校正でダブルチェックをする意味と効果[チェックポイントや運用ルールの紹介]

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校正でダブルチェックする意味と効果[チェックポイントや運用ルールの紹介]

校正作業も部分的にデジタル化になりつつありますが、まだまだ人の目に頼ることが多いです。

校正ソフトの機能をフルに活用したとしても、現段階では人がする校正作業を完全に置き換えることはできません。どこかで人の目で確認する部分が必ず出てきます。

人のする作業には、常にヒューマンエラーがつきまといます。些細なミスが致命的な問題に発展する恐れもあります。そこで作業者をかえて二重に行うダブルチェックが重要な役割を果たします。

校正・校閲でのダブルチェックの役割は、見落としを防ぐというイメージが強いですが、単にそれだけではありません。別の人物が再確認することで他の効果も生まれてきます。

1. ダブルチェックの効果

・書き間違いを防ぐ効果

書籍にも掲載されているほど、次のような書き間違いはよくあります。

校正のWチェックリスト 校正のWチェックリスト
【出典:日本エディタースクール出版部_校正練習帳】

頭ではわかっていても、うっかり書き間違えてしまうことは誰にでもあります。時には、一文字の書き間違いが致命的な問題に発展することがあります。

ただ自分では正しいものを書いたと思い込んでいるので、何度見直しても間違いに気づきづらいものです。そのため書き間違いを防ぐには、思い込みのない第三者の目線で見つけるのが効果的になってきます。

・解釈の誤りを防ぐ効果

原稿の指示が曖昧で意味を取り違えるといったことや、文字を見間違えることはよくあります。

次のような赤字が原稿に入っていれば、
数字の「22」に見えるときもあれば、アルファベットの「ZZ」に見えることもあります。

校正のWチェックリスト

この赤字を見る前に、数字の多い価格表などの校正をしていたら、数字に意識が引っ張られ数字の「22」に見えるかもしれません。一方、品番などアルファベットの多いものを校正していたら、アルファベットの「ZZ」と見えてしまうかもしれません。

作業者をかえてダブルチェックをすることで、違う視点から物事を見られます。解釈を誤るといったミスも防ぐ効果があります。

ダブルチェックの効果

ダブルチェックの運用効果をまとめると次のようになります。

1. 見落としを防ぐ
2. 書き間違いを防ぐ
3. 解釈の誤りを防ぐ

2. ダブルチェックは意味ない?

「ダブルチェックは意味がない」ということはよく聞かれます。おそらくこの考えに陥るケースは、何回もダブルチェックをしているがいつも何も問題がない。その状態がずっと続き、「これって、やる意味あるのかな……」という気持ちから生じたものだと思います。

ダブルチェックでは、(細かなミスを除いて)致命的なミスはそうそう見つかるものではありません。そもそもダブルチェックで頻繁に間違いが見つかるようであれば、一回目の作業者に問題があるということです。二人でチェックする以前の問題になってきます。

仮に、ダブルチェックをしてもわずかな確率でしか間違いを発見できない状況であれば、費用対効果を考えてダブルチェックを廃止するという選択も妥当かもしれません。

仕事では予算も重要なので、ダブルチェックにかかる「時間(費用)」とダブルチェックでのミスの「発見率」を天秤にかけて判断することも必要になってきます。

一方、ダブルチェックをする時間がない・ダブルチェックをするのをうっかり忘れたということが起こる場合。

こういうケースは、ダブルチェックを業務の一つとみなしていないことから起こる可能性があります。要は、作業が軽視されているということです。

ダブルチェックを重要だと考えている校正の現場では、校正業務に付随するものだと認識しています。仕事を受けた時点でダブルチェックも作業の中に組み込まれ、かかる時間もある程度見込んでスケジュール管理されます。

3. ダブルチェックの確認ポイント①(最優先事項)

ダブルチェックの対象になるのは理想的には全部の作業ですが、時間や予算の関係でそうはいかないことも多いと思います。そのためチェックをする項目を絞る必要が出てきます。

この絞る項目は媒体によって変わってきます。

基本的な考え方としては、万一ミスがあったときに致命的になるものです。金銭面的な問題だけでなく信用が低下するものも含みます。一般的にいえば、価格や人名、商品名などがそれにあたりますが、最優先すべき項目は、過去にクレームのあった箇所です。

クレームになった大きなミスは当然ですが、大きなミスには至らなかったけれども、クライアントに指摘された箇所があるなら、そういう箇所も二重にチェックをしておくほうが賢明です。

たとえば、次のようなケースです。

・クライアントから「このパンフレットはシニア向けだから小さい文字はやめてほしい」と指示を受けていたのに、数箇所に小さい文字が残っていて注意を受けた。

・「画像と文字が離れすぎていて対応がわかりにくかったんで次回は気を付けてほしい」と指摘された。

・「ところどころ文字の間隔が詰まりすぎていて読みにくいところがあった」と言われた。

など

些細なミスでも同じ間違いを二回したときは、大抵一回目の間違いがぶり返されてくるものです。大きな問題に膨らむ可能性があります。信用も失いかねません。

そのため校正作業前には、過去に起こったクレームやクライアントから指摘されたことがなかったか振り返る必要があります。

4. ダブルチェックの確認ポイント②(基本項目)

最優先の確認項目に続いて確認すべき項目は、ミスが実損に直結するものになります。

価格はもちろんですが、商品の発売日が違っていたり店舗の営業日が違っていたりする場合も直接売上に跳ね返ってきます。そのような箇所は、チェック項目として押さえておきたいところです。

ダブルチェックの基本項目としては次のようなものがあげられます。

価格
品番
名称(製品名・商品名・作品名 etc.)
社名・役職名
人名
郵便番号・住所
TEL・FAX
メールアドレス・HPアドレス
開催日時(講演やイベントごとなど)
発売日
営業時間・定休日

など

他にもダブルチェックの対象項目になりえるものとしては次のようなものがあります。

▢ 表紙周り
表紙・裏表紙・背表紙などは本の顔に当たる部分です。多くの人が目にする部分でもあるので、些細なミスでも目に付きます。同じ文字の間違いでも、表紙の誤植と本文内での誤植とでは重みが違ってきます。

▢ 新製品(商品)情報・特集ページ

▢ 社長の挨拶文
間違いがあったとき、社長本人は気にしていなくても周りが過敏になるので、少しのミスでも大きくなりがちです。

▢ 原稿内容によるもの
・原稿の赤字が多いもの
・確認すべき別紙資料が多いもの
・手打ちした箇所が多いもの(※データがなく一字一字手入力したもの)

これらは校正者への負担が大きいので見落とす可能性が高いものです。

5. ダブルチェックの線引き

いざチェックする項目を考えると、どれもこれも重要に見えてくると思います。

項目を増やせば増やすほど確認に要する時間も必要になってくるので、何が重要項目にあたるかは事前に決めておかなければいけません。

ミスの発生率を基準に項目を決めていくのも一つの手です。

次の[1]のように原稿に赤字が入って修正された価格(人の手が加わった箇所)と、[2]のテキストデータを流し込んだ価格(もしくはデータをコピペした箇所)とでは、間違いの発生率は著しく変わってきます。

[1]手書きの赤字の修正

校正のWチェックリスト

[2]テキストデータの流し込み

校正のWチェックリスト

価格だからといって、なんでもかんでもダブルチェックが必要というわけではなく、ミスの起こる可能性も考慮してチェック項目を決めていけば効率のよいものになっていきます。

6. チェックリストの運用

ダブルチェックも通常の業務の一つなので、口頭の指示はなるべく避けたほうがよいです。そのためチェックリストなどを作成して指示するのが適切です。

チェックリストは指示モレを防ぐという意味合いが一番ですが、リスト化しておくことで作業者に重要項目を意識づけられるメリットもあります。

運用手順の例

1. 基本的なダブルチェック項目をリスト化して、各作業者に配布します。

ダブルチェックのチェックリスト

2. 1回目の作業者は校正後、ダブルチェックをしてもらいたい項目に「レ点」を付けます。

ダブルチェックのチェックリスト
※リストにないものがあれば空いたスペースに書き込みます。
ここでは、最終行に『3ページ目の2段目・手打ち箇所』と書き込んでいます。

3. チェックリストを校正済みのゲラとセットにして、ダブルチェック者に渡します。
 もしくは、ダブルチェック専用のボックスなどを用意して入れておきます。

ダブルチェックのチェックリスト
※リスト化が面倒であれば、付箋に書き込んで貼るなどで対処してもいいと思います。

チェックリストの文字情報です。必要であればコピペして使ってください。

 Wチェック項目
  価格
  品番
  名称(製品名・商品名・作品名 etc.)
  社名・部署名・役職名
  人名・地名
  郵便番号・住所
  TEL・FAX
  HPアドレス・メールアドレス 
  日時
 
 
 

おわりに

他の誰かが再確認してくれるとなると安心ですが、校正者であるなら次の確認者の負担にならないように「間違いを全部自分で見つけてやる!」という気持ちも大切です。

ダブルチェックがあるから安心という気持ちは校正を終了した後に思うことであって、校正をする前からそう思っていては気の緩みにつながります。