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文章校正でよく見る間違いやすい慣用句9選+α[例文と覚え方のポイント]
慣用句とは、2つ以上の単語を組み合わせ、特定の意味を持つ1つの表現として用いる言葉のことをいいます。
日常会話からビジネスシーンまで様々な場面で使用される慣用句ですが、なんとなくで使ってしまっていることも多いのではないでしょうか。
そこで今回は、文章校正でよく見られる間違いやすい慣用句を中心に、例文や覚え方のポイントを紹介したいと思います。
問題1 的を◯◯
✔ 的を射る
✘ 的を得る
▼ 意味と覚え方
「的を射る(いる)」の意味は、要点を上手につかむことになります。「的を得る(える)」と誤用されることが大変多い慣用句です。
この場合の「的」ですが、弓道などで矢を当てる「的」を頭の中でイメージすると間違いにくくなります。弓で矢を射て、的のど真ん中(話の要点)に当てるシーンを想像してみればわかりやすいです。
「得た」と間違いやすいのは「当を得た(とうをえた)」という似た慣用句があるからだと言われています。「当を得た」は、理にかなっている、要点をきちんと押さえているという意味の言葉です。
【正】 彼の発言は、悔しいけれど「的を射た」指摘だね。
【誤】 彼の発言は、悔しいけれど「的を得た」指摘だね。
問題2 取り付く◯がない
✔ 取り付く島がない
✘ 取り付く暇がない
▼ 意味と覚え方
「取り付く島がない」は、頼りにしたいけれど頼る手がかりがない、もしくは、冷たくつっけんどんな態度を取られたときに使用する慣用句です。「取り付く暇がない」とよく間違って使用されます。
この言葉は、海でたった1人、漂流している自分を想像してみるとわかりやすいです。「どこかの島にたどり着いて助けを求めたいけれど、どこにも島がない……」という絶望的な状況をイメージすると間違いにくくなります。
現代では「忙しい → 暇がない → つっけんどんな返事」というイメージから、「暇がない」という言葉を選んでしまう方が多いのかもしれません。海のイメージで覚えておくと間違いこともありません。
【正】 先輩に仕事の質問をしたけれど、取り付く島もないような冷たい返事をされた。
【誤】 先輩に仕事の質問をしたけれど、取り付く暇もないような冷たい返事をされた。
問題3 二の舞を◯◯
✔ 二の舞を演じる
✘ 二の舞を踏む
▼ 意味と覚え方
「二の舞を演じる」は、他の人がした失敗を繰り返してしまった、もしくは、前と同じ失敗を繰り返してしまったときに使用する慣用句です。「二の舞を踏む」とよく誤用されます。
「二の舞を踏む」という言い回しが浸透してきたため、類語として扱っている書籍も増えてきましたが、現段階では誤用だと考えている方も多いです。「二の舞を演じる」と覚えておいたほうが無難です。
この言葉は、語源を知っていると間違いにくくなります。「二の舞」とは日本の古い舞楽の曲名で、「安摩(あま)の舞」という曲の次に踊られます。「二の舞」は「安摩(あま)の舞」を真似て、おもしろおかしく滑稽に舞う踊りです。
踊りを踊る舞台を想像すれば、「演じる」という言葉が出てきやすくなるはずです。
「踏む」には「二の足を踏む」という似た慣用句があります。こちらは「ためらってしまうこと」「思いきれないこと」を表す言葉です。
【正】 あの時は笑って見ていたけれど、私も結局先輩の二の舞を演じてしまった。
【誤】 あの時は笑って見ていたけれど、私も結局先輩の二の舞を踏んでしまった。
問題4 心血を◯◯
✔ 心血を注ぐ
✘ 心血を傾ける
▼ 意味と覚え方
「心血を注ぐ」は、心身の力を尽くして物事を行うときに使用する慣用句です。「心血を傾ける」とよく誤用されます。
心は精神、血は肉体のことを表します。「心」はわかりにくいかもしれませんが、「血」をイメージすると「血=液体」ですから、「注ぐ」のほうが正解であるとわかります。
「傾ける」と間違いやすいのは「全力を傾ける」、「精魂(せいこん)を傾ける」という似た慣用句があるから言われています。どちらも「心血を注ぐ」とほぼ同じ意味で使われます。
【正】 営業1課はそのプロジェクトに「心血を注いで」いた。
【誤】 営業1課はそのプロジェクトに「心血を傾けて」いた。
問題5 照準を◯◯
✔ 照準を合わせる
✘ 照準を当てる
▼ 意味と覚え方
「照準を合わせる」は、あるもの・ことにねらいを定める、ターゲットにするときに使用する慣用句です。「照準を当てる」とよく誤用されます。
「照準」とは、銃を撃つ際にねらいを定めることです。これだけだと「当てるでもいいのでは?」と考えてしまいたくなりますが、ねらいを定めた後、実際引き金を引いて「当てる」のは銃弾です。
照準はあくまで合わせるだけで当てるのは銃弾、と違いをイメージしておくと間違いにくくなります。
【正】 3月の繁忙期に「照準を合わせて」準備する。
【誤】 3月の繁忙期に「照準を当てて」準備する。
問題6 ◯◯を濁す
✔ 言葉を濁す
✘ 口を濁す
▼ 意味と覚え方
「言葉を濁す」は、曖昧に言う、はっきり言わないときに使用する慣用句です。「口を濁す」とよく誤用されます。
「明らかな誤用とは言えないのではないか?」「近代小説には『口を濁す』という表現を使っているものもある」などの意見も見られる難しい言葉ですが、現状では「言葉を濁す」が正規の表現とされています。こちらを覚えておいたほうが良いでしょう。
「口」を言葉や発言内容の意味で使う慣用句は多々あります。言葉遣いが悪いことを指す「口が悪い」や、言い過ぎた時に使う「口が過ぎる」などです。そのため、「濁すのも口かな?」と思ってしまう方が多いのかもしれません。
「言葉を濁す」だけは特別だとわけて考えることで間違いにくくなります。
【正】 転勤先を尋ねたが先輩は「言葉を濁した」。
【誤】 転勤先を尋ねたが先輩は「口を濁した」。
問題7 明るみに◯◯
✔ 明るみに出る
✘ 明るみになる
▼ 意味と覚え方
「明るみに出る」は、隠していた事実が世間に知られるようになるときに使う言葉です。「明るみになる」とよく誤用されます。
これは「明るみ」の意味を理解しておくと間違いにくくなります。「明るみ」とは「明るいところ=表立ったところ=公の場」の意味です。
公の場に「なる」のはおかしいです。「(隠していたことが)公の場に出される」イメージを持つとわかりやすくなります。
【正】 A社の悪事がとうとう「明るみに出た」。
【誤】 A社の悪事がとうとう「明るみになった」。
問題8 押しも押され◯◯
✔ 押しも押されもせぬ
✘ 押しも押されぬ
▼ 意味と覚え方
「押しも押されもせぬ」は、皆に認められる実力があり、どこへ出ても圧倒されることがないときに使う言葉です。「押しも押されぬ」とよく誤用されます。
「押す」こともなく、他人にいくら「押されて」も全く動かない、堂々と存在する、というイメージを持つと間違いにくくなります。
間違いやすいのは、「押すに押されぬ」という似た慣用句があるからだと言われています。
【正】 彼は押しも押されもせぬ業界の第一人者だ。
【誤】 彼は押しも押されぬ業界の第一人者だ。
問題9 太鼓判◯◯
✔ 太鼓判を押す
✘ 太鼓判付き
▼ 意味と覚え方
「太鼓判を押す」は、人や物について「間違いなく良いものだ」と保証するときに使う言葉です。「太鼓判つき」とよく誤用されます。
「折り紙付き」や「お墨付き」という似た言葉があるため、それと混同する方が多いのではないかと考えられています。3つまとめて覚えておくと間違いにくくなるはずです。
【正】 「B君は営業部でも活躍できる」と、「部長が太鼓判を押した」。
【誤】 「B君は営業部でも活躍できる」と、「部長の太鼓判付き」だ。
+α. その他、間違いやすい慣用句
他にも混同しやすい表現は色々とあります。
<間違いやすい表現の例>
✔ 思いもよらない
✘ 思いもつかない
意味 ⇒ 思いのほかだ。意外である。思いもかけない。
✔ 脚光を浴びる
✘ 脚光を集める
意味 ⇒ 広く世間から注目される。社会の注目の的となる。
✔ 合いの手を入れる
✘ 合いの手を打つ
意味 ⇒ 会話や物事の進行の間にちょっとした調子づけのことばをさしはさむ。
✔ 上前をはねる
✘ 上前をかすめる
意味 ⇒ 取り次いで支払う代金の一部をかすめ取る。ぴんはねをする。
✔ 二の句が継げない
✘ 二の句が出ない
意味 ⇒ 言うべき次のことばが出てこない。
✔ 物議を醸す
✘ 物議を呼ぶ
意味 ⇒ 世間の論議を引き起こす。
✔ 血と汗の結晶
✘ 血と涙の結晶
意味 ⇒ 大変な努力によって得られた結果のこと。
おわりに
慣用句は、元となった言葉のイメージや語源を一緒に覚えておくと、頭に定着しやすく混乱することも減ります。
普段何気なく使っている慣用句でも、改めて意味を調べてみると「間違っていた…」ということがあるかもしれません。ただ、言葉の意味は時代とともに変化します。今は間違いでも数年後には許容となっている慣用句もあるかもしれません。
そのため定期的に辞書で確認する習慣を身に付けておきましょう。