表記揺れの意味と表記ルールの考え方[表記統一のルール作りの基本]

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表記揺れの意味と表記ルールの考え方[表記統一のルール作りの基本]

表記揺れとは、一つの意味を成す語句が同じ文書や書籍の中で、異なって表記されることをいいます。表記ゆれ、表記のゆらぎともよばれます。

表記が揺れている状態を、表記がバラついている、表記の仕方が違う、表記が不統一などと表現することもできます。

制作の関与者が多い場合や、文書の差し替えが発生したり追加の修正が多かったりすると、表記揺れが起こりやすくなります。

表記揺れの例

以下は、漢字とひらがな、音引きの有り無しなどで表記の違うものです。

子ども   ⇔   子供
お客様   ⇔   お客さま
出来る   ⇔   できる
下さい   ⇔   ください
データ   ⇔   データー
ユーザ   ⇔   ユーザー

文章内で表記が揺れている場合、どの語句に合わせるべきかルール化したものを表記ルールといいます。表記ルールがあると、表記が揺れていたときの修正基準が明確になるため作業効率を高めることができます。

文章内の表記揺れをなくすことにより、文章全体に統一感が生まれ読者にとって読みやすいものとなります。

表記の分類と範囲

表記を大きな括りで分類すると、文体はどうするか、常用漢字のみ使用するのか、常用外も使用可能かなどでわけることができます。

細かくみていくと次のように広範囲に及びます。

•  漢字と仮名、カタカナの表記
 
煙草・たばこ・タバコ
•  送り仮名のつけ方
 
取り組み・取組み・取組
•  カタカナ表記
 
エッセイ・エッセー
•  数字の表記
 
漢数字・算用数字
•  単位記号の表記
 
cm・センチメートル
•  かっこ類の使い分け
 
書籍名を『 』で括る
 etc.

数字の表記、単位記号の表記になれば、縦書き・横書きの文章で表記が異なってきます。

また、表記ルールを適用する範囲(表記統一をする範囲)も違ってきます。理想をいえば、一つの書籍全体を通して表記揺れのチェックをするのがいいわけですが、納期や予算の兼ね合いにより条件が変わってくることもあります。

たとえば、章単位、節単位、見開きページ単位などで表記統一をするといった感じです。また急ぎの仕事においては、表記揺れを無視して致命的なミスだけに集中するということもあります。

表記揺れに対する考えは、企業や媒体、そのときの状況によっても変わってきます。環境に応じて作業方針に従う必要があります。

具体的な表記ルール

表記揺れは、単純にどちらかの語句に揃えればいいというだけではありません。中には場面によって判断が必要な場合もあります。

1. 場面・状況による使い分け

1.「とき・時」

・勉強するときは~
・時は金なり   

基準:場合を示すものは「とき」、時間を示すものは「時」とする。

2.「こと・事」 

・勉強することは~
・事がうまく運ぶ

基準:文を名詞化するとき使用する場合は「こと」とする。

の「とき」や「こと」は形式名詞とよばれます。

形式名詞とは、実質的な意味を持たず本来の意味が薄れてしまった名詞をいいます。

「とき」や「こと」以外にもよく使われる形式名詞はいくつかあります。

・もの  …  それを正しいものと認識する。
・ため  …  急いでいたため、忘れてしまいました。
・ところ …  お急ぎのところ申し訳ありません

これらは漢字にせずひらがなに置き換えるのが一般的とされます。

3.「および・及び」

・AおよびB
・影響が及びます。

接続詞か動詞によって、漢字とひらがなを使いわけることもあります。

※公用文では、以下の接続詞は漢字で表記します。
 及び 又は 若しくは 並びに

文章内に表記揺れがあっても、意図的に使い分けている場合があります。表記が揺れているからといって、機械的に何でも正すわけではありません。

2. 媒体による使い分け

「箇所・個所・か所・カ所・ヵ所・ケ所・ヶ所・コ所」
「箇月・個月・か月・カ月・ヵ月・ケ月・ヶ月・コ月」

これらは表記方法が多く、表記揺れがよく起こるものです。

新聞では「カ」の使用が多く、公用文では「〇か月」とされます。
放送用語では「訂正の箇所」「3か所」のように、前に付く語によって「箇」と「か」を使い分けます。【参考】> NHK放送文化研究所

このように業界や媒体ごとで違う表記が使用される語句も多くあります。どの表記が正しいかというよりも、置かれた環境でどれが適切かを判断しないといけません。

3. 送り仮名

・~を受け取りました。
・~を受取りました

このような送り仮名の表記揺れは、表記ルールがなければ、辞書や記者ハンドブックを参考にすることが多いと思います。

ただ、あくまでもそれらは迷ったときの判断材料となるもので絶対に正しいというわけではありません。

何を正しい表記とするかは、発注者(著者・クライアント)の意向が優先されます。次に読者にとって理解しやすいものかを考える必要があります。

制作者や校正者の判断が優先されるものではありません。

記者ハンドブック」
(一般社団法人共同通信社)

 記者ハンドブック
 > 記者ハンドブック 第14版

「送り仮名のつけ方」
※文化庁HPからPDFがダウンロードできます。

表記揺れの意味とルール
> 送り仮名の付け方

4. 固有名詞

固有名詞は、原稿ままの表記とするため表記ルールの適用外とするのが普通です。

たとえば、表記ルールに「取組み」は「取り組み」に統一すると記載されている場合。

文章中に『校正への取組み方法 vol.1』という書籍名が出てきても、表記ルールに従って『校正への取り組み方法 vol.1』と修正することはしません。書籍名や商品名などの固有名詞は原稿ままにします。人名や地名なども当然そのままにします。

検索置換で文言を一括で置き換える場合は、固有名詞を除外するように気をつけなければいけません。

5. カタカナ表記(外国の人名や地名など)

日本語の表記が揺れていた場合、たいていは表記揺れだとわかりますが、カタカナ表記になるとわかりづらいものがあるので注意が必要です。

・人名の揺れ
 ヴァスコ・リヴェール  ⇔  バスコ・リベール

・地名の揺れ
 アヴィニョン ⇔  アビニヨン

・名詞の揺れ
 ヒンドゥー教 ⇔  ヒンズー教 ⇔  ヒンド教 ⇔  ヒンドゥ教

このようなカタカナの表記揺れが近くに出現した場合は、「表記揺れかな?」と思えますが、離れたページに出現した場合は、表記揺れでなく別のことばだと誤解する恐れがあります。

他にも専門用語や馴染みのない用語などの表記揺れには特に注意が必要です。

表記ルールの作成・見直し

表記ルールは、新聞社、出版社、各業界で違ってきます。また同じ出版社でも媒体が違えばルールが違うこともあります。

同じ出版社が発行するものでも、A誌では「マネジメント」、B誌では「マネージメント」と表記する場合もあります。

どの媒体でも使える万能な「表記ルール」というものはありません。部分的に流用できることはあっても、丸々流用できるということはないです。そのため表記ルールは、企業や媒体それぞれに見合った適切なものが必要となってきます。

仮に何も基準がない中で、一から表記ルールを作るというなら「日本語表記ルールブック」をおすすめします。

文章校正での表記に関する知識が、この一冊に網羅されています。この書籍に沿って作成すれば迷うことなく骨子を作成することができます。

また既存の表記ルールを見直したいというときでも、この書籍を参考にすれば抜け漏れなどの確認に役立つはずです。

表記ルールの作成は、まず骨組みとなる部分を作成し、それに肉付けしていくといった形で進めるとスムーズにいきます。

骨組みの作成者は一人でも大丈夫ですが、肉付けの段階では関与者で話し合って作り上げていくのがベストです。

運用する中で微調整をしていき内容を固めて行くのが最適な流れです。

表記揺れチェックはソフトで可能

表記揺れチェックは、現在ではソフトを使っても検索できます。校正において表記揺れの確認作業は、デジタル化によってかなり省力化できている領域です。

チェックは無料ソフトでも可能ですが、有料ソフトになれば固有名詞の登録、活用形を考慮した表記揺れの検索も可能になってきます。

前述した「とき・時」のような状況によって使い分けの判断が必要のものに対しては、まだまだソフトで発見するのは難しいですが、それ以外のものならかなり高い精度での検索が可能です。

有料ソフトに比べると精度は劣りますが、Wordでも表記揺れチェックができます。

PDFの高度な文字検索機能を使えば、任意の文字を探し出すことができます。複数検索も可能なので、表記揺れチェックにも活用できます。

おわりに ~ルール作りが大切~

表記揺れを少しでもなくすには、ルール作りが欠かせません。複数の制作者・校正者がいる制作環境であれば、基準となるルールを作成しておくと作業の効率化が図れます。

ただ表記ルールが多すぎたり、ルールにこだわりすぎたりすると、かえって効率を損なう恐れがあります。ある程度は柔軟性を持ったルール作りが必要になってきます。

一方、柔軟すぎてイレギュラーな項目が増えてくると、表記ルールそのものが形骸化されることも考えられます。

表記ルールは作って終わりではなく、定期的な見直しが大切になってきます。

[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]

・編集校正小辞典_ダヴィッド社
・日本エディタースクール出版部_新編 校正技術
・デジタル大辞泉_小学館
・文化庁 > https://www.bunka.go.jp/index.html