目 次
原稿に赤字を入れる際に知っておきたい「見間違えやすい文字」と 「必要な心構え」
原稿の手書きの指示が判読しづらいという場面に、校正経験がある方なら何度も遭遇したことがあると思います。前後の文字から判断できるものもあれば、そうでないものもあります。
その判断できない文字のほとんどが、急いで書かれた文字や文字が汚いことから起こったものです。単に、文字の見た目が似ていて見間違えやすい文字なら注意すればよいだけですが、文字が汚いのは厄介です。
クライアントの指示が汚くて読めない場合、
「文字が汚くて読めないんですが、これって何て書いてあるんですか?」
なんて、ストレートに聞ける筈もなく、遠回しに遠慮がちに聞くことになります。
また、制作側で勝手に判断するわけにもいかないので、
『このようにしましたが、ご確認いただけますでしょうか?』などとゲラに申し送りを添えて、PDFで送るという手段もあります。この作業は、結構手間のかかる作業で時間のムダです。
最近では、PDF原稿やオンライン校正などのおかげで、パソコンで文字を打って修正指示を入れることも増えてきました。数年前に比べれば、文字が見づらいということは減少しているように感じますが、まだまだこの問題は根強く残っています。
もし、自分が原稿に指示を入れる立場なら、
1. 急がず、慌てない
2. 丁寧に書く
3. 略字を使わない
この3点を赤字を入れる際に気を付けておくだけで、関与者のかなりの時間をムダにせずに済みます。
見間違えやすいのは、文字だけとは限りません。
「トル」の指示の代わりに、取り消し線(二重線)を引いている場合も同様です。その範囲がはっきりとせず、どこまでトルのか判断がつかないことがあります。
見間違いやすい文字の例
1. ハイフン・ダーシ・音引き・漢数字
・ハイフン -
・ダーシ –
・音引き ―
・漢数字 一
※横棒類はすべてです。
これらは、誰もが一度は迷ったことがあると思います。ゴシック系のフォントだとほぼ見分けがつきません。ただ、明朝系のフォントなら部分的な違いに注意すれば見分けがつくこともあります。
2. 数字とアルファベットの例
・0 ⇔ O(オー)
・1 ⇔ l (エル) ⇔ I(アイ)
・2 ⇔ z(ゼット)
※「ゼロ」と「オー」はあまりに間違いが多いため、 パスワード設定などではどちらかの文字を使用しないこともあります。
製品の品番やメールアドレス、ホームページアドレスなどでは、数字とアルファベットが混在していることがほとんどです。
そのため、原稿と突き合わせ(照合)校正をする際は、突き合わせ元のテキスト原稿を、明朝系のフォントに置き換えて出力すると、見間違えのリスクを減らすことができます。
明朝系のフォントは文字同士の見分けがつきやすく、校正者が迷うことも少なくなり、疑問出しなどでの余計な時間を取られることもなくなります。
3. カタカナ同士の例
・ア ⇔ マ
・ク ⇔ ワ
・ソ ⇔ ン
・シ ⇔ ツ
カタカナは、見分けがつきづらいというより、クセ字や文字が丁寧に書かれていない場合によくあります。
カタカナは、医療系や機械系になるとその業界の専門用語もあるため、一般の辞書などには載っていないことがほとんどです。調べるのにも手間がかかります。
4. カタカナと漢字・漢字同士の例
■ カタカナと漢字の例
・ロ ⇔ 口 (くち)
・ヌ ⇔ 又 (また)
・エ ⇔ 工 (こう)
・カ ⇔ 力 (ちから)
・タ ⇔ 夕 (ゆう)
・ト ⇔ 卜 (ぼく)
・ニ ⇔ 二 (漢数字の2)
・ミ ⇔ 三 (漢数字の3)
・ハ ⇔ 八 (漢数字の8)
・ナ ⇔ 十 (漢数字の10)
・ケ ⇔ 千 (せん)
・チ ⇔ 千 (せん)
■ 漢字同士の例
・未 ⇔ 末
・土 ⇔ 士
・干 ⇔ 千
・若 ⇔ 苦
・治 ⇔ 冶
・問 ⇔ 門
・固 ⇔ 個
※これらはほんの一部です。漢字同士の間違いは非常に多くあります。
これらの例は、文字単体で見れば見間違えやすいように思われますが、前後の文から判断できることも多いです。校正側としては迷くことが少ないです。
ただ、修正する側のオペレーターは、修正作業に専念しているので、文字をパッと見て判断することがあります。見間違えることも多いです。
赤字を入れる側は、修正する側が一目見てわかるような赤字を書くことを心掛ける必要があります。
5. 普通の文字と拗促音(拗音・促音)
・かつこ ⇔ かっこ
・促音の例
「いっぱん」「グッド」「ベッド」
・拗音の例
「しゃしん」「しゅうり」「きょうしつ」
この区別も手書きの場合、大きさの判断がつかず迷うことがあります。
有名な例で、社名の「キヤノン」のように、発音と違って表記は並字(普通の大きさの文字)を用いている場合もあります。固有名詞などでは、並字と拗促音の違いで判断に迷うことが多いです。
赤字を入れる際は、校正記号の上付き・下付きの記号を用いるか、文字で補足するなどして誰が見てもわかるようにする必要があります。
6. その他の見間違えやすいもの
・* ⇔ ※
・中黒(・) ⇔ ピリオド( . )
・読点(、) ⇔ 句点(。)
これらの例は見間違えるというよりも、急いで書いた場合に文字が読みづらいく判断がつきにくくなるケースが多いです。
共通する心構え
自分の書いた字が相手に伝わらない根本原因は、文字が見間違えやすい・文字が汚いということではありません。ほとんどがコミュニケーションエラーによるものです。
相手に伝えたいことが伝わっていないということです。伝達する手段が手書きの文字であっても、それもコミュニケーションの一部です。
まずは、相手に情報が正確に伝わるかを考える必要があります。
文字が見間違えやすいとか汚いとかは、その過程でしかありません。
この手のエラーの背景には、
『自分がわかっているから、相手もわかるだろう』という思い込みが潜んでいます。
この考えでは、どんなコミュニケーション手段を用いても、コミュニケーションエラーは必ず起こります。
『自分の書いた指示を、誰が見ても理解できる状態か』
この1点さえ注意しておけば、ほとんどのエラーは無くなります。
あとは前述した、
1. 急がず、慌てない
2. 丁寧に書く
3. 略字を使わない
の3点を心掛けておけば、ほぼ見間違えやすい文字によるミスは無くなるはずです。
たとえば、
品番などに赤字を入れる際、「ゼロ」か「オー」なのか赤字を見る相手が迷わないように、文字で補足する工夫もその一つです。
-------------------
0A567
(ゼロ)
-------------------
校正者側にも注意が必要
校正者側でも、誰もが校正記号を知っていると思い込んでいる人がいるかもしれません。簡潔・明瞭に伝えるルールとして発生した校正記号も、伝わらなければ意味がありません。
校正記号を使う際には、校正に詳しくない人もその校正記号を見るということを頭に入れておく必要があります。
あまり目にしない校正記号は、相手に通じない恐れがあります。校正記号の代わりに、文字やイラストなどで指示を入れるなどの配慮も必要になってきます。