「事」と「こと」の使い分け[漢字にする?ひらがなにする?]
この記事では「事」と「こと」の使い分け方、漢字で書けばいいのか、ひらがなで書けばいいのかをわかりやすく紹介しています。
「事」と「こと」の使い分け基準
ひらがな表記と漢字表記が使い分けられる語のひとつに、「こと」があります。使い分けの基準を説明できるでしょうか。以下の3つの文中の「こと」はどちらの表記が適切か考えてみてください。
1.その話は聞いたことがある。
2.ことの真相を明らかにする。
3.朝は散歩をすることにしている。
1つ目の文中の「こと」は、それ自体はあまり意味を持たず、直前の「聞いた」を受けて「聞いたこと」というひとまとまりの名詞句を作っています。このような語は文法的には「形式名詞」と呼ばれます。3つ目の文中の「こと」も同様に、「散歩をする」を受ける形式名詞です。
それに対し、2つ目の文中の「こと」は「事態・事件」といった具体的な内容を表しているので、形式名詞ではなく普通の名詞です。
一般的に、1つ目や3つ目の文のような形式名詞はひらがな、2つ目の文のような普通の名詞は漢字で表記されます。
▼ まとめると次のようになります。
名 詞 ……「事態・事件」を表す → 漢字で「事」
形式名詞 …… ひとまとまりの名詞句を作る → ひらがなで「こと」
「事」と「こと」の使い分けの練習
前述の例を踏まえて、次の4つの文中の「こと」は漢字とひらがなのどちらが適切でしょうか。
Q
1.ことの起こりは昨日の口論だった。
2.家族のことが心配だ。
3.英語を話すことができる。
4.ことあるごとに文句を言う。
A
1つ目と4つ目の文中の「こと」は、いずれも具体的な事態・事件などを意味しているので普通の名詞であり、漢字で表記するのが適切です。
一方、2つ目の文中の「こと」は、直前の「家族の」を受けており、それ自体には具体的な意味はありません。つまり形式名詞であり、ひらがなで表記するのが適当です。3つ目の文中の「こと」も同じです。
ちなみに、この例文の「~ことができる」のほか、「~ことがある」(冒頭の例文1つ目の「聞いたことがある」など)、「~ことになる」(「困ったことになる」など)といった連語もひらがなで表記されます。
ただし、形式名詞と普通の名詞は明確に区分するのが難しい場面もあります。また「事もあろうに」「事なきを得る」などの「こと」で始まる成句は漢字表記するといった慣例もあります。
おわりに
「事」と「こと」の使い分けで迷った際の指針としては、『明鏡国語辞典(大修館書店)』『記者ハンドブック(共同通信社)』などが役立ちます。文章を書く機会が多い方なら一度手に取ってみることをおすすめします。
『明鏡国語辞典』では、さまざまな「こと」の用法が文法的に分類・整理されており、『記者ハンドブック』には表記例が豊富に載っています。たくさんの用例に触れることで使い分けの原則が理解でき、応用が利くようになっていきます。
「記者ハンドブック」
(一般社団法人共同通信社)