文章校正問題:校閲技術を高める[たくさんの間違いに触れる]
校正・校閲の技術力を高めるには、たくさんの間違いに触れることが大切になってきます。
実際に自分で間違いを見つけるだけでなく、他の校正者が見つけた間違いや参考書、練習問題で紹介されている間違いを見ることも重要です。
色々な間違いに接することで間違いを発見する力を身に付けることができます。
1:練習問題
今回の練習問題は、ファッション雑誌『InRed(宝島社)』からの出題になります。
北欧デザインを通してライフスタイルを提供するブランド「kippis(キッピス)」の育児支援の取り組みを紹介した記事です。
▼ 次の誌面の赤枠部分からの出題です。
【出典:宝島社 InRed 3月号_P.90 ※一部を改変しての出題になります】
・kippis ACTION FOR CHILDREN > 公式サイト
・北海道上川郡東川町 > 公式ホームページ
問題文
Q 文章を読んでおかしいと思う箇所を考えてみてください。
(※数値や英語のスペル、表記揺れの間違いはありません)
皆さんは「ベビーボックス(育児支援パッケージ)」をご存じでしょうか? フィンランドでは、子どもが生まれると育児にすぐ必要となるアイテム(しかも、おしゃれ!)の詰め合わせが無償で贈られます。これがベビーボックスで、北欧の手厚い福祉制度の象徴として、世界的にも評価されています。
北欧の文化やライフスタイルを伝えることと大切にしているキッピスでは、昨年5月に「kippis ACTION FOR CHILDREN」をスタート。その思いがついに形となり、来年1月から北海道上川郡東川町(以下、東川町)で「kippisベビーボックス」の寄付が始まりました。
これまで多くのブランドやメーカーとコラボレーションしてきたネットワークを生かし、14点の赤ちゃんとママ・パパ向けアイテムを詰め合わせました。この取り組みを行っている上川郡東川町は、“町で子どもを育てる”という北欧的な価値観と、デザインを重視した子育て支援が移住者の増加に結び付いていることから、地方創生のモデルケースともいうべき町。
この25年ほどで人口約20%増、子どもは約1.6倍増加というのも驚きですが、さまざまな試作においてデザインを重視しているのも特長で、“まるで北欧という声も。北欧のライフスタイルに学び、デザインで暮らしを明るくキッピスのこれからの取り組みにも、ぜひ注目してください。
2:解答&解説
解答&解説
❶
[問題文]
[答え]※誌面掲載文
ここでのポイントは、問題文の「贈られます」を読んで「誰から贈られる?」「どこから贈られる?」と疑問に思えるかどうかです。
実際の誌面では「政府から」と入りますが、この問題文だけでは判断できないため疑問出しで対処しておくのが適切です。
校閲をするときには、書き手の目線と読み手の目線の両方が必要になってきます。
文章の書き手になると、何度もその情報を目にしているため周知の事実だと思い込み、語句を省略してしまうことがあります。それがときに読み手の文章理解を損なうことになります。
このようなことは語句の省略だけでなく、専門用語や略語などでも起こります。読み手の立場を考えて、情報を補足したほうがいいかどうかの判断も校閲では必要になってきます。
❷
[問題文]
[答え]※誌面掲載文
ひらがなに関する間違いです。
難しい漢字や表現などは誰もが注意して確認しますが、ひらがな部分はうっかり読み流されてしまうことがあります。
❸
[問題文]
[答え]※誌面掲載文
時間の関係性がおかしいです。
文章が入れ子構造になっていたり一つの文が長かったりすると、文頭と文末が対応しない間違いが起こりやすいです。
制作時期と発行時期が年をまたぐもの、たとえば2022年制作で発行が2023年といった場合にもよく起こる間違いです。
※問題文の「来年1月」を正とした場合、他の文と整合性がとれなくなります。そこから「始まりました」が間違いというよりも、「来年1月」が間違っている可能性が高いと判断できます。
❹
[問題文]
[答え]※誌面掲載文
問題文では「以下、東川町」となっていますが、次の段では「上川郡東川町」となっています。
このような間違いは、文章が新しく追加された場合によく起こります。新規で文が追加された場合には、該当部分だけでなく全体も確認する必要が出てきます。
追加された文と、元の文とで表記揺れが発生することはよくあります。
❺
[問題文]
[答え]※誌面掲載文
同音異義語の間違いです。
同音異義語は使い分けの間違いも多いですが、単純な変換ミスもよく見られます。
問題文では、内容からして「施策(しさく)」が適切です。
「施策」… 政策・対策を立てて、それを実地に行うこと
「試作」… 本式に作る前に、ためしに作ってみること
※施策は、慣用読みで「せさく」ともいわれます。
❻
[問題文]
[答え]※誌面掲載文
起こしと受けのダブルコーテーションマークが対応していません。
カッコ類は、文字を読むことばかりに集中しているとつい見落としてしまうことがあります。特にカッコが多用されている文章は要注意です。
ただ、カッコ類のどちらか一方が足りないという間違いは、現在ではデジタル校正ツールで簡単に見つけることができます。
❼
[問題文]
[答え]※誌面掲載文
❷と同様、ひらがな部分の間違いです。
「する」がなくても意味がわかるため普通に違和感なく読めてしまいます。文章を読むときは、文の切れ目や繋ぎを意識して読むようにしましょう。
POINT
・問題文2行目の「詰め合わせが無償で贈られます」について
「無償」と似たことばに「無料」があります。2つを辞書で調べると次のようになります。
【無償】
・報酬のないこと。また、報酬を求めないこと。
・代金を払わないでいいこと。ただ。無料。
【無料】
・料金を払わなくてよいこと。無代。ただ。
・人のために何かしてもお金を受け取らないこと。
どちらも同じ場面で使われることもありますが、ニュアンス的に次のような違いがあります。
無償は、一切見返りを求めない。
無料は、何らかの見返りが発生する場合がある。
たとえば、次の〇〇に当てはまるものは「無償」か「無料」か?
『会員登録された方には、このサンプルを〇〇で差し上げます』
この場合は見返りがあるので「無料」が適切といえます。
おわりに
実際に起こった間違いだけでなく、起こりそうな間違いを推測することでも知識の幅を広げることができます。また勉強会やセミナーなどで、どんな間違いがあるのかを知るのも効果的です。
たくさんの間違いに触れて、「こういう間違いがあるのか」「自分だったら見つけられるだろうか」「どうやったら見つけられるだろう」と考える力が、校正・校閲の技術力アップにつながっていきます。
問題文 >【出典:InRed_宝島社 】
用語解説 >【出典:デジタル大辞泉_小学館】