地図の校正をするときの手順とポイント

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地図の校正をするときの手順とポイント

地図を校正するにあたっては、確認すべきポイントが多数あります。一度にまとめてチェックしようとすると漏れが生じるので、ひとつずつ確実に押さえることが重要です。

この記事では、地図の校正におけるチェックポイントや留意すべき点について解説します。 

[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]

・国土交通省_国土地理院
百科事典マイペディア_平凡社

・日本大百科全書(ニッポニカ)_小学館 「ペトログラード」
・ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コルカタ」
・外務省ホームページ「ウクライナの首都等の呼称の変更」

1. 地図を確認する資料の見つけ方

地図の校正作業は大部分が事実確認(ファクトチェック)なので、まずは資料として使える地図が必要です。元となった地図があるかクライアントに確認し、あればそれと照合すればよいですが、なければ校正者側で地図の確認に使う適切な資料を探さなければなりません。

現代の一般的な地図であれば、帝国書院等から出版されている地図帳グーグルマップを利用すればよいでしょう。

そうではない地図、たとえば「古代ローマ帝国の最大版図」のような過去の地図、「日本の方言の分布」のような特定の要素を強調して描いた主題図などの場合は、適切な資料を見つけるのに手間取るかもしれません。

歴史的な地図に関しては、『山川 詳説日本史図録』『山川 詳説世界史図録』(ともに山川出版社)、『標準日本史地図』『標準世界史地図』(ともに吉川弘文館)などが有用です。

主題図については、地図のタイトル(「日本の方言の分布」など)で画像検索し、似た地図を探してその出典にあたるとスムーズに調べられる場合があります。

※主題図…主題図とは、特定の目的のため,必要な要素を絞り込んで意図的に表現した図のこと。汎用性はないが,限られた事柄を分かりやすく伝えるのに適しており,学術・研究分野以外でも広く利用されている。

実際の主題図は、国土交通省_国土地理院のHPでご覧いただけます。

地図の校正
 国土交通省_国土地理院「主題図」
 https://www.gsi.go.jp/kikaku/index.html

2. 地名の確認

地図中の地名については、名称が正しいか・位置が適切かを確認します。

位置に関しては、周辺の地名や国境線・河川の流路・海岸線などと見比べながら、相対的な位置関係としてチェックすると判断しやすいです。

 

過去の地図の場合は、その時代の状況に沿っているかどうかにも注意しましょう。たとえば「1915年のロシア」という地図に「サンクトペテルブルク」という表記が使われている場合、1914~1924年の間の名称である「ペトログラード」とする指摘が必要です。また「18世紀のインド」という地図で首都がデリーになっている場合は、17721911年までは首都はカルカッタ(現在のコルカタ)であった旨を指摘します。

現代の地図であっても、地名の表記は時代によって変わりうることを認識しておく必要があります。たとえば、ウクライナの首都は従来は「キエフ」と表記されていましたが、2022年3月に政府が「キーウ」と表記する方針を定めました。表記が切り替わって間もない時期は特に、制作側にとっても従来の表記のほうが馴染み深いため、古い表記のままになっていることがあります。

地図の校正に限ったことではありませんが、時事問題に対するアンテナを張っておくようにしましょう。

3. 境界線類の確認

国境・都道府県境・市町村境などの線が描かれている場合は、正しい位置に引かれているかチェックが必要です。

確認できた部分を色鉛筆などでなぞるようにすると、どこまで確認したかわかりやすくなり、漏れも防げるためおすすめです。海岸線や河川の流路についても同様に確認します。

 

4. 体裁の確認

体裁については、同じカテゴリーのものが同じ体裁で描かれているかに特に注意します。

<フォントや級数>
国名、州名、都市名などのそれぞれについて、フォントや級数などがそろっているか

<地図記号>
位置を示すマークの形が使い分けられている(首都は二重丸、その他の都市は一重丸など)なら、全体がその法則に沿っているか
【参考:国土交通省_国土地理院『地図記号一覧』】

<線の体裁>
国境、都道府県境、市町村境などの線の体裁(実線・破線などの線の種類、色、太さなど)はそれぞれそろっているか

地図の校正
【出典:国土交通省_国土地理院『地図記号一覧_行政界』】

地図内での法則から外れているものがあった場合は、その不統一が意図的なものかどうか考えます。その地図の中で特に重要な地名のみ級数を大きくしているなど、使い分けの意図が見られるなら、ママとしてその旨を申し送りするのみでもよいです。意図が読み取れない場合は統一漏れの可能性があるので、指摘を出しましょう。

5. 本文との対応 

ほとんどの場合、地図は本文とあわせて参照することが想定されています。地名の表記が本文と違っていると読者を混乱させる可能性があるため、本文との対応のチェックも重要です。本文と地図で表記が異なっている場合は、基本的には本文に合わせる指摘を出すのがよいでしょう。

日本の地名については表記がばらつくことは少ないですが、カタカナの地名には注意が必要です。特にばらつきやすいものとしては、「ノースカロライナ州/ノース・カロライナ州」のような中黒を含む地名、「ベネチア/ヴェネチア/ヴェネツィア」のように複数のカタカナ表記が使われている地名などがあります。

地図の校正  地図の校正

おわりに

以上のように、地図を校正するにはさまざまな角度からのチェックが必要で、相当の時間と労力がかかります。ただし実際に作業をしてみないとそれが実感しづらいため、校正時間の認識がクライアントと食い違うケースが少なくありません。

ゲラの中に複雑な地図が含まれていたり、複数の地図があったりする場合は、予定の校正期間・予算内で作業が終わるかどうか検討し、難しそうなときは早めにクライアントに相談しましょう。