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文章の表記統一[表記ゆれを正す際に知っておきたい基本ルール]
表記統一とは、表記がゆれているものを正す作業のことをいいます。文章の作成や校正をする方にはよく知られている作業です。表記を統一することで文章に統一感を持たせ、きれいに整えることができます。
具体的には、一つの文章の中に「及び/および」や「又は/または」など、同じ意味なのに違った表記が混在している場合に表記がゆれている(表記ゆれ)といいます。このような文章内の表記ゆれをなくしていく作業が表記統一です。
文書を差し替えたり追加の修正があったりすると、表記ゆれが起こりやすくなります。
以下は、漢字とひらがな、音引きの有り無しで同じ意味なのに表記がゆれているものです。
子ども ⇔ 子供
お客様 ⇔ お客さま
出来る ⇔ できる
下さい ⇔ ください
データ ⇔ データー
ユーザ ⇔ ユーザー
どの表記に統一すべきかというルールは基本的に、出版社や企業などが独自で決めて作成していくものです。そのような表記統一すべき用語やルールをまとめたものを表記統一表とよびます。校正者はこの統一表をもとに校正を行います。
ただ、すべての用語に対してルールを設けるというわけでもありません。重要な用語や頻度の高いものだけを記載し、それ以外は状況に応じて対応することもあります。
そうする理由にはいくつかありますが、統一ルールを細かく定めすぎてしまうと原稿を執筆する段階での自由度が狭くなってしまうことがあげられます。またルールが多すぎると確認する側の負担が大きくなるといった理由もあります。
1. 表記統一ルールがない場合はどうするか
では校正をするときに、表記統一表がない、もしくは表記統一表にない用語が出てきた場合、どれに統一すべきか?
校正者が何を基準にするか勝手に判断できるものではありません。決定するのは発注側や編集者などになります。
たとえば、発注者が表記統一表を持たず「表記がゆれていたら指摘しておいてほしい」と依頼された場合。
こういった際に文章内で表記ゆれを見つけたときは、文章内で多く出現しているほうに合わせるのが無難です。出現数が半々ぐらいの場合には、「どちらかにソロエル(アワセル)?」という指摘を鉛筆で指示します。
・多出の表記に合わせる
取組みが3つ、取り組みが1つなら、多いものに揃えるほうが修正量が少なくてすみ効率的です。
・どちらかの表記に合わせる
取組みと取り組みの出現数が同じ場合は、両者を鉛筆で囲み一括で指摘すると指示がスッキリして見やすくなります。(鉛筆でなく、マーカーやダーマトならより目立ってわかりやすいです)
辞書や『記者ハンドブック』のような漢字やかなづかい、送り仮名の扱いについて詳しく記載されている用字用語辞典にならって統一することもあります。
「“○○”と“△△”で表記がゆれています。記者ハンドブックにならって“○○”にしますか?」
「P.5では“○○”ですが、ここは“△△”。□□辞書10版では“○○”が本則です。“○○”に統一しますか?」
など。
また表記ゆれが数個程度なら疑問出しで対処しますが、あまりにも多いようなら、指摘を出し続けるよりも発注者側に確認するのが賢明な判断です。
▼ 表記統一について簡単にまとめると次のようになります。
・表記統一表にある用語がゆれている → 赤字
・表記統一表にない用語がゆれている → 疑問出し
・表記統一表自体がなく表記がゆれている → 疑問出し
・表記統一表自体がなく表記ゆれが多い → 発注者に確認
2. 表記統一をするにあたっての注意事項
表記統一は簡単な作業のように思えますが注意すべき点もあります。表記ゆれがあったとき、単純にどちらかの用語に揃えればいいというわけでもありません。場面によって意図的に使い分けをしている用語もあります。
たとえば「時」と「とき」の例。
・この問題は、時が解決してくれる。
・赤ペンは、校正をするときに必要な文房具です。
この例文では、名詞として時間を表す場合は漢字で「時」と表記し、形式名詞の場合はひらがなで「とき」と表記しています。文の内容に応じて、「閉じる」か「開く」を判断することもあります。『表記がゆれている……』と思っても、機械的にどちらかに揃えればいいというわけではありません。
形式名詞とは、実質的な意味を持たず本来の意味が薄れてしまった名詞をいいます。
「とき」以外にもよく見られる形式名詞はいくつかあります。
・こと/事 … 長時間、集中力を維持することは大変です。
・もの/物 … それを正しいものと認識する。
・ため/為 … 急いでいたため、忘れてしまいました。
・ところ/所 … お急ぎのところ申し訳ありません。
これらは漢字にせず、ひらがなで表記されることが多いです。
他にもあえて表記を統一しないことがあります。
発注者(著者など)の意向により表記をそのままにするということもあります。たとえば、小説で登場人物によって一人称が「僕/ぼく/ボク」などと書き分けられているといったものです。また、スケジュールや予算の関係で表記統一にまで時間をかけられず全くしないということも珍しくありません。
3. 表記統一ばかりに気を取られていると
表記統一をすることはその文章に統一感を持たせ、読者に違和感を与えず文をきれいに整える役割を果たす大切な作業です。
ただ表記ゆれは、誤字脱字などとは違って明らかな間違いとは言い切れません。表記がゆれていても文意が変わることなく普通に読めることもあります。
しかし、校正者の視点では表記がゆれていると目につきやすいものです。一つ見つけてしまうと他にも目が行ってしまい、何個も出てくると文章を読むときに気が散ってしまいます。
そうなると視点が部分的になり狭くなるので、全体的な文章の整合性や誤字脱字の発見がおろそかになる可能性があります。明らかな間違いが見逃される恐れがあるということです。
自分では正しく読んでいるつもりでも表記ゆれに意識が行ってしまいます。これは校正経験の浅い方がよく陥ってしまう状態です。
4. 表記統一はソフトと人の目で潰す
現在では、この表記統一の作業は、かなりの精度でソフトを使って洗い出すことができます。
昔と違い今では手書きの文章のほうが少なく、Wordなどのテキストデータがほとんどです。原稿を校正者に出す前に表記統一を事前にする著者や編集者もいます。
校正者でもPDFさえあれば、データ上で語句の検索が可能なので表記ゆれを探し出すことができます。
表記統一を校正紙(ゲラ)で行なっているなら改善できる部分です。うまく行けば時間の短縮と品質の向上の両方が見込めます。
ソフトによる表記統一は、無料ソフトでも可能ですが、有料ソフトになれば固有名詞の登録、語句の活用形を考慮した表記ゆれの検索も可能になってきます。
前述した「時/とき」のような場面によって使い分けの判断が必要なものに対しては、まだまだソフトで発見するのは難しいですが、それ以外のものなら高い精度での検索が可能です。
有料ソフトに比べると精度は劣りますが、Wordでも表記ゆれチェックができます。PDFの高度な文字検索機能を使えば、任意の文字を探し出すことができます。複数検索も可能なので表記統一にも活用できます。
・表記統一は校正者でなくても十分できる
・校正紙(ゲラ)の状態で、人の目で表記ゆれを見つけていくのは効率が悪い
・テキストデータの段階なら、ソフトを使って高い確率で表記ゆれを見つけられる
・ソフトを使えば、少コストで得られる効果は大きい
5. 表記統一に役立つ書籍やサイト
1.「記者ハンドブック」(一般社団法人共同通信社)
『漢字と平仮名どちらを使うのか、送り仮名はどう付けるのか、同音異義語の使い分けは? 用例が豊富な用字用語集と読みから引ける漢字表。外来語の正しい使い方も明記(amazonより引用)』
2.「公用文作成の考え方(文化審議会建議)」(文化庁)
文化庁のサイトで無料で公開されている「公用文作成の考え方」-『表記の原則』の章に、漢字の使い方、送り仮名の付け方、外来語の表記などが記載されています。
3. 外来語(カタカナ)表記ガイドライン(一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会)
こちらのサイトでは、カタカナ表記のルール作成に役立つガイドラインが公開されています。
4.「日本語表記ルールブック」(日本エディタースクール出版部)
> 日本エディタースクール出版部
> amazon
こちらの書籍では、どのようなものに対して表記統一をすべきかが簡潔にまとめられています。
【例】
• 漢字と仮名、カタカナの表記
→ 煙草/たばこ/タバコ
• 送り仮名のつけ方
→ 取り組み/取組み/取組
• カタカナ表記
→ エッセイ/エッセー
• 数字の表記
→ 漢数字/算用数字
• 単位記号の表記
→ cm/センチメートル
etc.
おわりに
表記統一は文章を整える大切な作業のひとつですが、校正では他に優先すべきことがあります。統一すべき用語が多ければ多いほど確認作業に追われ、重大な誤りが見逃される恐れがあります。
そのため事前にソフトである程度の表記ゆれを潰しておき、カバーできない部分は人の目で確認するという流れがベストな校正方法です。
また表記統一表の定期的な見直し、統一用語を厳選することも大切です。