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校正のデジタル化(自動化ツール)が進んでいる部分vs進まない理由
デジタル校正と聞くとバラ色のようなイメージを持つ方もいると思います。これまでのアナログな校正を人の手を介さずに自動化できるイメージがあるから当然です。
今ではデジタルツールの進化により原稿作成は効率化されてきています。原稿に赤字を入れたり、その指示を確認したりすることも便利になっています。
昔は紙の原稿に手書きで修正指示を入れていましたが、現在ではタブレット上でペンツールを使って修正指示を入れることもできます。いつでもどこでも原稿を作ることが可能です。
書いた原稿をPDFにしてメールで送れば、紙の原稿をわざわざ送る手間もありません。一瞬で仕事が終わるという便利な時代になっています。ペーパーレスにもなり一石二鳥といったところです。
そうなると、原稿作成だけでなく「じゃあ校正もデジタル化しよう!」と考えるのが必然です。
簡単にできそうですが、なかなか思うように進みません。
「何がネックになっているのか?」
「どうすれば、加速していくのか?」
それらを考えて行きたいと思います。
デジタル校正と似た言葉に、オンライン校正があります。デジタル校正と混同されがちですが、少し毛色が違います。オンライン校正で効率化できるのは、主に原稿を出す/それを集約する側、顧客や編集や進行管理などです。
校正という言葉がついているので惑わされるかもしれませんが、一般的なイメージの校正者がする作業をオンラインでやるというものではありません。制作フロー全体を効率化していく意味合いの強いものです。
1. デジタル化(自動化)が進んでいるところ
デジタル校正が進んでいる領域(=校正作業がデジタル校正ソフトに置き換わっている領域)は、身近なところで大きく2つあります。
1. PDFの差分チェック
これは知らない人がいないぐらい有名です。この機能は、有料/無料かなりのソフトが出回っています。有料なら、非常に精度の高いものもあります。
この機能により、校正者が行なっていた「めくり合わせ(パタパタ)」という作業を、デジタルに置き換えることができます。赤字の少ない段階では非常に有効です。
たとえば、
1ページに2~3か所程度の赤字で100ページほどの分量の校正作業なら、半日あれば一人で十分できます。ソフトがやってくれるので、何百ページあろうとも疲労による集中力の低下もありません。効率化だけでなく品質を維持するのにも効果的です。
ページの多いカタログなどを扱う会社で、めくり合わせ(パタパタ)作業を校正者に頼りきっているようであれば、すぐにでも導入することをおすすめします。
2. 表記統一(表記ゆれチェック)
表記統一にルール(どの文言に揃えるか)があるなら、その決められた文言を探し出すのはデジタルが得意とするところです。ルールがなくてもソフトでなら、ある程度の表記ゆれを検出することができます。現在では、表記揺れの確認を人の目だけで行うのは非常に効率の悪い作業です。
PdfやWordでも表記ゆれの検索はできますが、単語の活用形まで考慮すると難易度はグッと上がります。ただ、それも検索可能なソフトも販売されています。
アナログな校正のやり方では、表記統一すべき文言が多ければ多いほど、ボディーブローのように校正者を疲弊させます。表記統一のチェックをデジタル化することで、校正者は文章を読むことに専念できます。省力化と品質向上の両方を叶えるものです。
■デジタル校正として有名なものに、 JustSystemsから発売されている「Just Right!(ジャストライト)」という校正支援ソフトがあります。
公式サイトから無料で試すことができます。興味のある方は是非どうぞ。
この手のソフトは漠然と使うのではなく、こういう箇所の誤りを見つけてほしいという明確な目的を持って使用したほうが効果が期待できます。またカスタマイズすることで精度はかなり上がります。
とりあえず校正ソフトを試したいという方は、表記ゆれのチェックから試してみることをおすすめします。
2. デジタル化(自動化)が進まない理由
1. 費用対効果が心配
導入コストやその検証・カスタマイズに労力(=人件費)が割かれると思い、コストや時間を掛けるくらいなら、今まで通り校正者にお願いするという考えです。
前述の「PDFの差分チェック」や「表記統一」の2点だけでも成功事例は山ほどあります。ノウハウは簡単に手に入ります。デジタル化できない領域も校正にはまだまだありますが、少しネットで調べれば導入に対する不安もなくなります。
初期費用も維持にかかる費用もすぐに回収できることがわかります。
2. 心理的にデジタルは不安。校正者の目に依存
初めの一歩は何でも不安ですが、デジタル校正ソフトを何度か検証すれば、その不安も消えます。どこまでできるかは実際自分で試してみるのが一番です。体験版で試すことや、多数の企業が出展するイベントなどに行けばデモも見られます。
この考えの方は、校正者にかなりの信頼を寄せている方かもしれませんが、その校正者の数も減りつつあるのが現状です。いつまで頼りにできるかわかりません。早いうちに自分が動くしかないです。
3. 使えるデジタル校正ソフトがない
色々とデジタル校正ソフトを探して試してみたけど、今あるソフトでは使えないと思っている方。
結論からいうと、校正者に完全に置き換わる校正ソフトは生まれません。そのため理想の校正ソフトを待つよりも、今あるもので部分的にでも効率化を図るしかありません。
断言してしまうと語弊を生むかもしれませんが、ソフトがすべての間違いを見つけてくれる時代が来たら、まず校正という仕事どころか、他の仕事も大多数が存在しなくなっているはずです。
仮にそのような理想的なソフトが開発されたとしたら、編集者やライター、進行管理、DTPオペレーターすら不要ということも十分に考えられます。校正うんぬんの話ではありません。
そのソフトが開発されたときには、校正向けのソフトではなく、おそらく日本語を扱う職種に向けた日本語解読ソフトみたいなものになっているはずです。
3. デジタル化(自動化)を推進させるために
PDFの差分チェックと表記統一、これがどのような過程で生まれたか定かではありませんが、校正者側から提案したものとは考えがたいです。
データを常に扱うDTPオペレーターやデザイナーなどが、
「修正前のデータと修正後のデータを比較すればいいんじゃないの?」と思い立った結果、校正のめくり合わせ作業がPDFの差分チェックによって不要になったと思われます。
表記統一も、表記ルールを作る側の編集やライターなどが、管理する手間やもっとラクにできる方法はないかと考えた結果生まれたと考えるほうが妥当です。
その裏付けに、未だに表記統一をがっつり校正者任せしている校正会社もあります。
仮にデジタル校正に置き換えられる部分があったとしても、校正作業は属人化されブラックボックス化されている部分が多いです。そのため、外部から校正者の作業内容がわかりづらくなっています。
要するに、外から見たら実際に何に困っていて問題がどこにあるのかが不透明ということです。
解決すべき問題にもっとも近くにいる校正者が、現状のやり方に固執せず、新しい手法を考えていくことがデジタル校正の推進には欠かせません。
本来ならデジタル校正の推進を行うべきは校正者が適任ですが、校正の実情を知らない人が推進者になってしまうために、なかなか効果が出ない・導入が進まないといった状況に陥ります。
4. デジタル化(自動化)が進まない最大のネック
「どうせ紙で出力するなら人の目で見たら?」になるパターン。
Web校正でもそうですが、画面上でなく紙で出力して校正することは多いです。赤字や疑問の入れやすさ、エビデンスとして残すには紙のほうが便利だからです。
今後、デバイスの進化により赤字や疑問の入れやすさは解決しても、紙とデジタルデバイスの決定的違いである、視野の制限は解決が難しいところです。この視野の制限がなくならない限りは、従来の校正に固執するのも仕方ないかもしれません。
ディスプレイの限られた範囲では、その画面で表示されているページが、今見ているすべてになってしまいます。紙の場合は、複数ページを並べて同時に見比べることができるので、間違いや不揃いにもすぐに気付けます。
PCのウィンドウを分割して表示させるという方法もありますが、そうすると一つの画面サイズが小さくなり、一度に表示できる面積が限られます。鳥瞰的な見方が難しくなります。
ディスプレイを2台並べてもコスト的な問題があり、2ページ以上の枚数になったらお手上げです。
この問題をクリアしない限り、
「どうせ、紙で出力するなら人の目で見たら?」に陥るパターンになります。
おわりに
現在、出回っているデジタル校正ソフトは、あくまでも校正業務をサポートする位置づけのソフトです。
デジタル校正は、校正者に置き変わるものと思われがちですが、実際は『制作工程の前段階で単純な間違いを潰しておくことで、後工程の校正作業の負荷を軽減する』というものです。
そのため校正作業の全部を置き換えられるという考えでなく、部分的に代替可能なものと位置付けておいたほうが、デジタル校正を導入できる領域がたくさん出てくるはず。
「全部できないなら、まだ校正者に任せてもいいんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、その校正者の数も減りつつあるのが現状です。今、校正者任せにしている仕事が数年後、自分でやらなくてはいけない日が来るかもしれません。
今の内から取り組んでおけば十分間に合います。まずは、デジタル校正で「できること・できないこと」を理解し、部分的に置き換え可能な業務を見極めていくことが優先です。