【伝わる指示 vs 伝わらない指示】良くない校正指示と改善ポイント[いい校正者になる第一歩]

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【伝わる指示 vs 伝わらない指示】良くない校正指示と改善ポイント[いい校正者になる第一歩]

校正の仕事は、間違いを見つけて赤字や疑問出しを入れて終わりというものではありません。自分が書いた指示が相手にちゃんと伝わるように配慮するのも仕事の一つです。

忙しいときや仕事に没頭しすぎていると、相手への配慮まで意識が行かないことがあります。特に校正初心者の方は、間違いを見つけることに専念するあまりその観点が抜け落ちてしまいます。間違いを見つけ赤字を入れて満足するだけで終わらず、その先も考えていきましょう。

以下、良くない指示の例とその改善ポイントを紹介していきます。ご自身の業務で活かせる部分があれば参考にしてみてください。

1. 足りない言葉:何が言いたい?

言葉が足りず、話の内容が嚙み合わないということは日常生活でもよく起こります。

校正の仕事において、指示は基本的に文字で伝えます。また校正で入れる指示は、簡略化されることが良しという傾向にあります。それゆえ言葉足らずの指示が生まれやすい状況にあります。

校正指示の第一は相手に伝わるかどうかです。この考えを踏まえたうえでの簡略化は問題ありませんが、この考えが抜けていると大きな誤解を生む原因となりかねません。言葉足らずの指示は、ミスに直結する恐れもあるので注意が必要です。

校正において、言葉足らずの指示として代表的なものに「ママOK?」や「OK?」などの疑問出しがあります。

■良くない指示の例

 

 

指示を書いた本人は当然意味がわかっていますが、第三者から見た場合、何がOKなのかわかりません。日常会話でいえば「あれとって」「それとって」と言われた感じです。

実際には「ドラエもん」の「エ」は、ひらがなの「え」が正しいですが、それを知らない相手であれば何のことを言っているのかわかりません。

こういった場合、この疑問出しを見た相手は何がおかしいのかわからず原稿や別紙などを遡って確認することがあります。それでもわからなければ書いた本人に直接聞くということになります。少し言葉を省略しただけで、余計な時間が生まれてしまいます。

さらに怖いのは解釈を間違えてしまうことです。
たとえば、
書き手は、フォントの違いに対して「OK?」と書いたつもりでも、
読み手は、表記のことだと思いそのまま流してしまうケースも想定できます。

「ママOK?」のような指示は、誤解を招くコミュニケーションエラーの典型です。校正指示は、相手に指示内容を明確に伝えることが第一のため、このような疑問出しは避けましょう。

■改善ポイント

何がOKなのか?を明確にします。

前述の例なら次のように言い換えることができます。

・正式には「え」ですが、ママでOK?
・「え」?(ホームページより)
・「ドラもん」が正しい表記です。OKですか? など
 ※違う箇所の「え」には、わかりやすいように線を入れて強調しておきます

原稿とゲラとの照合作業においては、たとえ原稿が間違っていても校正側で勝手に赤字を入れることはしません。仮に、原稿に間違いがあれば赤字を入れてもよいというルールだったとしても、申し送りは必須になります。たとえば、赤字を入れてから補足として「原稿ママですが入朱しました」などと申し送りをしておきます。

「ママOK?」の他の言い換え例としては次のようになります。

・ここだけフォント違いますがママでOK
・指示なく変更。OKですか?
・見出しと色が違います。OK?
・原稿ママですが●●でOKですか? など

ママOK?のような指示を入れる方は、もしかすると校正指示は短く書くべきと教わって意図的にそうしているのかもしれません。ただ前述したように、校正指示で第一に優先すべきは、書いた内容が指示を見る相手側にちゃんと伝わることです。短く書くことは、二の次です。

言葉足らずの指示であるかどうか校正作業中には気づかなくても、校正後の見直しをする際に、自分の書いた指示に不足がないか第三者の立場になって考えるクセをつけておきましょう。

2. 足りない言葉:根拠はどこ?

他と合ワス(※赤字)
「他と合わせる?」
「他と違っていますがOK?」などの指示です。

この「他」とはどこかということです。

次のように明らかに一つだけおかしいものであれば、「他に合わせる?」だけでも伝わります。

このような状況以外では、「他」は抽象的な表現なので適切な指示とは言えません。具体的な表現に変える必要があります。「他」が「どこ」を指すのかを明確にし、指示を出すに至った根拠を述べます。

「他」を言い換えるなら次のようになります。

上の行と合わせる?
右の表と合わせる?
p.124の見出しに合わせる?
前号の表紙と合わせる?
別紙と書体を合わせる?
他の訂正指示に合わせて、ここも修正する? など

また「他」にあたる箇所を「」として、次のように指示もできます。

指示を見る側はピンポイントにⒶだけを見ればいいので、わかりやすく時間の節約にもなります。

さらに他の例として、すぐ近くにあるものをとすると指示がごちゃごちゃする場合があります。その際は、次のように点線でどこかを明確にするやり方もあります。

※「ここ」の部分を「」に変えて「上と同じフォントに」としてもわかりやすいです。

指示の入れ方は色々と考えられますが、優先すべきは指示を見る側がわかりやすいものを選択しましょう。

「他」以外で根拠がわかりにくい指示としては以下のようなものがあります。

■良くない指示(1)

表記が揺れていた場合

 

「くだ?」とだけ指示をしても、文章をじっくり読んでいない方にとっては、なぜ「くだ」に直すのかわかりません。根拠が必要です。

■改善例

くだ?
 ↓
・くだ?(表記統一)
・くだ?(多出に合わせる)
・多出に合わせて「くだ」に? など

なぜその疑問出しをしたのか根拠を示すことで、指示を見る側は他の箇所と表記が違っているんだなと理解できます。

■良くない指示(2)

前述の「くだ?」と同様に、この指示だけでは何で「6」にするのかわかりません。

■改善例

6?」
 ↓
6?(企業ホームページより)
・6?(p.40の企業概要と不一致)
・創業は1976です(p.10の年表より) など
 ※違う箇所の「6」には、わかりやすいように線を入れて強調しておきます

ちゃんと指示をしておけば、指示を見る相手に無駄な労力をかけずにすみます。少しのことですが全体の効率化にも貢献できます。またコミュニケーションエラーによるミスもなくことができます。

校正はあくまで制作の一工程です。制作の一工程であることを理解し、全体の時間も大切にしないといけません。自身の効率化だけでなく、相手の効率化にもなる校正指示の入れ方を工夫していきましょう。

3. 書き方:どのように書く?

校正指示を入れる際は、乱雑な字や略字、目立たない小さい字を書くことは避けていると思います。ただ忙しいとき、気分が優れないときなどは、意図せずとも文字が乱れてしまいがちです。

また、使用しているペンの先が太いと文字の細部がつぶれてしまい判読できないことがあります。他にも、意外かもしれませんが達筆過ぎるのも文字が見にくい原因となります。

いずれにせよ書いた本人は何を書いたかわかっているので、当然その文字にしか読めませんが、第三者からすると『これ何の字?』と首をかしげることもしばしばあるので注意しておきましょう。

漢字やひらがな、数字、アルファベットなどの似た文字をあげればキリがありませんが、一例として曜日に関する良くない指示を紹介したいと思います。曜日はあらゆる媒体で見られるものです。

曜日の赤字では、「」と「」、「」と「」が見間違いの多いものになります。特に文字が小さかったり、乱れていたりするとさらに見分けがつきにくくなります。

<見間違いやすい文字>

両者を比較してみれば容易に違いがわかりますが、片方だけをパッと見た場合には間違いが起こりやすくなります。

校正者は常にゲラを正面にして見ますが、修正側(オペレータなど)はゲラとPCの画面を交互に見ながら修正作業を行います。文字を見間違うリスクも高まります。そのため、赤字は大きく見やすく、とめ・はね・はらいを強調して書くようにします。

<見間違い例>

 

ここで注意したいことは、たとえ「水」と「木」の字が似ていても『カレンダーで確認すればわかるだろう』という考え方です。

簡単な言葉だから誰でも知っているだろう、前後の文脈からして当然わかるだろうという気持ちで指示を書くのは大きな誤りです。校正指示は、その指示だけを見て相手に伝わるべきものであり、そういう気持ちを持って指示を入れる必要があります。

4. 書き方:書いたものを見直す

校正後の見直しは誰もがやっていると思います。その際に自分が入れた赤字や疑問出しも見直しをしているでしょうか。

ケアレスミスで文字を書き間違えることは誰にでもあります。ただ自分が書いたものは、正しく書いたと思い込んでいるので仮に間違っていたとしても、思い込みが邪魔をして気づきにくくなります。

こういった思い込みによる書き間違いは書籍にも掲載されるほどよく起こるものです。

【出典:『校正練習帳』(日本エディタースクール出版部)】

自分自身の書き間違いは気づきづらいものですが、少し時間を置くと思い込みが和らぐので見つけやすくなります。実際の仕事で時間を置くことが難しい場合でも、トイレに行って手を洗う、少しだけストレッチをするぐらいの休憩でも効果はあります。ポイントは、校正作業とその後の見直しを継続して行わず、一旦区切りを入れることです。

見直しの際には、原稿の赤字が修正されているかの再確認だけでなく、自分の書いた字が正しいかの確認もあわせて行うようにしましょう。万一赤字を書き間違えて、そのまま修正されてしまった場合、致命的なミスとなります。

5. 書き方:見やすい位置に書く

基本的に赤字は、引出し線を使って誌面の余白に書き込みます。ただどこにでも書いていいわけではありません。引出し線が長すぎると修正すべき箇所がわかりにくくなることがあります。そのため、なるべく近くの余白に書き込むようにします。

また書く位置での注意点として次の2つがあります。

1. 誌面の端ギリギリには書かない
2. クリップどめの際は死角に注意する

1. 誌面の端ギリギリには書かない

誌面の端にまで文字を書かないのは、単純に読みにくいということもありますが、ゲラをスキャンした際に端の部分が読み込まれず文字が切れてしまうことがあるからです(※スキャナーの設定にもよります)。おおよそですが、5㎜ぐらいの余白を残しておけば大丈夫です。

※赤い部分への書き込みは極力避けます。

・部分拡大

   

2. クリップどめの際は死角に注意する

クリップどめをする付近は、ゲラをめくったときの死角になりやすいので、なるべく指示を書き込まないようにしましょう。

6. 伝わりやすい指示:結論を伝える

「何にするのか?」
「どうするか?」

赤字の書き方は色々ありますが、結果どうするのかを明確に指示することが大切です。簡潔明瞭につながります。

良くない指示(1)

「ひらがな」と指示するのではなく、何の文字に訂正するのか結果を伝えましょう。

■改善例

良くない指示(2)

これも「ひらがな」と同様で、何の文字にするのかを明確に伝えましょう。

■改善例

※画数の多い漢字は、文字が潰れないように大きめに書くようにします

■どっちの赤字がいいか?

 

どちらの指示も校正記号表に記載されている指示です。修正結果も同じです。

半角ツメ」は、
全角アキを、半角分ツメて、半角アキにする、という指示です。

半角アキニ」の指示は、
全角アキを、半角アキにする、という指示です。

結果は同じですが、思考の過程は「半角アキニ」のほうが短いです。これは結果だけを述べるほうが伝わりやすいということです。

■結果を述べるほうがいい

修正結果を指示するのは書籍でも推奨されているので、明確に結果を伝えるように指示しましょう。

仕上がり結果など、文字で説明するのが難しければ、図などにして書いても大丈夫です。また仕上がり見本となるものがあるなら、それをコピーして添付しても構いません。オペレータと近い関係にあるなら直接説明するのも有効です。

手段は色々とあるので伝わりやすさを重視して、文字で指示するという考えに捉われないようにしましょう。

7. 伝わりやすい指示:個数を伝える

校正では同じ赤字が複数入る場合、一つにまとめることがあります。赤字をまとめて指示することで誌面がすっきりして見やすくなる効果があります。

効果的ではありますが、赤字をまとめることによる弊害もあります。

たとえば、次のように複数箇所への挿入指示を一つにまとめたものがあるとします。   

  

この場合、引出し線の短い手前の赤字が目立たないので見落とされやすくなります。

そこで修正の個数を入れて対処します。

どのような赤字が見落とされやすいかを知るのは経験値によるところが大きく、主観的な部分でもあります。どういったときに個数を書けばいいかで悩むかもしれませんが、この悩みは不要です。常に個数を補足すると考えておけば大丈夫です。

またマーカーやダーマトなどで一括で指示を出す際も個数を入れておくほうが無難です。

<マーカーでの一括指示の例>

8. 伝わりやすい指示:目立たせる

誰にでも読める字で書き、内容も伝わるものであるけれども、指示自体が目立たなければ意味がありません。

校正指示は、見つけてくださいではなく、見つけてもらえるようにすることです。

目立たない指示として代表的なものに文字や校正記号が小さいということがありますが、他にも赤字や疑問出しが複数あるとどれかが見落とされる可能性があります。

次の例は赤字が誌面の上部に密集していて、一つだけ誌面の下部に赤字があります。

この場合、修正する側は目線が上に行くので、上部の赤字にだけ意識が行ってしまい、下の「トルツメ」の指示を見落とす可能性があります。

こういった場合は、鉛筆で大きく丸をするなどの対処が有効です。

では次の場合はどうするか? 誌面の上下に一つずつ赤字が入っている状況です。

基本視点は上のほうに行くので、下の赤字が見落とされる傾向にあります。

この場合、下の赤字に目立つように鉛筆で丸を入れたとします。

ただこの状態だと、下の赤字だけが目立ってしまい、今度は上の赤字が見落とされる可能性が出てきます。

こういった場合は、2つともに丸をしておきます。

どの指示を目立たせるかというよりも、常に指示を見つけてもらえるように意識しておくことが大切です。

おわりに

校正作業において、いかに間違いを見つけるかは誰もが実践していると思います。ただ見つけた間違いをどうわかりやすく伝えるか?ここも常に意識しておくことが重要です。

書き間違いや、伝わりにくい指示を書いてしまうことは誰にでもあります。ただ見直しの際に、第三者の視点を持っていれば、伝わる指示に変えることができます。それを重ねることで伝える技術が磨かれていきます。

校正指示は、相手に伝わってはじめて、指示として成立するものです。