誤解される校正者・勘違いする校正者[仕事がうまくいかないわけ]

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誤解される校正者・勘違いする校正者[仕事がうまくいかないわけ]

校正の仕事は、多くの場合、個々の校正者の経験やノウハウに大きく依存する傾向にあります。そのため、作業手順や判断基準は個人の知識や技術として蓄積されることが多いです。

また校正・校閲作業での間違いに対する “気づき” にあたる部分は、その人が長年培った感覚みたいなものであるため、言語化されにくい部分でもあります。

その結果、校正作業は共有されにくいものとなりノウハウが継承できないといった状況に陥ります。それと同時に、周囲の人からは作業内容が不透明なものとなっていきます。

このような作業の不透明さは、誤解を生む大きな原因となります。他にも、校正者が適切な情報を発信しない(言わない)場合や、校正作業を校正者に丸投げしている場合も不透明さを増す原因となります。

まずは校正者ついて次の点は最低限おさえておきましょう。

・気付くポイント:
間違いやおかしな箇所に気付くポイントは個人によって差があります。「あの人は見つけられたのに、この人はなんで見つけらないの?」ということも当然あります。

・見るスピード
校正者によって作業スピードは違います。おおよそですが、標準を1とすれば、遅い人でその1.3倍ぐらいの時間の開きがあります。

・時間の制約
校正者全般に言えますが十分な時間が確保されていなければ、校正の精度は低下します。

・急ぎの依頼
急ぎの仕事は極端に精度が下がります。急な依頼ばかりしている人は、仮に校正者の見落としがあったとしても、自分の手配の仕方がミスを引き起こしている原因であることを自覚しましょう。

1. 誤解される校正者

校正者について、しばしば次のように思われることがあります。

1. 何でも見つけてくれる:校正者はどんな種類の誤りも指摘してくれる
2. 何でも見られる:校正者はあらゆる分野の内容を校正できる
3. いつでも見てくれる:校正者は時間の制約なく、どんなときでも一定の品質を保てる

これらはすべて誤解です。

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1. 様々な校正者のタイプ

校正者と一口に言っても、様々なタイプが存在します。校正を行う媒体は多種多様なため、すべての媒体においてある程度のレベルで対応できる校正者はいるかもしれませんが、すべての媒体に強みを持った校正者はいません。それぞれの得意な分野やスキルに特化していることが多いです。

企業や媒体が違えば、校正のやり方や見方も違ってきます。印刷会社では塗り足し、パンチ穴などの確認が必要になることもあります。また厚物カタログの校正では、ページ数が多いため周囲との連携や密なコミュニケーションが必要になります。Webの校正であれば素読みがメインとなりますが、中にはリライトまでも校正の仕事に入ることがあります。

一方、能力を測る一つの指標に経験年数があげられますが、校正の仕事においては一つの会社で何十年も校正の経験を積んでいるからといって、すべてのジャンルの校正に対応できるというわけではありません。極端な例でいうと、その会社でしか通用しない人もいます。重要なのはどの分野に強みを持ち、どういうスキルを獲得し経験してきたかです。

2. 校正の精度

優秀な校正者に任せれば安心と思う方は多いはずです。ただ、原稿が複雑であったり資料などの別紙が多かったり文章の精度が悪かったりすると、どんなに優秀な校正者でも品質を高めるのには限界があります。

たとえば、文章の精度が60点の状態のものを90点に引き上げることはできても、40点のものは頑張っても70点に引き上げるのが精一杯ということです。

文章の場合、あまりに精度が悪いとリライトしたほうが早いというケースもあります。しかし、校正者にはその権限がありません。精度の悪い文章に対して、綺麗さまでを求めると申し送りの量が非常に多くなってしまうため、全体の辻褄を合わせることに始終し、明らかにおかしな箇所にのみを指摘するという状況に陥ります。

3. 作業項目と時間

校正で確認してもらいたい項目(作業項目)を伝える場合、校正期間と作業量が見合っていないケースがよくあります。

作業項目を増やすことは簡単にできます。たとえば、表記統一表の項目でも200個ぐらいなら簡単に作れます。一方で、作業項目を絞るのは難しいことです。これには経験値も判断力も必要です。最適な段取りが求められます。予算と時間とを鑑み、ある程度の品質を担保しつつ、致命的なミスをなくすためにはどうするかを考える必要があります。

依頼の際に希望する作業項目と実作業にかかる時間が見合っているかどうかを知るには、校正者に聞くのが一番早いです。そのために事前の仕事の打ち合わせは必須です。

作業方針と作業項目の選定は仕事をする上で非常に重要です。最初の打ち合わせを省いたせいで、段取りが悪くなり、時間もお金も無駄にしてしまうケースは多いです。

4. 校正環境の変化

校正の仕事は、かつては最後の砦のような重要な役割を担っていましたが、今ではそうとも言えません。手書きの原稿やFAXでの指示は制作全体の効率を落とします。現在では、文字情報もデータでやり取りすることが主流です。

人の目だけでなくデータを使っていかに効率的に間違いを見つけていくかが鍵になってきます。校正者が見つけるまでもないミスは事前に潰しておくのが最適な仕事のフローです。近年では、校正支援ツールやAIが、校正作業の負担を軽減する役割を果たしてくれています。

校正者に手配する前に、事前に細かな間違いを潰しておき、原稿の品質をいかに高めておくかが重要になっています。

5. 校正の依頼者がすること

校正を依頼する側が事前に考えておくべきことは以下の点です。

1. 校正の作業期間をスケジュールに組み込み、校正時間を確保しておく。
2. どこを確認すべきかを校正者とすり合わせ、どういう校正のやり方が最適かを事前に詰めておく。
3. 依頼する作業内容がちゃんと予算に応じたものであるのかを検討し、校正費を確保しておく。

経験則から言うと、校正依頼者のほとんどが適正な校正価格を知りません。『こんなもんかな』という感じで何となくで算出しています。その根底には校正の作業内容や、かかる時間を理解していないことがあります。これは、依頼者だけの問題でなく、何も言わない・言われた通りのままする校正者の悪いところでもあります。

結局は、相互のコミュニケーションが大事であって、コミュニケーションを増やし少しでも誤解を生む原因をなくしていくしかありません。

2. 勘違いする校正者

続いては、校正者が勘違いしている点です。

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1. ビジネス感覚を失なった校正

校正の仕事においては、『おかしな箇所をすべて拾うこと』が求められているように思われがちですが、この考え方はいくつかの制約の上に成り立ちます。

ビジネスで校正をするのなら、限られた「予算」と「時間」という制約があるため、その範囲内で仕事の組み立てが必要になってきます。ただ闇雲に間違いを見つければいいというわけではありません。

仮にフリーランスやボランティアで校正を行う場合は、自己責任なので無制限に時間をかけることも可能かもしれませんが、正社員、契約社員、アルバイト、派遣社員として企業の中で校正をする際には注意が必要です。会社の事情や周りの人のことを考慮せず、自分の満足感だけで仕事を行うのはよくない考え方です。

この考え方がなぜダメなのかは、食べ放題のお店でたとえてみるとわかやすいです。食べ放題といっても、制限時間が決められていたり、飲食できるメニューが限定されていたりします。これは、そうしないと店側の採算が取れず赤字になるからです。店側の立場になって考えた場合当然のことで、お客の立場になったとしてもこの仕組みは誰もが納得すると思います。

ただ、この仕組みを校正の仕事に当てはめた場合なぜかわからない人が増えてきます。何の制限も設けず、採算度外視で自分の気のすむまで間違い探しに没頭する人が意外と多くいます。

飲食店と違い、校正の仕事では時間やメニューできっちり線引きできないという問題もありますが、予算の意識がなく採算がとれるラインを欠如した校正の仕事は長続きしません。

自分一人が責任を持つ、もしくは会社から時間を気にせずに好きなだけやればいいよと言われている場合は別ですが、予算が決められている場合は、まずはその予算に見合う範囲の仕事を組み立てるのが普通の考え方です。

予算に見合うようにするにはどういった校正のやり方にすればいいかを考えます。たとえば、作業項目を絞る、校正ツールを使う、原稿の精度を上げてもらう、どうしても予算がオーバーしそうなら価格交渉をするなどの選択肢が生まれてきます。

何も考えず言われた通りそのままやっていると、何のアイデアも生まれないことになります。

2. 校正の「価値」を見誤る

『間違いを見つければお客さんに喜んでもらえる』、これを校正の価値、喜びとする考えも危ないものです。

この考えのもとに校正を行い、過剰品質に陥いってしまうケースがあります。最終的なワークタイムと事前の見積もりを計算し、割に合わなくなっている状態が続いているなら危険です。(追加予算が見込める場合は問題ありませんが)

この考えがダメな理由は、予算以上の仕事をして喜ばれるのは当たり前のことだからです。過度なサービスを提供されて喜ばない人はほぼいません。これは価値と言えるものでありません。そこに対価があってはじめて価値と言えます。お金よりも褒め言葉をとるのなら別ですが、これは接客業で問題になっている過剰サービスと同じです。

自分では当たり前と思っていることが、誰かの負担になっていて、誰かを疲弊される原因となっていることがあります。

こうした問題も自分だけの負担になるなら自己責任ですみますが、複数のメンバーで校正をするときに、誰かがこの考え方に陥っているとその人が全体の足を引っ張る原因となります。特に上司がこのマインドでいる場合、その下の者にとってはこの考え方がスタンダードになってしまうため、校正の仕事が儲からないものとなり、企業であれば合理化の対象になっていきます。

校正者は目の前の作業に没頭するだけでなく、制作フロー全体の中で効率化や改善を考慮しながら、どのように作業を進めるべきかを常に意識する必要があります。

もちろん、効率化を優先するあまり品質が損なわれるようなことがあれば、アラートを発することが求められます。校正の仕事は、単にミスを見つけることだけではなく、全体を見渡し、より良い結果を導くための工夫と判断が求められます。事前設計や予算交渉は当然の考えです。

おわりに

依頼者も校正者も、それぞれ自分の立場から良かれと思ってやっている行動がどこかにひずみを生んでいることがあります。口に出して言わないだけで、それに気付いている人も多いでしょう。その状態が続くと、互いにストレスが溜まり、疲弊していくばかりです。

校正を依頼する側は、校正者がどのように校正作業をしているかわかっていないことがあります。一方で、校正者も効率化や改善の観点を持たず、言われた通りの作業を続けているというケースがあります。このような状況では、依頼者側からも校正者側からも何もフィードバックがないため、現状で問題ないと思い込み、改善の意識が生まれません。

このような問題には、結局はビジネスの基本であるコミュニケーションが大切になってきます。誤解や勘違いは、互いに歩み寄り、理解することで解決の糸口を見つけるしかありません。

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