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流用とは[流用で気を付けたいポイント]
流用とは、辞書によれば〔用意してあるお金や物を〕本来の目的以外に使うことをいいます。ただし、出版・印刷業界で使用される場合は少し意味合いが違ってきます。
次のような意味になります。
流用とは、既存のもの(すでに出版されたものや制作されたもの)を、全部もしくは一部を他にも使用することです。
使い方は以下のようになります。
- 画像を流用する
- あの広告のイラストを流用してほしい
- 前回のカタログから流用する
- ○月号の50ページから流用する
- あのカタログのイラストを、この広告に流用する
流用の方法(全面流用・部分流用)
一連のツールを作りたい、たとえばカタログ、パンフレット、ポスター、広告を作成しWebにも展開したいという場合。すべてを一から制作することはなく、共通する情報がある場合はどれか一つを軸にして制作していきます。
流用には、数十ページの流用から1ページの流用、イラストや画像のみの流用、文章を部分的に流用するといったように様々な方法があります。
▼ 次のようなイメージです。
1ページを全面流用する
部分的に流用する(文章やイラス図版などの一部を流用)
流用で注意しておきたいポイント
新規と流用では、校正をするときの見方が違ってきます。流用の場合、単純に流用元と照合して同じあれば大丈夫ということがあります。
流用では新規と違って、既に制作している(=校正済み)ものなので、一から校正するということはありません。一度校正済みなわけなので、通常の新規の校正をするときのような細かな確認が不要になります。
そのため流用と聞けば簡単だと思う方も多いですが、流用ゆえに注意しておきたいことも意外と多くあります。
以下、流用箇所を校正する際のポイントを紹介していきたいと思います。
1. 文章の不具合(文体がおかしくなる)
文章を部分的に流用する場合。
次の例は、現在制作中の文章に、別の制作物(流用元)から文章を流用した際に起こる不具合です。
■ 結果
「ですます調」の文章に、「である」の文が混在し文体が不揃いになっています。
流用だから文章がそのまま入っていたら大丈夫というわけではありません。他の文との整合性の確認も必要になってきます。
2. 文章の不具合(表記がゆれる)
前述と同じく、制作中の文章に、別の制作物(流用元)から文章を流用した際に起こる不具合です。
■ 結果
「ください」と「下さい」で表記がゆれています。
部分的な流用によって表記ゆれが起こることはよくあります。表記ゆれだけでなく、書体や級数が違ってくることもあります。
3. レイアウトが変わっておかしくなる
流用する際、そのままの状態では現状の誌面に収まらいことがあります。そのようなときは、レイアウトの組み替えが必要になります。
次の例は流用の際、レイアウトを変更したときに起こる不具合です。
1. 次の犬と猫のイラストとキャプションを、別のページに流用するとき。
2. 誌面のスペースの都合で、左右だった配置を上下に変えています。
3. 結果として、イラストとキャプションが対応しなくなっています。
流用の際にレイアウトが変更される場合は、「左」や「右」といった文言だけでなく、「上記」「下記」「左記」「右記」「以下」のような位置を表す文言にも注意が必要になってきます。
4. 時間軸に注意する(未来形・過去形)
出版物とくに情報誌や定期刊行物などでは、発刊される時期を基準として制作されます。言い換えれば、読者の目に触れる時期を基準として制作します。
仮に夏(8月)に制作していても、冬(12月)に発刊されるものであるなら、当然、冬の時期を想定して制作する必要があります。
よくある間違いとしては、発刊時期でなく、制作時期を意識して文章を作成してしまうことです。
たとえば、挨拶文などを作成するとき、制作時期が夏であったなら意識が夏に行ってしまい、冬に発刊されるにもかかわらず「連日暑い日が続きますが~」などとうっかり書いてしまうことがあります。
この時間軸の誤りは流用においてもよく見られます。
現在制作中のものと、過去の流用元とで制作時期に開きがあるなら、未来系と過去形など時間軸に注意する必要が出てきます。
たとえば、流用元に「来年創立70周年を迎えます」とあり、70周年を迎えた後にその文を流用するなら時間軸がおかしくなります。
次のように文を変更する必要があります。
流用元「来年創立70周年を迎えます」
↓
制作中「今年創立70周年を迎えました」
他にも「今年第50回大会が開催されます」という文なら、50回大会を迎えた後に流用する場合は、回数の修正が必要になってきます。
流用元「今年第50回大会が開催されます」
↓
制作中「今年第51回大会が開催されます」
また数値だけでなく、「来春完成予定です」という文なら、その時期を迎えた後に流用する場合は、文そのものの修正が必要になってきます。
流用元「来春完成予定です」
↓
制作中「今春完成しました」
このように、現在制作中のものと、過去から流用するものとで制作時期に開きがあるなら、時間の整合性がとれているかの確認も必要になってきます。
▼ 流用元に以下ような語がある場合は、時間軸に注意して整合性の確認が必要になってきます。
- 年月日
- 回数
- 迎える・予定などの未来形
- 季節の挨拶
- ○○予定(オープン予定/完成予定)
- ○○中(申請中/構想中/開催中)
- ○○年現在
- 発売
- 来春/今春など(春夏秋冬)
- 昨年/今年/本年/来年
- 昨年度/今年度/来年度
- 今期/来期
- 新登場
- 最新の
- 新たに
- NEW
- リニューアル
- ○○(仮称)
5. 流用の練習問題
前述の例を踏まえて、流用で起こる間違いを問題にしてみたので注意すべきところを考えてみてください。
Q.
今年制作するパンフレットで、昨年制作したカタログから一部を流用することになった場合。
次の製品情報を丸々流用するとなればどこに注意しなければならないかを考えてみてください。(※レイアウトの変更はしません)
▼ 流用元の昨年のカタログ情報
A. 次の❶ ~ ❹になります。
❶ ❷ 文章内の新登場やNEWのマーク
昨年からの流用なので、新登場やNEWがそのままで適切なのか。
❸ ページジャンプ(参照ページ)
流用先のパンフレットで適切なページになるように訂正する必要があります。
❹ 「○○中」の文言がある場合は、流用時点での状況を確認する必要があります。
おわりに
毎月、季節ごと、半年に1回、年に1回など定期的に発刊されるものは多いです。前回号から流用することや、中には数年前のものから流用することもあります。
制作時期と流用元の時期に開きがあればあるほど、整合性の確認が必要になってきます。
「流用」の指示を目にした場合は、その情報がちゃんと入っているかの確認のあとに、時間軸にも注意して校正しましょう。