
一度は読み間違える!? 同じ漢字で読み方と意味が違う『同形異義語』
日本語には、同じ漢字で書かれていても、読み方や意味が異なる言葉があります。たとえば、次に「人気」という言葉を使った2つの文があります。
① この道は夜になると人気がない。
② あの店はあまり人気がない。
どちらも「人気」を使っていますが、文脈によって読み方が変わり、意味合いも異なります。
① この道は夜になると人気(ひとけ)がない。
→ 夜になると、この道には人の気配がなく、誰もいない感じがする。
② あの店はあまり人気(にんき)がない。
→ あの店はあまり人に好かれておらず、あまり行く人がいない。
このように、見た目は同じ表記でも文脈によって読み方や意味が変わる言葉は「同形異義語(どうけいいぎご)」と言われます。日本語において同形異義語は非常に多くありますが、この記事ではビジネスシーンでよく見かける表現に絞って紹介しています。
[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]
・『デジタル大辞泉』(小学館)
・『精選版 日本国語大辞典』(小学館)
・『新明解国語辞典 第八版』(三省堂)
・『広辞苑 第七版』(岩波書店)
・『コトバンク』(https://kotobank.jp/)
ビジネスシーンで使用される『同形異義語』の例
人事(じんじ・ひとごと)
・じんじ(組織上の人材配置)
例:新年度の人事異動が発表された。
・ひとごと(他人事)
例:この課題を人事として済ませてはいけない。
今日(きょう・こんにち)
・きょう(当日)
例:今日は14時からクライアントとの打ち合わせがあります。
・こんにち(現代、このごろ)
例:今日のビジネス環境は変化のスピードが速い。
一日(いちにち・ついたち)
・いちにち(一日間)
例:一日中、社内会議に追われていた。
・ついたち(月の初日)
例:来月の一日は全社朝礼があります。
一時(いちじ・ひととき)
・いちじ(短時間)
例:この件は一時保留にして、全員の意見を集約しましょう。
・ひととき(束の間の時間)
例:新規開拓部隊との懇親会で、ひとときを楽しく過ごしました。
一度(いちど・ひとたび)
・いちど(一回)
例:この報告書は、一度部長に目を通してもらってください。
・ひとたび(一旦〜すると)
例:一度信頼を失うと、回復には時間がかかる。
一行(いっこう・いちぎょう)
・いっこう(集団・一団)
例:商談のため、取引先一行が本社に来訪された。
・いちぎょう(文章などの1行)
例:報告書の冒頭に、一行で結論を明記してください。
上手(じょうず・うわて)
・じょうず(技術がある、うまい)
例:彼は資料作成が上手で、いつもわかりやすいプレゼン資料を作る。
・うわて(相手よりも立場・技術が上)
例:交渉では相手の方が一枚上手だった。
下手(へた・しもて)
・へた(うまくない、不得意)
例:私はまだ営業トークが下手なので、先輩のロールプレイを見て学んでいる。
・しもて(舞台の右側(観客から見て左側))
例:イベントの司会者は下手側から登場した。
市場(しじょう・いちば)
・しじょう(経済活動の場)
例:人材市場の動向を分析している。
・いちば(実店舗の市場)
例:早朝に築地の市場を視察した。
大勢(おおぜい・たいせい)
・おおぜい(人数が多い)
例:セミナーには大勢の参加者が集まった。
・たいせい(物事の成り行き)
例:交渉の大勢が見えてきた段階で、方向性を調整した。
分別(ふんべつ・ぶんべつ)
・ふんべつ(判断力)
例:分別ある対応を求められる場面だった。
・ぶんべつ(仕分け)
例:書類を種類ごとに分別して保管してください。
角(かど・つの)
・かど(建物や道の折れる部分)
例:ビルの角にあるカフェで商談を行う予定です。
・つの(動物の角)
例:デザイン案に使われたロゴは、鹿の角をモチーフにしている。
見物(けんぶつ・みもの)
・けんぶつ(見学)
例:新工場のラインを見物させていただきました。
・みもの(見ごたえ)
例:このチームの連携は見物だ。
気質(きしつ・かたぎ)
・きしつ(性格・体質)
例:彼は慎重な気質で、リスク管理に向いている。
・かたぎ(特定の性分・立場)
例:職人気質の社員が多く、品質へのこだわりが強い。
空(から・そら)
・から(中身がない)
例:このファイルは空ですので、内容を確認の上アップロードしてください。
・そら(大気)
例:朝の通勤途中に空を見上げてリフレッシュする。
心中(しんちゅう・しんじゅう)
・しんちゅう(心の中)
例:心中お察しします。
・しんじゅう(共に死ぬこと)
例:ニュースで心中事件が取り上げられていた。
大家(たいか・おおや)
・たいか(専門分野での権威)
例:この分野の大家に講演を依頼しました。
・おおや(家の貸主)
例:社宅の契約更新について大家と相談が必要です。
生物(なまもの・せいぶつ)
・なまもの(火を通していない食品)
例:店内へ生物の持ち込みはご遠慮ください。
・せいぶつ(生き物)
例:この分野では生物の仕組みを応用した技術が注目されている。
おわりに
同じ漢字でも、使われる場面によって読み方や意味が変わることがあります。ほんの一語の読み間違いが、文章全体の意味を大きく変えてしまうこともあります。
こうした言葉は、ビジネス文書の中にも意外と多く登場します。最初は読み間違えることがあるかもしれませんが、実例に触れながら少しずつ慣れていくことで、読み取る力が確実に高まっていきます。
文章を正しく理解するには、「この言葉は、ここではどう読むのが自然か?」と文脈から瞬時に判断する力も大切です。そのためにも、前後の意味の流れをしっかり意識しましょう。
読み間違いによる誤解を防ぐためには、よく目にする言葉ほど「正しく読む」意識を持ち、日ごろから注意深く読む習慣をつけておきましょう。