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一人一人、一人ひとり、ひとりひとりの表記の違いと使い分け
「一人一人」「一人ひとり」「ひとりひとり」は、どの表記も文章中でよく見かけますが、表記の違いや使い分けについて悩むことがあるかと思います。
それぞれの意味は、表記による違いはなくすべて同じです。
<意味>
「一人一人」=「 一人ひとり」=「 ひとりひとり」
▼ 辞書では次のように定義されています(『デジタル大辞泉』(小学館))。
1. 多くの中のそれぞれの人。
2. どちらかひとり。だれかひとり。
では、なぜ違う表記がいくつも存在するのか?
以下で詳しく説明していきます。
[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]
・『デジタル大辞泉』(小学館)
・『広辞苑』(岩波書店)
・『コトバンク』>https://kotobank.jp/
・『goo辞書』>https://dictionary.goo.ne.jp/
・大修館書店:漢字文化資料館『漢字Q&A<旧版>』
・『文部科学省 用字用語例』(文部科学省)
日本語の表記について
大前提として、日本語の表記ついては、一般的にこのように表記されるということはあっても、絶対的にこうすべきというルールが存在するわけではありません。そのために公的機関、教育機関、新聞社、出版社では表記ルールを設けています。
公用文だからこの表記じゃないとダメ、ビジネス文書だからこの表記が正しい、というように明確に線引きできるものではありません。あくまでもこの場面ではこの表記が相応しい(望ましい)、もしくは通例となっているというレベルです。
仮に文章の表記ルールが定められているならそのルールが優先されることになります。また慣習的に使用しているのならその表記にならうのが自然です。
複数の表記が生まれる原因
公用文の表記に関しては、古くから変遷が見られますが、比較的新しい資料としては2011年の「文部科学省 用字用語例」(平成23年3月)(平成29年4月一部改定)があります。ここでは、「一人一人」の表記が採用されています。
公用文で「一人一人」の使用が推奨されるのは、この資料が根拠となっています。またこの用字用語例の使用基準が学校教育や各所にも浸透しているケースは多くみられます。
一方、公用文の変遷とは別に、新聞社などでは読みやすさや見た目のバランスを考慮し独自に表記ルールを設けていることがあります。たとえば『朝日新聞の用語の手引』(1994年)では、「一人ひとり(一人一人)」と記載され両方の表記が使用可能とされています。これは新聞が誰にでも理解できる平易な文章であることを第一としているからです。
また複数の表記が生まれている要因として、漢字とひらがなが与える言葉への印象が影響しています。
■ 漢字表記が与える印象
フォーマル、厳格、公式、形式的、儀礼的、かたい響き など
● ひらがな表記が与える印象
カジュアル、やさしい、親しみやすい、距離感を縮める、やわらかい響き など
特に現在においては「ひとりひとり」の表記は、この影響を大きく受けています。
<「一人一人」「一人ひとり」「ひとりひとり」の表記が持つ語感>
■ 一人一人(漢字)
→ フォーマル、厳格、公式、形式的、儀礼的、かたい印象
● ひとりひとり(ひらがな)
→ カジュアル、やさしい、親しみやすい、距離感を縮める、やわらかい印象
◎ 一人ひとり(漢字+ひらがな)
→ フォーマルとカジュアルの中間、バランスが取れた印象
一人一人、一人ひとり、ひとりひとりの使用場面
以上を踏まえ、「一人一人」「一人ひとり」「ひとりひとり」、それぞれに相応しい使用場面をみていきます。
1.「一人一人」
「一人一人」の表記は、前述の『文部科学省 用字用語例』に従ったもので、公用文で使用されることが多いものです。公式な文書やフォーマルな場面でよく使用されます。
漢字表記にすることにより、文書に厳格な印象を与え、公式な文書として威厳を持たせるのに適していると言えます。また行政機関による告知や通知など形式的な文書にも「一人一人」が使用されます。
一方公用文だけでなく、ビジネス文書でも「一人一人」の表記が使用されます。報告書やレポート、資料などでよく見られます。教育機関においても、『文部科学省 用字用語例』の表記の流れを組み「一人一人」とされることがあります。
使用での留意点は、「一人一人」の前後に漢字がつく場合、漢字が連続するため読みやすさを損なう恐れがあることです。
読みやすさを損なってまで表記にこだわるのは読み手への配慮が欠けるので、その場合は類義語への言い換えを検討するのがよいでしょう。
2.「一人ひとり」
「一人ひとり」は、公用文、教育関係、ビジネス、一般的な文章においても幅広い場面で使用されます。
「一人一人」と「ひとりひとり」の中間的な印象を持ち、適度なかたさを保ちつつ柔軟で親しみやすい印象を与えます。
他の二つの表記に比べ、文章全体の統一感を加味して選ばれることが多い表記です。3つの表記でどれがいいかで迷うならこの表記をおすすめします。一番汎用性の高いものです。
3.「ひとりひとり」
「ひとりひとり」は、一般的な文章やカジュアルな文章に適した表記です。
ひらがな表記にすることで、やわらかい印象を与え、親しみやすさが生まれます。親しみを込めたい、距離感を縮めたい場面に相応しい表記です。
学校教育や子ども向けの文章、広告のキャッチコピーなどのわかりやすさを求める場面では「ひとりひとり」の使用が最適と言えます。
使用で気を付けておきたいことは、「ひとりひとり」の前後にひらがなが続く場合です。ひらがなが連続すると、言葉の区切りがわかりづらく読みやすさを損なうケースがあります。また文章内にひらがなが多いと、場合によっては文章がやや稚拙に見えることがあるので、その場合には「一人ひとり」への置き換えを検討してみるといいでしょう。
一人一人、一人ひとり、ひとりひとりの言い換え
「一人一人」「一人ひとり」「ひとりひとり」、どの語感もしっくりこない、表現を変えたい場合には、以下の語で言い換えることができます。
各自/各人/各位/各々/個々/面々/個人個人/めいめい/それぞれ/一人ずつ etc.
たとえば、次のように言い換え可能です。
「一人ひとりが責任感を持つ」→「各自が責任感を持つ」
「ひとりひとりの意見を聞く」→「それぞれの意見を聞く」
おわりに
「一人一人」「一人ひとり」「ひとりひとり」の表記の使用方法に明確な線引きはできませんが、使用場面の傾向はある程度つかむことができます。
公用文では「一人一人」、
ビジネス文書では「一人一人、一人ひとり」、
一般的な文章では「一人ひとり、ひとりひとり」
が多く使用される傾向にあります。