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「させていただく」の適切な使い方
「させていただく」の使い方が間違っているということをよく耳にしますが、間違える原因の多くは「させていただく」を単に丁寧で礼儀正しさを表す場面で使用するものと誤解しているせいかもしれません。
この記事では、「させていただく」の成り立ちから意味、適切な使い方、間違えやすい例、注意点まで紹介していきます。
1.「させていただく」の成り立ち
「させていただく」は丁寧表現で、動詞の使役形「~させる」と謙譲語の補助動詞「いただく」が組み合わさった敬語表現です。
使役形『~させる』→ 自分や他者の行動を「~させる」という形で表現。
謙譲語『いただく』→「もらう」の謙譲語で、自分が相手から何かを受けることをへりくだって表す。
この二つを組み合わせることで、「自分の行動を相手の許可や恩恵によって実施すること」を、丁寧かつ謙虚に伝える敬語表現「させていただく」となります。つまり「させていただく」は、自分の行動を低め、相手に対する敬意を示す表現方法ということです。
2.「させていただく」が持つ3つの意味
「させていただく」には以下の意味合いが含まれています。
① 相手(または第三者)の許可や恩恵を受けている
② その行為について感謝の気持ちがある
③ 自分の行動が相手に関している
このように「させていただく」の使用には自分一人の判断や意思だけではなく、相手の承諾や配慮が前提であることがポイントです。特にビジネスシーンで使われる場合は、「相手の了承のもとに、丁寧に行動する」というニュアンスが強まります。
3.「させていただく」の適切な使用例
「させていただく」は、相手の許可や恩恵を受けて行動する際に使う丁寧な表現です。適切な使用例とポイントを紹介します。
<適切な例①>
・依頼や確認の際に使用
明日、関連資料を送らせていただきます。
この文では「自分が関連資料を送る」という行為について、相手の了承や許可を得てから丁寧に伝えたいときに「させていただく」を使っています。単に「送ります」と言うよりも、「送らせていただく」ということで、相手の意向や状況を尊重しつつ自分の行動を伝えています。
「送らせていただきます」という表現は、「問題ないようであれば、明日資料を送ります。ご確認ください」といった丁寧な表現よりも、さらに一歩踏み込んで相手の意向に配慮する姿勢を強調した表現です。
<適切な例②>
・許可を得て行動を開始する際に使用
お時間をいただき、説明させていただきます。
相手に自分の説明のために時間を割いてもらうことに感謝し、そのうえで説明を始める場合に「させていただく」を使用。相手の時間を使うことに対する謙虚な気持ちや遠慮を込めて、「説明します」とストレートに伝える代わりに、「説明させていただきます」と丁寧に表現しています。自分の都合だけで説明するのではなく、「相手が認めてくれたから説明できる」というへりくだった姿勢を表します。
<適切な例③>
・謝罪や報告の場面での使用
ご迷惑をおかけして申し訳ございません。至急対応させていただきます。
何か問題が起きてしまい、相手に迷惑をかけたことを謝罪する場面での使用。「至急対応します」とだけ言うよりも、「させていただきます」という言い方で、相手に対する謙虚さや配慮を強調しています。「自分が対応できるのは相手が許してくれるから」「迅速に動くことで、信頼を回復したい」という気持ちを丁寧に伝える表現です。単なる事実の報告や宣言よりも、より誠意や丁寧さが伝わります。
<適切な例④>
・感謝の意を込める場面での使用
ご指導のおかげで、プロジェクトを無事完了させていただきました。
自分がプロジェクトを完了できたのは相手のサポートや指導があったからだと感謝の気持ちを述べるときに使用。「完了しました」ではなく、「完了させていただきました」とすることで、成果を自分ひとりの力ではなく、相手の協力があってのものだと強調しています。感謝や謙虚な気持ちを伝え、相手への敬意を表す言い方です。これは、ビジネスや目上の人とのやりとりでよく使われる表現です。
4.「させていただく」の間違った使用例
続いて「させていただく」がよく誤って使われる例を見てみます。ビジネスや日常の場面でよく目にする「つい使ってしまいがちな正しくない使い方」です。
間違い例に共通しているのは、自分の判断や都合だけで行動しているにもかかわらず、あたかも相手への配慮や許可を得ているかのように、丁寧な言葉で表現しているところです。
丁寧な言い回しであっても、内容と敬語表現が合っていないと違和感が生じてしまいます。
<間違い例①>
・相手の許可や恩恵がない場面での使用
報告書を提出させていただきました。
「させていただく」は、本来、相手の許可や配慮によって自分が何かの行動を行う場合に用いる表現です。しかし、「報告書の提出」のように、業務上当然行うべき義務や決められた手続きについてまで「させていただく」と使ってしまうと、かえって不自然な印象を与えることがあります。
報告書を提出するのは自分の役割や業務の一部であった場合、特別に許可を得て行うものではありません。それにもかかわらず「提出させていただきました」と言うと、まるで自分がありがたく相手のおかげで提出できたかのようなニュアンスになります。そのため、「報告書を提出いたしました」とシンプルに伝えることで自然な敬語表現になります。
<間違い例②>
・相手に負担をかける行為
大変申し訳ありませんが、納期を1週間延長させていただきます。
「させていただく」は自分の行動について、相手の許可や恩恵があり、その行動が相手の利益になったり許容されたりする場合に使います。この間違い例では、納期の延長は本来、相手に迷惑や負担をかけてしまう行為です。そのような場面で「させていただく」を使うと、「納期を延ばすことについて、了承をもらったわけではないのに、勝手に都合よく行動する」という印象を与えかねません。
<間違い例③>
・否定的な内容での使用
申し訳ありませんが、お断りさせていただきます。
「お断りする」という行為自体は相手に許可をもらって行うものではなく、相手の申し出を拒否する行為です。このような場合は、「申し訳ありませんが、お断りいたします。」とシンプルに伝えるほうが、適切な敬語表現となります。
<間違い例④>
・「させていただく」の濫用
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「検討する」という行為は、ほとんどのケースで自分だけで完結することであり、相手の了承を特別に得るものではありません。そのため、こうした場面で「させていただく」を使うと、不要な敬語表現となり、相手に違和感や過剰なへりくだりを思わせてしまうことがあります。
5.「させていただく」の言い換え表現
「させていただく」は、本来、相手の許可や恩恵がある場合に使う表現です。しかし、ただ丁寧に伝えたいだけで、特別な許可や恩恵に関係ない場合は、別の表現のほうがしっくりくることが多いです。
実際には「させていただく」を使わなくても、十分に礼儀正しく、わかりやすい伝え方があります。余計なへりくだりがなくなって、すっきりとした印象を与えることができます。
【基本的な言い換え】
「~します」(丁寧語)
「~いたします」(謙譲語)
「~申し上げます」(謙譲語)
【言い換え例】
①「提出させていただきます」 → 「提出いたします」
②「ご説明させていただきます」 → 「ご説明いたします」「ご説明します」
③「本日伺わせていただきます」 → 「本日伺います」「本日お伺いします」
④「私が担当させていただきます」 → 「私が担当いたします」
⑤「メールを送らせていただきます」→「メールをお送りします」
※③の例では、「伺う」自体が「行く」の謙譲語です。ここに「させていただく」を付けると、過剰な敬語となり、回りくどい印象を与えます。過剰な敬語がNGというわけではありませんが、要件をシンプルに伝えるべきシーンでの使用は適切とは言えないため控えましょう。
おわりに
「させていただく」は、「相手の許可や恩恵を受けて自分が行動する」ことを感謝や謙譲の気持ちとともに表す丁寧な敬語表現です。許可のない行動や自分の意思だけで完結する場合などに使用すると不自然で過剰な敬語となります。
また、正しい使用場面であっても「させていただく」を多用しすぎると、くどく感じられることがあります。使用の際にはバランスを考えて適切な頻度で使うことが大切です。