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校正・校閲でミスを防ぐシンプルな方法:物差し1本で読み飛ばしを防げる理由
校正・校閲業務においては、細心の注意を払って文章を読み進めていても、細かな見落としが発生します。たとえば、「うっかり一行を読み飛ばしてしまった……」というミスは、決して珍しいことではありません。
この手のミスは、ケアレスミスで片づけられるものではなく、個人の能力に起因するものでもありません。人の脳の仕組みに原因があります。
そこで有効となる手段が、身近にある『物差し』の活用です。
文章を確認する際、ペン先や指で文字を追いながら読む方法は、集中力を高めるために無意識に行われる行動の一つです。物差しを使って一行ずつ視線を誘導する方法も同様です。
物差しは単なる文房具ではなく、校正の効率化と品質向上の両方を叶える、校正者の強力な助っ人的存在となりえます。

1. なぜ読み飛ばしが発生するのか
そもそもなぜ読み飛ばしが発生するのか……? 文章の一行を読み飛ばすミスが発生する主な要因は、人の視野の広さにあります。人は意識を集中させている以外の部分に対しても、周辺視野によって無意識に情報を捉えています。この周辺視野に入る情報が、意図しない視線の移動を誘発します。
その結果、一行ずつ正確に読み進めているつもりでも、視線が次の行へ不意に移動してしまい、本来確認すべき行を見過ごしてしまうミスが起こります。このような現象は、体調が悪いときや疲れているときなど集中力が低下している際に顕著に起こりやすくなります。
2. 読み飛ばしを防ぐには
文章を読む際に、読み進める行の下に物差しを添えることで、他の行からの視覚的な干渉を物理的に制限することができます。

これにより、確認中の行以外の不要な視覚情報が遮断され、かつ視点の動きも固定されるため注意が散漫になるのも防ぎます。その結果、視線が安定し読み飛ばしといったミスを抑制することができます。
次の文章は物差しを使用していないものです。上の文章と比べれば、物差しがあるとないとでは一行の見やすさが明らかに違うことがわかります。

万が一、行の読み飛ばしに気づかないままだとしたら……。
重大なミスにつながる危険性があります。そのためにも、こうした対策は極めて大切です。
3. 物差しを活用するメリット
物差しを使用するメリットをまとめると以下のようになります。
① 視線を安定化させる
→ 視線を一行に固定し、目の動きを安定させることで、読み飛ばしのリスクを低下させます。
② 視覚情報を制限し、周辺視野からの干渉を防ぐ
→ 一度に目に入る情報量を絞り込むことで、上下の行などの情報が視野に入ることを防ぎます。
③ 作業位置が明確になる
→ 現在確認している箇所を物理的に示すことで、「どこまで読んだか」という位置が明確になります。
物差しを当てるといった単純な行為ですが、視覚情報が整理され、意識を今見ている一行に集中させることができるため大きな効果が得られます。
4. 文字だけではないレイアウトのミスを発見する
校正の仕事においては文章の確認も大切ですが、レイアウトの整合性を確認することも大切です。一見すると整っているように見える誌面でも、実際には段落の字下げや文字間・行間の不揃いといった細かなズレが発生することがあります。
このようなズレは、文字の周辺の画像や表、グラフの配置によって、目視だけでは正確に見つけることが困難なことがあります。しかし、物差しを誌面に当てることで、これらのズレも正確に見つけることができます。
たとえば、物差しを垂直に当てることで、体裁の確認もできます。
① 文頭に当てて、一字下げかどうかを確認する

② 文末に当てて、末揃えかどうかを確認する

同様に、行間や文字間が均等かも物差しで測定することで、部分的な「詰まり」や「広がり」といったミスも見つけ出すことができます。
さらに次のような確認にも有効です。
(1)ブロック要素の位置確認
・図版などのブロック要素が、意図した位置に正確に配置されているか、上下左右の余白は均等か。
(2)見開きページでの確認
・見開きのページにおいて、左右で対応する見出しやノンブル、ヘッダー・フッターの位置が揃っているか。
たとえば、以下のようなイラストとコピーがあるものは、目視だけでなく物差しを当てて確認するのが最適です。

▼ 物差しを当てて確認するポイントは次のような箇所です。
① 位置が揃っているか?
② アキが同じか?
③ 大きさがおかしくないか?

こうした物理的な確認方法は、AIやデジタル校正で見つけるのは現段階では不可能なため、物差しによる細部の体裁の確認が欠かせません。特に紙媒体の校正において物差しは、誌面全体の品質を視覚的に保証するための重要なツールの一つです。
おわりに
校正・校閲において物差しを活用することは、視線を物理的に安定させ、行の読み飛ばしといったミスを防ぐだけでなく、レイアウトのズレや誌面全体の体裁の確認にも役立ちます。
簡単すぎて、「効果があるのかな?」と思えるような工夫ですが、こうした一手間の積み重ねこそが、最終的に制作物全体の品質を保証するものとなります。
「物差し」と「定規」の違いについて
物差しは、物の長さを測るための道具で、表面には目盛りが刻まれています。物差しの本来の目的は長さを測定するものであり、定規は主に直線を引くためのものです。ただし、現在市販されている製品の多くは目盛りが付いた定規であり、両方の機能を兼ね備えています。そのため両者の区別は曖昧になり、同じような意味で使われることも多いです。