意味で使用する場合、動詞扱いとなり漢字にします。「自分に何かを与えてください(くれ)」というときです。
2の意味で使用する場合、補助動詞となりひらがなとなります。「そうしてほしい」「そうしてくれるように相手に依頼する」ときです。
辞書の意味を踏まえ、以下例文を交えて詳しく解説していきます。
3. 動詞の「ください」とは?
• 動詞の「ください」→ 漢字
動詞の「ください」は、「くれ」の尊敬語にあたり、相手に物や何かを請求するときに使います。この「くれ」の尊敬語として使用する「ください」は、漢字表記にします。
尊敬語
水をくれ → 水を下さい ◯ 漢字
水をくれ → 水をください ✕ ひらがな
この動詞の「下さい」は、相手に物や何かを請求するので、
文の形が「○○(対象)を下さい」になることがほとんどです。
・水を下さい
・しばらく時間を下さい
・その本を下さい
・手紙を下さい
・ボールを下さい
「~をください」は、「~を下さい」と漢字にすると理解しておきましょう。
4. 補助動詞の「ください」とは?
• 補助動詞の「ください」→ ひらがな
補助動詞の「ください」は、相手に何かを要望・懇願するときに使う「ください」です。「そうしてほしい」「そうしてくれるように相手に依頼する」という場面で使います。
この意味で使用される「ください」は、ひらがな表記にします。
・お座りください
・ご覧ください
・止めてください
などです。
この補助動詞の「ください」は、次の3つのパターンに分類できます。
A お○○ください
B ご○○ください
C ○○てください
↓
A お○○ください お待ちください
お誘いください
B ご○○ください ご連絡ください
ご協力ください
C ○○てください それを取ってください
意味を教えてください
先に紹介した辞書の意味からも、この3つのパターンになることがわかります。
2.(補助動詞)「お」を伴った動詞の連用形(A)、「ご(御)」を伴った漢語(B)、また、動詞の連用形に接続助詞「て」を添えたもの(C)などに付いて、相手に何かを要望・懇願する意を表す。 ※漢語…字音で読まれる漢字から成る熟語
5「下さい」と「ください」の比較
これまでのまとめになります。両者を対比して表記のルールを覚えましょう。
漢字表記の「下さい」 | ひらがな表記の「ください」 |
動詞の場合 | 補助動詞の場合 |
<使用場面> | <使用場面> |
<文のパターン> | <文のパターン> |
<例文> | <例文> |
6. 動詞と補助動詞の区別の仕方
動詞か補助動詞かを区別する際は、「ください」を削除しても意味が通じるかどうかで考えることもできます。
<動詞>
・時間をください → 時間を
・本をください → 本を
・お返事をください → お返事を
このように意味が通じなくなる場合は動詞です。
<補助動詞>
・通話はお控えください → 通話はお控え
・本を読んでください → 本を読んで
・足元にご注意ください → 足元にご注意
「ください」を削除しても意味が通じる場合は補助動詞です。
以上のようにして動詞と補助動詞を見分けることができます。
おわりに
「下さい」と「ください」は、表記揺れが起こりやすい言葉で注意すべきものの一つです。品詞や意味の違いから「漢字」と「ひらがな」を使い分ける方法があります。また、漢字かひらがなのどちらかに統一するという方法もあります。
どの表記方法を選択しても間違いではありませんが、一冊の書籍内や一つの記事内では表記に統一感を持たせるのが望ましいです。表記ルールが定められているならそれに従えばよいですが、ルールがない場合は上記の説明を参考にしてみてください。