文章の校正・校閲をするなら知っておきたい確認ポイントと考え方

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文章の校正・校閲をするなら知っておきたい確認ポイントと考え方

紙・Web関係なくどんな媒体であれ、校正する上で注意すべき点や知っておきたいポイントには共通する部分があります。

媒体が変わったとしても、類似する間違いやそこから派生して起こる間違いにはよく似たものが出てきます。

自分が携わる媒体の校正を深めるのも大事ですが、視野を広げて他のジャンルの校正物を見てみるのもスキルアップには効果的です。色んな視点を持っておくと、気づきも多く生まれてきます。

ファッション誌からみる校正・校閲のポイント

ここでは、ファッション誌「InRed」の誌面から校正のポイントを解説したいと思います。


【宝島社:InRed(インレッド)12月号(11月7日発売)_P.13の誌面の一部になります】

上の誌面を、3つのブロックにわけて見ていきます。

第1ブロック:文字情報がメインの部分

第2ブロック:商品画像とスペック情報の部分

第3ブロック:モデル画像がメインの部分

InRed

第1ブロック

文字情報がメインの部分です。

ここでのポイントは次の箇所になります。

以下、各項目について解説していきます。

1:企業ロゴ

1行目:社名表記

校正の用字用語の使い分け

「ABC-MART」は社名のため、公式HPで必ず社名表記を確認します。クライアントから社名表記やロゴ使用に関するガイドラインが支給されているならそれに従います。

1.1行の「ABC-MART」のロゴにはハイフンが入ります。

 ABC-MARTのロゴ

2.2行の「ABC-MART」のロゴにはハイフンが入りません。

 ABC-MARTのロゴ

・社名表記(ABC-MART)と企業ロゴ()とでハイフンの有り無し
・ロゴ同士()でハイフンの有り無し

このような違いは、多くの企業で見られます。

社名やロゴに関しては、表記だけでなく、配置・サイズ・色など詳細なルールがあります。ガイドラインがあるなら細部まで読み込む必要があります。ガイドラインがなければ、企業HPなどで確認しなければなりません。

2:履くと穿く

2行目:間違いやすい用字用語の使い分け

校正の用字用語の使い分け

履く」と「穿く

・靴や靴下は「履く」を使用します。
 → 衣服などを足先から通して下半身につける。「ズボンを穿く」「袴を穿く」

・ズボンやスカートは「穿く」を使用します。
 → 履物を足につける。「靴を履く」「たびを履く」
   【出典:小学館 デジタル大辞泉】

「履く」と「穿く」の混同は非常に多いです。特にファッション誌系では、両方が頻繁に使用されるため使い分けを覚えておく必要があります。また、これらの用語は、医療系や介護系の媒体でもよく出てきます。

※「穿(く)」は、常用漢字ではないのでひらがなで書くこともあります。

3:VOL.8(連載もの)

4行目:VOL.8

校正の用字用語の使い分け

連載もののページで「VOL.○」と出てきたら、前号を見て数字が連続しているか確認します。他にも「第○回」「Part○」「No.○」なども同じです。

定期的に掲載されているページは、前号の誌面を流用して作成することが多いです。修正し忘れて前回のデータのまま(この例では、VOL.7)になっているという間違いも珍しくありません。

4:洒落る(しゃれる)

4行目:洒落る

校正の用字用語の使い分け

洒落る

《動詞「しゃ(曝)る」の意からの派生。「洒落」は当て字》
・服装や髪形などに気を使って身を飾る。おしゃれをする。
・気がきいている。あか抜けしている。
【出典:小学館 デジタル大辞泉】

「洒落る」はファッション系の媒体でよく見かける言葉です。最近では「映える」の言葉に他の語を組み合わせた用語もよく見かけます。「着映える」などがその例です。

5:効くと利く

6行目:間違いやすい用字用語の使い分け

校正の用字用語の使い分け

効く」と「利く

・効く
 効果や働きなどが現れる。期待どおりのよい結果が実現する。効き目がある。
「てきめんに効く薬」「宣伝が効いて大評判だ」「腹部へのパンチが効く」

・利く
本来の機能を十分に発揮する。機敏に、また、さかんに活動する。「鼻が利く」「麻痺(まひ)して手足が利かない」/ それをすることが可能である。できる。「洗濯の利く生地」「無理の利かないからだ」「学割が利く」
【出典:小学館 デジタル大辞泉】

「効く」と「利く」の使い分けは基本中の基本です。媒体かかわらず頻繁に出現するため覚えておきたい用語です。

InRedのようなファッション誌では、使用頻度の高い語句、混同しやすい同音異義語はある程度カテゴライズできます。出現頻度の高い用語に関しては使い分けを覚えておくのが一番ですが、厳密な使い分けまで無理に覚えようとしなくて大丈夫です。その語が出てきたときに「ん? 合ってるかな? 怪しいかも?」と疑問に思える感覚を持っておくことが大切です。

6:ラインナップとラインアップ

7行目:間違いやすい用字用語の使い分け

校正の用字用語の使い分け

ラインナップ」と「ラインアップ」( Lineup )

どちらも同じ意味になります。「ラインアップ」に合わせるという辞書が多いですが、「ナ」でも「ア」でも許容とされる辞書もあります。一般的に、話し言葉としては「ラインナップ」と発音されます。

特に媒体に表記ルールがないのであれば、その誌面の文体に応じて使い分けるのも一つの方法です。
たとえば、会話文なら「ラインナップ」、地の文なら「ラインアップ」とする感じです。

どちらでも正しいですが、同じ誌面内で表記がゆれているのはNGです。

7:ぶら下げ(ぶら下がり)

7行目:ぶら下げ(ぶら下がり)

校正のぶら下げ

ぶら下げ組みは、行末の句読点に関する禁則処理を回避することで、箱組みの可読性を保つとともに、字間調整の手間を減らそうとする工夫です。

ぶら下げも追い込み処理も好みになるので、どっちが正しいというわけではありません。
(※個人的には、ぶら下げのほうが字面が揃うので読みやすいと思います)

8:人名のローマ字表記

8・9行目:ローマ字表記

校正のダブルチェック項目

英単語が出てきたら辞書でスペルチェックをします(※長文なら専門の方に見てもらう必要があります)。この部分は、単にスペルチェックで終わるものでなく、人名がローマ字表記になって入っているので注意が必要です。

人名は、大抵ヘボン式ローマ字(以下参照)で表記されますが、そうでない場合もあります。

そのため、校正するにあたっては、名刺など名前のローマ字表記を確認できる原稿を支給してもらい、それと照合することです。また、ここでは社名も入っているので企業HPの会社概要などで確認する必要があります。

※人名や社名の間違いは、クレームに直結するのでダブルチェックをしておくほうが無難です。

・ヘボン式の例(一部)※リンク先に詳細あり
校正のヘボン式
> 熊本県庁HP

9:単位記号

10行目:単位記号

校正の単位記号

単位には、単位記号とそうでないものがあります。

1.
2.cm

は、単位記号です。
は、アルファベットの小文字の「c」と「m」を組みあわせたものです。

誌面内で統一されているなら、どちらを使用しても問題ありませんが、は環境依存文字になるため、二次利用(別の媒体、webなど)を考えているなら、の使用が無難です。

この単位に関しては、本文中では「c」と「m」を組み合わせたもの使用して、スペック内では単位記号「㎝」で表記する媒体もあります。機械メーカー系では、そういう表記が多いです。

また、Webなどでは、平方センチメートルをわざと「m2」で表しているものも見かけます。※間違いではなくその表記で統一しています。

第2ブロック

商品画像とスペック情報の部分です。

10:スラッシュの使い分け 

「半角スラッシュ」と「全角スラッシュ」

校正の泣き別れ

一見すると、スラッシュの表記が全角と半角とでゆれているように思えます。ただ、よく見ると情報によって使い分けていることがわかります。

-----------------------------------------------------
・半角スラッシュ
S/CAMEL、S/BLUEGRAY → サイズ/カラー名

・全角スラッシュ
NUOVOABC-MART → ブランド名社名
-----------------------------------------------------

あらかじめ誌面の表記ルールが決められているならすぐにわかりますが、そうでない場合はまずは法則がないか探ってみることです。スペック情報内で、全角と半角のスラッシュを使い分けている例はよく見かけます。

11:「各」「ともに」

情報を一つにまとめるときの注意点

校正の泣き別れ

複数の商品情報を一つにまとめる場合には、「各」や「ともに」が必要になってきます。特に金額は要注意です。「各」がないと、掲載している商品すべてセットで¥5,900と受け取られる可能性があります。

これはファッション誌でなくとも、すべての媒体に共通しています。身近にあるスーパーのチラシや家電量販店の広告で確認してみてください。複数の商品の情報を一つにまとめて掲載しているものには必ず入っています。

【間違いが起きやすいケース】
最初は2つの商品を別々に配置していたけども、誌面の都合でその商品情報を1つにまとめることになったときに、「各」を入れ忘れることがあります。情報をまとめる場合には、そういう点にも注意が必要です。

※この例では、2商品なので「ともに」を使用していますが、InRedの他のページでは3商品以上あるものに対し「すべて」を使っています。

12:単位の抜け?

単位

校正の泣き別れ

「H4.5」に単位がありませんが、以下の注記で補足されているので問題ありません(9の項目参照)。

校正の単位記号

仮に注記がなければ、「H4.5」に単位を入れる必要があります。
一方、注記があって、さらに「H4.5cm」にも単位が入っていれば、内容が重複するので注記か単位のどちらかを取る必要があります。

まとめると次のようになります。

・注記なし/単位なし⇒ 赤字(単位を入れる指示)※下記参照
・注記あり/単位あり⇒ 疑問出し(どちらをトルかわからないので疑問にする)
・注記なし/単位あり⇒ OK
・注記あり/単位なし⇒ OK(掲載文)

※単位を入れる赤字が多くなるようであれば、注記を入れたほうがよいです。入れる赤字を抑えることで修正ミスを防ぐことができます。

13:泣き別れ

金額の泣き別れ

校正の泣き別れ

3行目から4行目にわたって金額が泣き別れしていますが、泣き別れは必ずしも間違いということではありません。これは媒体のルールにより変わってきます。

ただ、InRedの誌面内では金額の泣き別れに対して工夫しているのがポイントです。

InRedの誌面内で使用されている

1. 校正の泣き別れ

2. 校正の泣き別れ

3. 校正の泣き別れ

ともに、位取りのカンマがあることで後ろにも数字が続くことを予測させています。
※位取りのカンマの後には、原則3つの数値がきます。
の¥マークも、これがあることでその後に金額が続くことを示唆しています。

このように、位取りのカンマ( , )や円マーク(¥)をあえて前行に残すことで、次の行にも金額が続くことを知らせています。

一方、同じ金額の泣き別れでも使用していないのが次の例です。

InRedの誌面内で使用されていない

1. 校正の泣き別れ

2. 校正の泣き別れ

3. 校正の泣き別れ

4. 校正の泣き別れ

 このような泣き別れは、InRedの誌面内では見当たりません。そもそもは位取りのカンマが行頭禁則にあたるので使用していないと思いますが、いずれも「¥1」や「¥10」で区切れてしまうためです。

InRedの誌面内で1桁や2桁の金額の商品は扱われていないので、たとえ「¥1」や「¥10」で区切っても読者に誤解を与えることはないと思いますが、念のためにちゃんと計算して泣き別れがされています。

※2020年12月号の誌面情報から判断したものです。

第3ブロック

モデル画像がメインの部分です。

InRed

14:番号記号(#)とシャープ記号(♯)

見出し部分:STYLE #2

「#」は番号記号になります。
「#2」は、「No.2」や「2番目」などと同じ意味です。この番号記号は、カラー名(#000000)や品番などでよく見られます。

稀にですが、番号記号(#)とシャープ記号(♯)が混同されているものを見かけます。

間違い例
(※商品品番内でのシャープ記号の使用)

正しい例
♯と#

これは使い分けを間違えたというより、そもそも両方の記号が別物だと認識していないことによるものだと思います。

補足

・番号記号 (#)のその他の名称:ナンバーサイン、スクエア、バウンド、ハッシュ、バンスマークなど。

・「#」は、キーボードの数字の3と同じ箇所にあります。
シャープと番号記号
※「ナンバー」もしくは「ばんごう」で変換しても出てきます。

15:トウ(つま先)

スクエアトウ

「トウ」は、つま先(toe)の意味になります。「トゥ」としがちですが、「トウ」もしくは「トー」とするのが一般的です。発音からしても「トゥ」とは表記しません。

カタカナ表記はよく目にするものでも誤っていることがあります。常に辞書で調べるクセを付けておくことです。

デザイン? 偶然?

見出し部分のコピーは文の区切りのいい位置で改行されていて、文末が斜めになっています。
InRed

この文の斜めのラインがモデル画像の斜めのポーズと揃えている(?)ように見えます。
これが意図的なのかどうかの判断はつきませんが、1行目と3行目の字送りが違っているので、計算されたデザインの可能性もあります。モデル画像を引き立たせるために、あえて文字の位置を調整したのではないかと思います。

InRed

おわりに

目ぼしい点だけに絞って説明しましたが、他にも級数や行間、フォントなど見るべき箇所はたくさんあります。

綺麗に整えられた文章や計算されてデザインされた誌面をみると、校正者でも勉強になる点は多くあります。そのようにしている理由を自分なりに考えることで、視野も広がり校正者としての気づきも多くなってきます。

校正では、色んな視点を交差させていくことで間違いを見つけやすくなります。人を変えてするダブルチェックもその一例ですが、自分一人でもできることはたくさんあります。

校正の勉強は、色々なところ(人・モノ)から吸収することができます。知識の吸収も大事ですが、まずは間違いのパターンを吸収して、間違いを見つける嗅覚を磨いていくことです。