
目次
読み合わせの意味
「読み合わせ」と聞けば、映画やドラマの役者さん達が台本を読み合い、稽古するイメージが強いかもしれません。ですが、校正にも読み合わせという校正方法があります。
読み合わせ校正は、何も校正者だけでなく色々なビジネスの場面で使われています。
三省堂の大辞林で調べると、一番目に読み合わせ校正のことが説明されています。
『三省堂 大辞林 第三版』より
■よみあわせ
①読み合わせて校合(きょうごう)すること。 「 -校正」
②演劇の稽古で,俳優が脚本の各自の持ち場を互いに読み合い,台詞(せりふ)のやりとりをすること。
■きょうごう
写本・印刷物の文字や記載事項を、基準となる本や原稿と照らし合わせてその異同を知ること。また、それによって訂正したり相違を書き記したりすること
1.読み合わせ校正の基本的なやり方
読み手(原稿を読む側)と聞き手(校正ゲラを確認する側)の2人がペアになって確認作業をしていきます。読み手が原稿を読み、聞き手は読み手の音読に合わせて、校正ゲラを確認していきます。
簡単そうに聞こえますが、読み手には非常に高いスキルが要求されます。校正初心者には向いていない作業です。読み合わせ校正をするにあたっては、同音異義語・間違いやすい漢字や送り仮名・表記ルールなどを知っておかないといけません。
それらを知らないで読み合わせ校正をすると、作業効率が悪いばかりか、間違いだらけになる恐れがあります。
2.読み合わせ校正の具体的なやり方
テキスト原稿を、オペレータが手入力したとします。それを、読み合わせ校正で確認していくやり方を説明したいと思います。用意するものは、元のテキスト原稿と校正ゲラです。
原稿を読むのが、Aさん、
校正ゲラを確認するのが、Bさんとします。
▼ Aさんが読むテキスト原稿
1.柱枠の組立て
ベースプレートを取り付けた支柱2本を、向かい合わせに床に置き、中棚受をはめ込みます。
最下段は下から2つ目と3つ目の角孔にはめ込んでください。
▼ Bさんが確認する校正ゲラ
1.柱枠の組立て
ベースプレ-トを取り付けた支柱2本を、向かい合わせに床に置き、中棚受をはめ込みます。
最下段は下から2つ目と3つ目の角孔にはめ込んでください。
※赤字のところは、オペレータが「音引き」を「ダーシ」に入力間違いしたところです。
上記の文の下線部文を「読み合わせ校正」で確認していきます。
▼ Aさんの音読
「すうじのいち。ぴりおど。はしらわくの。くみたて。くみたてのおくりがなは、てのみ。かいぎょう。かたかなで、べーーすぷれーーと。をとりつけた。しちゅう。すうじのに。ほんを。どくてん」
というようになります。
このAさんの音読に合わせて、Bさんは校正ゲラを確認していきます。
【Aさんの音読:下線部分の解説】
(1) 組立て → くみたて。くみたてのおくりがなは、てのみ
※送り仮名はバラつきが起こりやすいので、送り仮名が何であるかを明確に伝える必要があります。
(2) ベースプレート → べーーすぷれーーと
※音引きは、拗音と誤解されないよう意図的に長く発音します。
(3) 取り付け → とりつけ
※本来なら(1)の「組立て」のように送り仮名の説明が必要ですが、ここでは「とりつけ」と言うだけで送り仮名が何であるかを、あらかじめルール決めしています。
どのようなルール決めかは次のようになります。
・「取り付け」なら「とりつけ」と読む。
・「取付」なら「とりふ」と読む。
・「取付け」なら「とりふ。おくりがなのけ」と読む。
このように、読み合わせ校正はあらかじめルール決めしておかないと、非常に時間が掛かり非効率なものになります。
※ルールは、会社や媒体独自で決めているため、上記の方法以外にもやり方はあります。
3.読み合わせ校正の注意点とポイント
▼ 注意点
・読み手の音読するスピードは、普通に話すよりもやや遅いぐらいのスピードのため、読み手と聞き手の阿吽の呼吸が必要になってきます。
・読み手は、聞き手に伝わるように、言葉だけで漢字の送り仮名など、文字情報の全てを説明しなくてはいけません。間違えそうな文字が出てくれば、それを咄嗟に判断して、聞き手に伝わるように説明する必要があります。
・太字や斜体、級数など、文字の体裁までは伝えません。
ただ、下のように文章内で強調されている文字に関しては、読んで教えてあげた方が親切です。
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・あらかじめ細かなルール決めが必要。ルールがない読み合わせ校正は非常に効率が悪くなってきます。
▼ 聞き手側の注意点
聞き手だからといって、単にゲラを目で追って確認だけしていればいいわけではありません。間違いやすい送り仮名などがあれば「この送り仮名は?」と聞く必要もでてきます。読み手が、読み間違えることも十分考えられます。
例文では、「ベースプレート」の音引きが「ハイフン」になっています。これは、原稿だけを見ている読み手のAさんには絶対にわかりません。Bさんが見つけるしかありません。
このように、読み合わせ校正は、読む/聞く(確認)だけでなく、非常に高度な技術を要します。そのため、用語が統一されている媒体や、比較的難易度の低いものに限定されてきます。
※上記の例文は、読み合わせ校正には不向きな部類なものになります。
▼ 読み合わせ校正のポイント
1.読み手には、非常に高いスキルが要求される
2.聞き手だけにしか、見つけられない間違いがある
3.校正する媒体を選ぶ
■ 日本エディタースクール出版部『実例 校正教室』でも読み合わせ校正の難しさが以下のように記されています。
【出典:日本エディタースクール出版部_実例 校正教室 P.20】
4.読み合わせ校正の巧みなテクニック
上記の「取付」を「とりふ」と読むのは、読み合わせ校正をスムーズに進めるためと、送り仮名の有無を一発で聞き手に伝えるためのテクニックです。その他のものとして以下のようなものがあげられます。
(1)「ください」と「下さい」
読み手が「ください」とだけ言うと、聞き手は「下」の字が漢字かひらがなか判断がつきません。
この場合、「ください」は「ください」と読み、「下さい」は「したさい」と読み分けます。
※「下さい」の場合に、「かんじでください」と言ってもいいですが、頻繁に出てくるバラつきやすい用語は、ルール決めをしておいた方が効率がよいです。
(2)間違いやすい漢字の場合
〇加湿器 ×加湿機
この場合の読み方としては、「かしつうつわ」と読むことで「器」と「機」の違いを聞き手に伝えます。これも、間違えやすい漢字を相手にどう伝えればよいかという、読み手の技量が試されます。
〇乾電池 ×乾電地
「かんでんいけ」と読んだりします。
このような間違いはレアなケースですが、混同しやすい漢字などは、あえて読み方を変えて工夫します。そのため、起こりやすい間違いや使用頻度の高い用語などの蓄積が必要になってきます。
(3)数字
「0000071」
読み方としては、「ぜろ、ぜろ、ぜろ、ぜろ、ぜろ、しち、いち」ではなく、
「すうじのぜろがごこ、なな、いち」と読んだ方が聞き手に伝わりやすいです。
ここでの読み手のポイントは、次のようになります。
・数字の「0」とアルファベットの「O(おー)」との違いを伝えること
・連続する数字を読み手が見間違わないよう、その個数を伝えること
・「7(しち)」と「1(いち)」だと聞き間違いやすいので「7(なな)」と「1(いち)」と伝えてあげること
(4)アルファベット
「B」を「ビー」、「D」を「ディー」と読むと聞き間違いが起こりやすいです。
「D(ディー)」と「T(ティー)」もです。
そのため、以下のような読み分けが必要になってきます。
「B」 ⇒ 「ビー」
「D」 ⇒ 「デー」
「T」 ⇒ 「テー」
余談ですが、海外映画などでアルファベットを伝えるのに、単語の頭文字を取って伝える場面はよく見られます。
「A」を、アルファの「えー」
「B」を、ブラボーの「びー」
「C」を、チャーリーの「しー」
「D」を、デルタの「でぃー」
「E」を、エコーの「いー」
【参照サイト:Wikipedia『通話表』】
(5)記号類
「」、『』、()、<>、【】のような、文章中に頻繁に出てくる記号も明確に言える必要があります。
・「」 かっこ かっことじ
・『』 にじゅう(かぎ)かっこ かっことじ
・<> やまかっこ かっことじ
・【】 すみつきかっこ かっことじ
・() ぱーれん ぱーれんとじ
※読み合わせの場合、とじのかっこは、正式名称を言わなくても「かっことじ」に簡略化します。
5.読み合わせ校正の効果
前述したように、読み合わせ校正には、校正者が2人必要になります。また、読み手には高い校正のスキルが必要になってきます。さらに、読み手/聞き手同士で、決められたルールを共通認識として持っておく必要があります。
時間や精度の面では、正確な計測ではありませんが、一人での校正に掛かる時間を100とすれば、読み合わせでの校正は、40~60ぐらいの時間ですむ感じです。
ただ、これも条件により左右されることが大きく、校正者のスキルにより時間のバラつきも大きくなります。精度の面でも、校正者の経験値次第ということになってきます。
そのため、一人で校正するのと、二人で読み合わせ校正するのとでは、どちらが効率的かは明確に言えないところです。
読み合わせ校正のまとめ
読み合わせ校正のデメリットとして、
・校正者が必ず2人いる
・事前のルール決めが必要
・精度が不明
などがあげられます。
読み合わせ校正に慣れた人を確保でき、人手を掛けられるというのであれば、メリットも大いにあります。
ですが、現状を考えれば、人手やルール決め・媒体を選ぶ・経験値が必要ということからして「読み合わせ校正」の技術は、廃れ行くものとなっていくかもしれません。
※ここでの例は、校正者がする読み合わせ校正を述べたものです。他の職種の方がする読み合わせ校正は、この限りではありません。