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校正と校閲の違いを徹底解説[作業内容・範囲を例題でわかりやすく紹介]
この記事では、「校正とは何か」「校閲とは何か」「校正と校閲の違い」について辞書の定義やイラスト、例題を用いて解説しています。校正と校閲の定義からだけでなく、実際に例題に触れることで、校正と校閲の違いをより実感できると思います。
校正と校閲、現場レベルでは明確に区別されにくい作業になりますが、定義上は違うものになります。校正と校閲の違いを理解していると、校正を依頼する場合/依頼される場合に相手とのコミュニケーションを円滑にすることができます。
また校正・校閲は、印刷出版業界だけでなく、どの業界や職種でも必要とされる作業です。特に文章を作成する人、情報を発信する立場の人にとっては必要不可欠になってきます。校正と校閲の境界を知ることで、それまで漠然と捉えていた作業にも切り分けができるようになります。
分業や効率化の第一歩となるに違いありません。
[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]
・編集校正小辞典_ダヴィッド社
・日本エディタースクール出版部_新編 校正技術
・小学館_デジタル大辞泉
・漢字辞典オンライン
・Oxford Languages and Google
・weblio_英和辞典・和英辞典
1. 校正とは何か?「校」と「正」の漢字が使われる理由
校正とは何か? その意味や定義は「校正」の漢字を分解すればわかってきます。
① 校正の「校」の意味・「正」の意味
「校」
・音読み … コウ・キョウ
・訓読み … くら(べる)・かんが(える)・かせ・あぜ
「正」
・音読み … セイ・ショウ
・訓読み … ただ(しい)・ただ(す)・まさ
各漢字の訓読みを見れば、
「校」には、
『くらべる・かんがえる』という意味があることがわかります。
※ここでの 『くらべる』 は、「比べる」や「比較する」と同義です。
「正」には、
『ただしい・ただす』の意味があります。
このように「校」の漢字に「くらべる」という意味があることから、校正は見比べる作業といえます。
そこから、校正とは「校(くら)べて、正(ただ)す」と定義できます。
② 校正の語源を探る
「校正」の「校」が「くらべる」の意味を持つようになった語源は、「校」の字の成り立ちからわかります。
「校」の漢字は「木」と「交」でできています。「交」には、まじわる・組み合わさるの意味があり、「木」が(交わって)組み合わさるから、交互に比べるという意味を「校」は持つようになりました。
③ 校正の英語表記は?
▼ 校正を英語で表すと次のようになります。
「校正」⇒ proofreading (プルーフリーディング)
※校閲も「proofreading」に含まれます。
その他校正に関する英語
「校正する」⇒ proofread
「校正者」⇒ proofreader
「校正記号」⇒ proofreader's mark
「校正刷り(ゲラ)」⇒ proof
2. 校正と校閲の意味
前述したように校正と校閲は、定義上は別の作業になります。
校正の定義は、複数の辞書で微妙に解釈の違いがありますが、 Wikipediaの解釈が一番明確でわかりやすいです。(※他の辞書での定義は記事の終わりに記載しています)
① 校正の仕事内容
校正とは、印刷物等の字句や内容、体裁、色彩の誤りや不具合を、あらかじめ修正することをいう。出版にあたっては、印刷に先立って仮刷りを行い、それと原稿の内容を突き合わせ、誤植や体裁上の不備を正す。【出典:Wikipedia_校正】
校正は、原稿を正としてゲラと見比べおかしな点がないかを見つけていく作業です。たとえ文章に誤りがあったしても原稿通りであれば赤字を入れることはありません。その場合は、赤字でなく鉛筆で疑問出しをします。
② 校閲の仕事内容
校正はあくまでも原稿に忠実に印刷されているかどうか確認することを原則としているが、時には著者の書き間違いや勘違いによる誤記を正したり、著者に確認を求めたりすることも必要となる。【出典:Wikipedia_校正】
⇒この部分が校閲の領域と解釈できます。
校閲は、文章の内容にまで踏み込んでが正しいものか確認していきます。その範囲は、誤字脱字、事実確認、適切な文章表現などに加えて、フォーマットの確認や表記ルールの確認なども含まれることがあります。
▼ 校正と校閲を、大まかに定義するなら次のようになります。
校正とは、原稿や訂正指示通りに制作されているかをゲラと見比べて、誤植や不備な点を正すこと。
校閲とは、原稿や印刷物を読んで調べ、誤りや不備などを正すこと。すなわち文章の内容が正しいかを見極めること。
校正作業は原稿通りに忠実に仕上がっているかの確認で、校閲作業は原稿との突き合わせを超えた領域ということになります。
3. 校正と校閲の違い
校正と校閲の作業は、前述したように定義上は分類されますが、
- どこまでが校正の作業か?
- どこからが校閲の作業か?
その境界は、企業や個人・扱う媒体によっても変わってきます。
校正や校閲を専門職とする方は、一括りに「校正者」とよばれることがあります。(※「校閲者」とよばれることもありますが、「校正者」と「校閲者」両者の明確な境界はありません)
また一口に校正者と言っても
- 校正が得意な人
- 校閲が得意な人
- 両方できる人
- 校閲が苦手な人
など、様々なタイプにわかれてきます。
■ 1. 実務レベルで見た場合、校正の領域と校閲の領域は次のようなイメージになります。
校正と校閲作業とで重なり合う部分があり、校正の領域とも校閲の領域ともいえないグレーゾーンが存在します。
グレーゾーンがあるからといって、決して境界が曖昧というわけでもなく、場面によって使い分けていると言ったほうが適切かもしれません。
■ 2. この校正の領域とも校閲の領域ともいえないグレーゾーンは、企業や個人、媒体によっても割合が変わってきます。
■ 3. ただ、完全に校正と校閲の作業領域が重なり合うことはありません。校正と校閲が同じ作業だと思っていたり、両者がごちゃごちゃになっていたりする人は、少し頭の整理が必要です。
■ 4. 校正と校閲を分業している会社、もしくは校正作業だけをしているという会社もあります。
そのため次のようなパターンもあります。(※完全に分かれることはないですが)
この校正と校閲の境界をどこで線を引くは、置かれている環境によって変わってくるので、何が正しくて何が正しくないというわけではありません。
4. 校正と校閲の違い
校正と校閲の境界をどこにするかに正解はありませんが、自分なりの基準を持っておかないとデメリットも多いです。
① 基準を持たないデメリット1
▼ 校正を依頼される側のデメリット(校正管理者・フリーランスの校正者など)
校正という領域がどこまでかを自分なりに明確にしておかないと、
「校正だったらここまでです。ここからが校閲です」と依頼者に説明できなくなります。
第三者に、自分がする作業内容を説明できないのは致命的です。
大枠での分類ができていないと、「これは校正なのか?」「 これは校閲なのか?」という視点もぼやけてきます。この校正物は校閲的要素の多い作業だから、校閲の得意な人に任せるという判断も欠如してきます。
当然、作業項目の細分化やメニュー化もできません。
また項目分けができないと、どの作業から進めるのが効率的かという、作業の優先順位を付けられません。仕事の組み立てができないということになります。
「とりあえず来たものをやる」「言われた通りやる」という考えで仕事に取り組む羽目になってしまいます。
大抵この状況に陥っている人は、見積もりの出し方を見ればわかります。そういう状況下にあると校正に掛かった費用を総額表示で請求してくることが多いです。
② 基準を持たないデメリット2
▼ 校正を依頼する側のデメリット
校正を依頼する側は、校正者と認識を擦り合わせることが大事です。とりあえずは、校正者に基準を聞くのが一番です。
認識にずれがあると、
・思うような仕上がりにならない……
・依頼した内容と違う作業までしている……
といった、品質や時間、予算にかかわる問題が起きます。
たとえば、
「校正」と「校閲」は同じと思っている依頼者と、
「校正」と「校閲」は別と思っている校正者が仕事をする場合
依頼者が「校正お願いします」と依頼した場合、
校正者は、校正作業だけという認識で仕事をします。
結果的に依頼者側からすれば「何で校閲をしてくれなかったの……」という状況になります。
逆に
「校正」と「校閲」は別と思っている依頼者と、
「校正」と「校閲」は同じと思っている校正者が仕事をする場合
依頼者が「校正お願いします」と依頼した場合、
校正者は、校正作業に加えて校閲作業もしてしまうことが考えられます。
結果として「校正作業だけでよかったのに……」となり、想定以上の時間や費用が発生することになります。このパターンはよく見られます。
5. 例題から校正と校閲の境界を探る
① 境界を例文で探る1
校正と校閲の境界を判断する基準がわからないという方向けの例題です。
■ 校正の依頼内容は、突き合わせ校正です。
(※突き合わせ校正とは、原稿の情報が校正ゲラに適切に入っているかの確認)
・手配された原稿類
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1. イラスト原稿
2. テキスト原稿(トルコ語)
3. レイアウト原稿
4. 校正ゲラ
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1と2のイラスト原稿とテキスト原稿の情報が、3のレイアウト原稿の指示通りに、
校正ゲラに入っているかどうかの確認です。シンプルな校正作業です。
1. イラスト原稿
2. テキスト原稿(トルコ語)
3. レイアウト指示原稿
▼ 完成ゲラ
特に問題はありません。
イラストもキャプションも、レイアウト原稿の指示通り指定の位置に配置されています。
[補足]
上記の校正作業を、仕事としてするのであれば、単純にイラストとテキストだけを確認すればいいというわけではありません。
■ 校正の見るポイントは次のようになります。
・イラストやキャプションのバランス(※ここでは左ソロエ)
・イラストの欠け
・男の子と女の子のイラストのサイズ感
・イラストとキャプションとのアキ
・キャプションのフォントや級数
・周囲に適切な余白の確保
など、簡単な校正に思えても意外と確認すべき箇所は多くあります。
② 境界を例文で探る2
続いて、上記のトルコ語を日本語へ翻訳したものを作成することになったとします。
イラストやレイアウトもすべて同じです。違う点は、キャプションがトルコ語から日本語へ翻訳されたところだけです。
-----------------------------
1. イラスト原稿
2. テキスト原稿(日本語)
3. レイアウト原稿
4. 校正ゲラ
-----------------------------
校正の依頼内容は、トルコ語と同じで突き合わせ校正です。
1. イラスト原稿
2. テキスト原稿(トルコ語の翻訳)
3. レイアウト指示原稿
▼ 完成ゲラ
ここで、トルコ語ではわからなかったけど、日本語を見ておかしな点に気づいたと思います。
キャプションとイラストが対応していません。逆になっています。
同じ突き合わせ校正の依頼で、原稿通りに収まっているかの確認でしたが、日本語になるとおかしなところに気づいてしまいます。
キャプションが逆という以外にも、
「男の子のイラストは本当に手紙を書いているイラストなの? 」という疑問がわく方もいるかもしれません。
キャプションの内容についても、
「男の子」と「少女」の表記でなく、「男の子」の表記にあわせて「少女」を『女の子』にしたほうがいいかも。逆に「少女」にあわせて「男の子」を『少年』したほうがいいという意見が出てくるかもしれません。
もしくは、
男とか女ではなく「子ども」でいいのではないか?
そうなると、「子ども」の「ども」は、ひらく? とじる?
でも「子ども」にすれば、2つのキャプションが全く同じになってしまう……
などなど、色々なところに考えが及びます。
日本語だと読もうと意識しなくても勝手に頭が理解してしまうために気づく点が出てきます。
このようにトルコ語と日本語の校正では、同じ依頼内容でも校正する深さが変わってきます。
ここから一つの基準が見えてくると思います。
トルコ語を校正したときと日本語を校正をしたときの「差」です。
日本語版で、文章の内容を理解して、そこから見えてきた部分です。
この差(超えた部分)が、校閲の領域だといえます。
この部分が曖昧になっていることが多いですが、校正とは違います。
③ 校正と校閲の境界
トルコ語の校正と日本語の校正とで違った点といえば、文章を読んだことです。
※ここでの「読む」は「理解する」という意味も含んでいます。
そこで、校正と校閲をわける基準としては
- 文章を読むか
- 文章を読まないか
を一つの基準とすることができます。
校正と校閲の作業がごっちゃになっている人は、
トルコ語は、内容を理解できないから校正の範囲はここまで
日本語は、内容を理解できるから校正の範囲はここまで
という状況になりがちです。
内容を理解できるかできないかによって作業範囲が変わってくるのは基準がないという証拠です。校正はここまで、ここからが校閲という基準は、どんな言語であろうと変わりありません。
さらに、「文章を読む・読まない」を言い換えると
- 文字を読まくても出来る作業が校正
- 文字を読まないと出来ない作業が校閲
※ここでの「読む」は「理解する」という意味も含んでいます。
これを踏まえて、前述のWikipediaの解説を読むとさらに理解が深まると思います。
あくまでも一つの指標です。判断基準がわからないという方は、この辺りをベースとして持っておくといいと思います。自分なりの基準を持っていくと、それをベースに考えることができるので頭の中も整理しやすくなります。
おそらく、校正と校閲がごっちゃになっている人は、知識がたくさんあって整理できていないだけです。一つ軸を持つだけで頭の中をすっきりできるはずです。
6. 各辞書での校正の意味・定義
Wikipedia以外の辞書での校正の意味・定義です。
校正と校閲の境界を見つけるよりも、校正から一歩踏み込んだ作業を校閲とするほうが理解が早いかもしれません。
● 小学館 デジタル大辞泉
1.文字・文章を比べ合わせ、誤りを正すこと。
2.印刷物の仮刷りと原稿を照合し、誤植や体裁の誤りを正すこと。
■ 三省堂 大辞林 第三版
1.くらべ合わせて、文字の誤りを正すこと。
2.校正刷りと原稿とを照合するなどして文字や内容の誤りを正し、体裁を整えること。版下や原画との照合についてもいう。
■ 精選版 日本国語大辞典
1.文字、文章をくらべあわせ、誤りを正すこと。
2.印刷物を印刷する前の過程で校正刷りを原稿に照らし合わせて、誤りを正すこと。
■ 図書館情報学用語辞典 第4版
印刷物と原稿を比較して、文字の誤りや組み方の不備、色具合などを点検し、著作者の意図した通りにできているかどうかをチェックする作業。(中略)活字が介在手段であれば、原稿通りに活字を拾っているかとか、絵画の複製であれば、オリジナルの色調がうまく再現されているかとかが問題となる。
■ 百科事典マイペディア
比べあわせて訂正すること。ふつうは印刷工程の一つを指す。活版印刷や写真植字の工程で仮刷り(校正刷り、ゲラ刷り)と原稿を照合し、誤植や組み誤り、脱落、伏字、体裁の不備、またカラー印刷では色の調子などを点検し、改めること。
おわりに
定義上は、校正と校閲の作業はわかれますが、大抵はその垣根がなくなり校正といえば、校正と校閲の両方の作業をすることもあります。
企業や個人によって、その違いにどこで線引きするか大きな差があるのが現状です。
校正者が数人しかいない企業では、必然と校正と校閲の両方の作業をやることになります。校正を依頼されたときに「校正お願いします」といわれたとしても、校閲作業も込みということがあります。
もし仕事を受ける立場であるなら、校正の作業内容(校閲も込みなのか?)はきちんと詰めておかないといけません。作業内容にズレが生じる原因となります。
※文章中のトルコ語は、「excite翻訳」「Google翻訳」を参考に作成したものです。