日本語文章の表記ゆれを防ぐ[まず覚えるべき15個]

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日本語文章の表記ゆれを防ぐ[まず覚えるべき15個]

表記ゆれとは、同じ意味を持つ言葉が、漢字やひらがなといった異なる表記方法で一つの文章内で混在することをいいます。

たとえば次のようなものです。

可愛い子犬」
かわいい子犬」

このように意味は同じでも、漢字とひらがなで表記が異なることを「表記ゆれ」と呼びます。

「かわいい」なら、他にもカタカナ表記で「カワイイ」と表記ゆれが起こる可能性も考えられます。

日本語において、このような例を挙げていけばキリがありませんが、表記ゆれでさらに厄介なのは、どの表記が正しいというわけではないことです。

使用場面、媒体に応じた表記によって独自に基準を設ける場合があります。絶対にこうすべきというルールが存在するわけではありません。

ビジネス文書やWEB記事、広告など、特定の読者層を意識した文章では、読み手に適した表記が求められます。媒体やターゲットに応じて表記を変えることは珍しくありません。

[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]

『新明解国語辞典 第八版』(三省堂)
・『コトバンク』(https://kotobank.jp/)
・『記者ハンドブック 第14版』(共同通信社)

・「公用文作成の考え方(文化審議会建議)」解説](令和4.1.7・文化審議会)

1. 表記ゆれの目立つ箇所

当然ですが、表記ゆれが目立つ語句は、文章内でよく使用されるものです。使用頻度が高いと、人の目によく触れ、表記ゆれがあった場合にも目立ちやすくなります。

中でも、文頭文末で使用される語句は目に留まりやすいです。また、読点の前(文の切れ目)に当たる部分も目立ちやすいです。

1. 文頭文末

文頭文末でよく使用される語句は、読み手の印象に残りやすく、この位置での表記ゆれは特に目立ちやすいです。

<例>
文頭:
ただし、 ⇔ 但し、
文末:~してほしい。 ⇔ ~して欲しい。

2. 読点( 、)の前

読点の直前も文の切れ目となるため目立ちやすい部分です。

<例>
~のころ  ⇔ ~の頃  
~のため 、 ⇔ ~の為

2. 覚えておきたい表記ゆれ15個

現在では、表記ゆれは校正ソフトによってかなりの確率で検出できますが、最終的な判断は人にゆだねられる場合がほとんどです。

以下で紹介する15個の覚えておきたい表記ゆれは、どのようなジャンルの文章でも頻繁に見られるものです。

まずはよく見られる表記ゆれをチェックし、どういうものが表記ゆれを起こしやすいかを理解しておきましょう。

<覚えておきたい表記ゆれ15選>

  1. ください  ⇔  下さい
  2. いただく  ⇔  頂く
  3. できる   ⇔  出来る
  4. わかる   ⇔  分かる
  5. ~するとき ⇔  ~する時
  6. ~すること ⇔  ~する事
  7. ~のもの  ⇔  ~の物
  8. ~のところ ⇔  ~の所
  9. など    ⇔  等
10. ~という  ⇔  ~と言う
11. さまざま  ⇔  様々
12. いろいろ  ⇔  色々
13. すべて   ⇔  全て
14. ともに   ⇔  共に
15. および   ⇔  及び

<上記15個を『記者ハンドブック』が推奨する表記方法>

【記】は、『記者ハンドブック 第14版』(共同通信社)で推奨されている表記方法です。

1.ください」⇔「下さい」 【記】動詞:下さい   ⇔   補助動詞:ください
2.いただく」⇔「頂く」  【記】動詞:頂く      補助動詞:いただく
ポイント①参照

3.「できる」⇔「出来る」  【記】できる
4.「わかる」⇔「分かる」  【記】分かる
ポイント②参照

5.「~するとき」⇔「~する時」  【記】形式名詞:とき   ⇔   名詞:
6.「~すること」⇔「~する事」  【記】形式名詞:こと   ⇔   名詞:
7.「~のもの」  ⇔「~の物」   【記】形式名詞:もの   ⇔   名詞:
ポイント③参照

8.「~のところ」⇔「~の所」 【記】位置・場所:   ⇔  それ以外:ところ

9. 「など」 ⇔ 「等」  【記】など

10.「~という」 ⇔ 「~と言う」
ポイント④参照

11.「さまざま」⇔「様々」  【記】さまざま
12.「いろいろ」⇔「色々」  【記】いろいろ
13.「すべて」 ⇔ 「全て」  【記】全て
14.「ともに」 ⇔ 「共に」  【記】〔一緒・同じという意味〕共に ※〔同時にの意味〕~とともに

15.「および」 ⇔ 「及び」  【記】接続詞の場合:AおよびB
ポイント⑤参照

> 記者ハンドブック 第14版 新聞用字用語集(共同通信社)

3. 使い分けのポイント

ポイント①:動詞と補助動詞の見分け方

【1】【2】のように動詞補助動詞で「漢字」と「ひらがな」を使い分ける場合があります。動詞の場合は「漢字」、補助動詞の場合は「ひらがな」といった具合です。

動詞は、それだけで動作や状態を表す言葉です。一方、補助動詞は、他の動詞や形容詞の後ろについて、その意味を補足する言葉です。

こういった文章の内容を理解したうえでの使い分けは、校正ソフトが苦手としているところなのでぜひ覚えておきましょう。

たとえば、以下の文の「下(くだ)さい」の場合。
動詞補助動詞かを区別するには、「下(くだ)さい」の部分を削除してみて意味が通じるかどうかで判断できます。

Aそのペンを下さい
Bそのペンを取ってください

Aの文の「下さい」を削除した場合、「そのペンを」だけになり何を言いたいかわかりません。そこから、この「下さい」は、動詞(「くれ」の敬語表現)だとわかります。

一方、B「ください」を削除した場合、「そのペンを取って」となり言いたいことはわかります。そこで、ください」は補助動詞とわかります。

<動詞>

・お返事ください → お返事を

 意味が通じない  →  動詞  →  漢字にする

 ○ お返事下さい  × お返事をください

<補助動詞>

・本を読んください  → 本を読んで 

 意味が通じる  →  補助動詞  →  ひらがなにする

 ○ 本を読んください  × 本を読んで下さい

ポイント②:語尾の変化に注意する

表記ゆれをチェックする際は、活用形など語尾の変化にも注意しましょう。
たとえば、【3】の「できる」は、単純に「できる」だけを見つければいいわけではありません。

できない
できます
でき
できている

なども対象になります。

ポイント③:形式名詞と名詞

【5】【6】【7】の「とき ⇔ 時」「こと ⇔ 事」「もの ⇔ 物」などは、形式名詞名詞で「ひらがな」と「漢字」を使い分けることがあります。

たとえば、次の文の場合。

A:その話は聞いたことがある。
B:ことの真相を明らかにする。

Aの「こと」は、それ自体はあまり意味を持たず、直前の「聞いた」を受けて「聞いたこと」というひとまとまりの名詞句を作っています。このような語は文法的には「形式名詞」と呼ばれます。

それに対し、Bの「こと」は「事態・事件」といった具体的な内容を表しているので、形式名詞ではなく普通の名詞です。

一般的に、形式名詞は「ひらがな」、普通の名詞は「漢字」で表記されることが多いです。

A:その話は聞いたことがある。→  その話は聞いたことがある。
B:ことの真相を明らかにする。→  の真相を明らかにする。

同様に次の文でも考えてみます。

A:ときが解決してくれるだろう。
B:到着したときにはイベントは終わっていた。

Aの文の「とき」は、文字通りの「時間」を表す普通の名詞です。

それに対し、Bの文の「とき」は実質的な意味をあまり持たず、直前の「到着した」を受けてひとまとまりの名詞句を作った「形式名詞」です。

Aのように「時間」「時刻」「時期」といった意味を持つ場合は漢字Bのような形式名詞はひらがなで表記します。

A:ときが解決してくれるだろう。→  が解決してくれるだろう。
B:到着したときにはイベントは終わっていた。→  到着したときにはイベントは終わっていた。

ポイント④:「いう」と「言う」

【10】の「いう」はさまざまな意味合いで使われるため、表記ゆれが起こりやすい言葉の一つです。

ただ、漢字で表記するのが適切なケースはかなり限られています。

「漢字で表記するのは実際に口に出して『言う』場合のみ。それ以外はひらがなで表記する」と覚えておくといいでしょう。情景を思い浮かべて、口に出して「言って」いるかどうかイメージしてみるとわかりやすいです。

ポイント⑤:接続詞と動詞

【15】の「および」は、「AおよびB」のように接続詞として使用される場合は、ひらがなにします。一方、「~が及ぶ(影響が及ぶなど)」のような動詞もあります。この場合は漢字表記が推奨されます。

「および」と「及ぶ」は、使い分けを理解していても、変換ミスなどで表記が混在することも多いので注意しましょう。

おわりに

この記事で紹介した覚えておきたい表記ゆれは、使用頻度が高いため、読み手の目に留まりやすく、表記ゆれがあった場合に目立ちやすいものです。表記ゆれは、まずは起こりやすいものを中心に覚えていきましょう。

日本語の表記ゆれに関しては、挙げていけばキリがなく、気にし出すと際限がありません。どこまで確認するのか範囲を明確にしておくことも大切です。また、確認すべき語句が多いようであれば、現在では校正ソフトの使用は必須です。