目 次
表記揺れが起こりやすい語句一覧[漢字にする?ひらがなにする?基準例]
表記揺れが起こりやすいものを大まかに分類すると次のようになります。
• 代名詞・副詞・接続詞・感動詞・助動詞・助詞…
• 固有名詞
• 常用漢字とそれ以外の漢字
• 送り仮名
• 漢数字とアラビア数字
• カタカナ(外来語)
• 記号類や単位 など
※カタカナ表記のルールについては文末の補足を参照ください。
このような語句の表記が揺れていた場合、『記者ハンドブック』や『読売新聞 用字用語の手引』、『朝日新聞の用語の手引』のような市販の書籍を基準にして表記を整えることが多いと思います。また独自に作成した表記統一ルールをもとに表記揺れを正すこともあります。
どの表記にするかは、企業や媒体の持つイメージ、どの読者層に向けて発信するのか、専門誌なのか一般向けなのか、さらに掘り下げるとキャッチコピーで扱うのか、本文で使用するのかによって違ってきます。状況によって様々な使い分けが考えられます。
なかでも漢字にするのか、ひらがなにするのかは大きなポイントです。
漢字とひらがなの使い分けの基準となるものに、文化庁のHPで公開されている資料『公用文における漢字使用等について』があります。公用文とされていますが、専門的なものではなく、教科書や新聞、放送にも影響を与えており一般的な文章やビジネス文書にも役立つ内容になっています。
この資料の中から一般的な文章にも役立つものをピックアップしてポイントを交えて紹介していきます。
• 文化庁HP > 公用文における漢字使用等について(資料_PDF)
[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]
・公用文における漢字使用等について_文化庁HP
・新編 校正技術 上巻_エディタースクール出版部
・コトバンク(デジタル大辞泉_小学館)
表記揺れについて
公用文では、主に代名詞・副詞・接続詞・補助動詞・形式名詞・接頭語などに関してのルールが紹介されています。これらの品詞は、文を作成する上で軸となるものなので何度も文章内で使用されます。
そのため表記が揺れていたときに目につきやすくなります。漢字かひらがな、どちらにするのか基準を設けておくのが賢明です。
漢字をひらがなにすることを「ひらく(開く)」、
ひらがなを漢字にすることを「とじる(閉じる)」といいます。
・漢字をひらがなにする ⇒「ひらく」
例) 犬 → いぬ
・ひらがなを漢字にする ⇒「とじる」
例) ねこ → 猫
1. 代名詞の表記揺れ
▼ 公用文で原則として漢字にする代名詞の例
私
我々
僕
何
誰
彼
俺
<POINT>
公用文では原則漢字を使用するとされていますが、一般的な文章においては漢字とひらがな両方の表記がよく見られます。特に「私(わたし)」「われわれ(我々)」「僕(ぼく)」などは、同一の文章内でも内容にってあえて漢字とひらがなを使用することがあります。そのせいで意図せぬところで表記揺れが起こりやすくなります。
さらに代名詞のような文章内でよく使用される語は、他の語と組み合わさることで表記のバリエーションも複数考えられます。
<例>
・わたし達
・わたしたち
・私達
・私たち
文章内に頻出する語は真っ先に表記ルールを決めておくべきものといえるでしょう。
2. 副詞の表記揺れ
▼ 公用文で漢字にする副詞の例
余り
至って
大いに
恐らく
概して
必ず
必ずしも
辛うじて
極めて
殊に
更に
実に
少なくとも
少し
既に
全て
切に
大して
絶えず
互いに
直ちに
例えば
次いで
努めて
常に
特に
突然
初めて
果たして
甚だ
再び
全く
無論
最も
専ら
僅か
割に
<POINT>
副詞については、一般的な文章では漢字とひらがなどちらの表記もよく見られます。なかでも次のものは、ひらがな表記にされることが多いため漢字表記との混在が目立ちます。
<公用文> <一般的>
余り ↔ あまり
恐らく ↔ おそらく
更に ↔ さらに
既に ↔ すでに
全て ↔ すべて
例えば ↔ たとえば
全く ↔ まったく
最も ↔ もっとも
専ら ↔ もっぱら
僅か ↔ にわかに
▼ 公用文でひらがなとする副詞の例
1. かなり
2. ふと
3. やはり
4. よほど
<POINT>
4番目の「よほど(余程)」の語を除いては、現在では漢字表記がほぼ見られないので表記揺れが起こる可能性は極めて少ないといえます。1~3番目のような語は表記揺れのルールから外してもよいといえるでしょう。
3. 接続詞の表記揺れ
▼ 公用文で漢字とする接続詞の例
及び
並びに
又は
若しくは
<POINT>
「及び(および)」「並びに(ならびに)」は、一般的にはひらがな表記されることが多く表記揺れが目立ちます。
また動詞で使用される場合には漢字で表記されることが多いことも混在しやすい原因になっています。
<例>動詞での使用例
・被害が及ぶ
・列に並ぶ
▼ 公用文でひらがなとする接続詞の例
前述の4語(及び・並びに・又は・若しくは)以外はひらがなとされます。
あるいは
おって
かつ
けれども
しかし
したがって
そもそも
だから
ただし
ついては
ところが
ところで
また
ゆえに
<POINT>
次のものは漢字で表記されることもあり表記揺れが目立つものです。
ただし ↔ 但し
また ↔ 又
ゆえに ↔ 故に
4. 補助動詞・助動詞・助詞など
補助動詞・助動詞・助詞などは、品詞で考えるよりも感覚的にわかるものが多いので、表記揺れが起こりそうなものだけ押さえておけば大丈夫です。
▼ 公用文でひらがな表記にする例
ある (その点に問題がある)
いる (ここに関係者がいる)
できる (だれでも利用ができる)
ない (欠点がない)
なる (合計すると一万円になる)
~ かもしれない(間違いかもしれない)
~ てあげる (図書を貸してあげる)
~ ていく (負担が増えていく)
~ ていただく (報告していただく)
~ ておく (通知しておく)
~ てください (問題点を話してください)
~ てくる (寒くなってくる)
~ てしまう (書いてしまう)
~ てみる (見てみる)
~ てよい (連絡してよい)
~ にすぎない (調査だけにすぎない)
~ ぐらい (二十歳ぐらいの人)
~ だけ (調査しただけである。)
~ ほど (三日ほど経過した。)
<POINT>
「ない(無い)」「いく(行く)」「いただく(頂く)」「ください(下さい)」「できる(出来る)」などは、普段からよく使用される語句なので使い分けを理解していても、変換ミスなどにより表記揺れが発生しやすくなります。
5. 形式名詞の使い分け
形式名詞とは、形式上は名詞であるが実質の意味をもたないもののことをいいます。一般的にはひらがなで表記しますが、形式名詞は非常に表記揺れが起こりやすいものです。考え方としては「基本的にはひらがな表記、こだわりがあるなら漢字表記」としておくと、わかりやすく表記が揺れる可能性を減らすことができるはずです。
<一般的> <漢字表記>
~ うち ↔ ~ 内
~ おり ↔ ~ 折り
~ こと ↔ ~ 事
~ たび ↔ ~ 度
~ ため ↔ ~ 為
~ とおり ↔ ~ 通り
~ とき ↔ ~ 時
~ ところ ↔ ~ 所
~ はず ↔ ~ 筈
~ ほど ↔ ~ 程
~ まま ↔ ~ 儘
~ もの ↔ ~ 者/物
~ ゆえ ↔ ~ 故
~ よう ↔ ~ 様
~ よし ↔ ~ 由
~ わけ ↔ ~ 訳
以上の語は形式名詞としていますが、意味上も名詞である実質名詞として使用される場合は漢字にすることが多いです。形式名詞と実質名詞は、明確にわけられない場面もあるので判断が難しいところです。そのせいで表記揺れが発生しやくなります。
▼ 形式名詞と実質名詞の参考記事
6. 接頭語の「ご」の使い分け
接頭語が付く語を漢字で書く場合は原則として漢字で書き、接頭語が付く語をひらがなで書く場合は原則としてひらがなで書きます。
〇 御案内 → 御+案内(漢字+漢字)
〇 御挨拶 → 御+挨拶(漢字+漢字)
✕ ごもっとも → ご+もっとも(ひらがな+ひらがな)
新聞では一般的に「ご」を使用するようですが、「御所」「御前試合」「御用達」のように漢字で書く習慣の強いものや固有名詞的なものには「御」を使用します。
このように例外があるものは表記が揺れる可能性が高いのであらかじめルール決めをしておくと便利です。
7. カタカナの表記揺れ
<カタカナ表記>
テクニカルコミュニケーター協会のサイトでは、マニュアル作成時の見本となる資料が多数公開されています。その資料の一つにカタカナ表記のガイドラインがあります。カタカナ語の統一ルールがないということでお困りの方にはこの資料が役立つはずです。
おわりに
表記ルールはどの企業や媒体にもあてはまる絶対といえるものはないので、表記揺れが起こりやすいものを軸に作成し、そこに必要なものをプラスしていくのが賢明なやり方といえます。あらかじめ一定のルールを定めておくことで漢字かひらがなかで迷ったときの判断基準となり、作業の効率化にもつながっていきます。
ただ、ある程度の表記ルールは表記揺れで迷ったときの判断基準となるので効率的ですが、表記ルールが多すぎるとその確認作業に時間がかかるばかりか、表現の自由度・豊かさを狭めることにもなりかえねません。
そのためにも表記に関しては、媒体・読者層などを考慮して臨機応変に柔軟に対応する姿勢が大切になってきます。