目 次
校正のミス削減への取り組み:間違いを分類して校正のやり方を考える
どうやってミスを減らしていこうか?ということは誰もが考えることです。
ミスを一つ一つ見ていった場合、起こったミスの理由はすべて違っていても、ミスを分類して根本の原因を探れば解決策は一つで大丈夫ということがあります。
大きなクレームになってしまったミスも、小さな気づきレベルのミスも、同じ対策で防ぐことができるかもしれません。
現在、校正の仕事を人の目だけに頼っているなら改善の効果はかなり期待できます。
1. 間違い例一覧
次のような間違いは、紙・Web関係なく、どの媒体でも見かける基本的なものです。これらの間違いを分類して対策方法を考えていきたいと思います。
想定としては、元原稿があり何度かの修正を経て起きた間違いというものです。
▼ 間違い例一覧
※画像が見づらい方はPDFでご覧ください → PDF
● No.1について
No.1の例でいうと、オペレーターが数字を打ち間違えてミスが発生することがあります。
他にも、コピペミスや校正者の赤字の書き間違いなどでこのような間違いが起こることも考えられます。
● No.14の補足
「修正指示のない箇所が変わっている」とは次のようなケースになります。
1. 原稿の赤字
原稿の赤字は、4行目の「幸子」を「妙子」に直す指示です。
修正箇所すぐ下の5行目にも「幸子」の文字があります。このように同じ文字が近くにある場合、オペレーターが行を見間違えて修正してしまうことがあります。
2. ゲラ(修正後)
3. ゲラ(修正後)
このような経緯で、指定した箇所とは違う箇所が誤って修正されるのがNo.14の例になります。
2. 間違いの分類の仕方
それぞれの間違いに対して、どういう系統のものか分類していきます。
即座に分類できるものでもないので、こっちかなあっちかなと迷いながら分類していきます。ワークショップなどで問題を絞り込んでいくやり方と同じです。
※イレギュラーな間違いもあるので必ず分類できるというものではありません。
▼ 分類の一つの基準として次のように考えることができます。
1. ゲラだけ見れば、間違いだとわかるもの
2. 原稿とゲラを見比べないと、間違いだとわからないもの
3. 文章の内容を理解して掘り下げないと、間違いだとわからないもの
間違いの共通項を見つけて分類していきます。
そこから何が最善の対策かを考えていきます。
3. 間違いの分類とそれぞれの対策
ここからは分類したものに対して、対策を見ていきたいと思います。
① ゲラだけでは間違いがわからないもの
▼ 分類後
No.1・8・10・12のような間違いは、ゲラを見ただけでは間違いだとわかりません。
原稿とゲラを比較してはじめて間違いだとわかります。
このような間違いは、デジタル校正ソフトや素読みで見つけることが困難です。
原稿とゲラの細部を見比べて確認するしかありません。
変更履歴が少ない場合は、デジタル検版(修正前と修正後の差分チェック)も有効ですが、何度も修正を重ねたあとの間違いは、現段階では人の目で確認するのが最善といえます。
「デジタル検版って何?」という方は、以下のサイトで動画で詳しく解説されているのでご覧ください。
仮にこの手の間違いに対して、校正者の見落としが多いとすれば、細かい部分まで校正者の目が追いついていない可能性があります。スキル不足が原因となることもありますが、まずは間違いを共有し、校正者の気づきを促す必要があります。
ミスの共有とフィードバックは重要な役割を果たします。実例を交えてちゃんと説明してあげるのが効果的です。
制作環境が同じであるなら同様の間違いが起こる可能性が高いためミスの共有は必須です。そのため日々起こったミスの収集と蓄積が大事になってきます。
収集では、誰もが注目するような大きなミスや見落としたものだけでなく、ヒヤリハット的なミスを貯めていくのも効果的です。「たまたま知っていたから見つけることができた間違い」「偶然目に入って見つけることができた間違い」などです。他にも「これを見落としたらやばそう」という間違いはピックアップしておきたいところです。
また人名や金額などの細かな間違いや重要項目は、チェックする人を替えてダブルチェックするのが有効です。間違いを防ぐ対策と万一その間違いがスルーされたときの対策の両面から、ミスを防ぐのが大切な視点です。
② ゲラだけ見れば間違いがわかるもの
▼ 分類後
No.5・6・9・11・13のような間違いは、① とは違ってゲラだけ見れば間違いだとわかります。
ここで例示しているような間違いは、デジタル校正ソフトが得意とする領域です。人の目で見つけるよりも校正ソフトで見つけるほうが効率的です。
校正ソフトで見つけられる間違いを先に潰しておくことで、校正者の負担を減らすことができます。負担が減ることで、校正者は他の間違いを見つけることに集中できます。
時短と高品質の両方を叶えることが可能になってきます。
有料の校正ソフトでなくても、Wordの文章校正機能を使えばある程度の間違いを見つけることができます。
No.11のようなスペルミスで、辞書に存在しない単語は非常に高い確率で発見できます。ですが、「date(データ)」を「deta(日)」と間違った場合には、両方とも辞書に存在する単語なので校正ソフトで見つけるのが難しいときもあります。
【関連記事】> Wordで校正・校閲:文章校正機能の使い方
「デジタル校正ソフトで何ができるの?」という方は、校正ソフトの中でも有名な「Just Right!」のHPを見れば大体のことがわかります。HPからは体験版もダウンロードできます。
> Just Right![公式サイト]
【使用にあたっての注意点】
現段階で100%文章の間違いを見つけてくれる校正ソフトは存在しません。そのため校正ソフトが得意とする領域に注意しながら、ご自身の業務で役立てられそうな部分がないかを想定してみてください。
ソフトの機能がたくさんあって面倒と思うかもしれませんが、すべての機能を理解する必要はありません。たとえば表記揺れだけを見つけたいのであれば、数時間で効果を検証できます。
③ 同音異義語の間違い
▼ 分類後
② と同様にゲラだけ見ればわかる間違いです。
同音異義語への指摘は一部のデジタル校正ソフトでは可能ですが、精度は安定していません。
同音異義語を数えあげればキリがないですが、媒体によって使用されるものはある程度分類できます。分類して優先度の高いものから、校正者が学習していくのも対策の一つです。
他の対策として、デジタル校正ソフトに同音異義語を一括で単語登録しておけば、文章内の同音異義語に対して強制的にアラートを出すこともできます。ただし、アラートを出すだけで間違いかどうかまでは判断できません。最終的には人の目で確認するしかありません。
現時点では、文章の内容を理解して間違いを見つけるのは、デジタル校正よりも校正者のほうが精度は高いといった状況です。
【関連記事】> 同音異義語の間違いと対策[文章校正問題]
④ 体裁の間違い
▼ 分類後
体裁についてどの表記に統一するかというルールがあるなら、ゲラだけ見れば間違いがわかります。たとえば金額には位取りのカンマを入れるというルールがあるときなど。
このような体裁の間違いは、校正ではあるあるの基本的な間違いなので、原稿の段階で間違いを潰しておくのがベストです。
基本的に紙媒体の校正では、ゲラになってからでは改善策が限られてきます。原稿の段階で、いかに品質を高めるかが肝になってきます。たとえば原稿をデータで支給される場合、まず体裁系の間違いがないかチェックします。ルールがあるなら一括置換で修正し、ルールがないなら担当者やクライアントにどちらに統一すべきか確認します。
制作の過程で体裁を間違えることもあるので、最終工程の段階でも再度チェックしておくと安心です。
体裁のチェックは、デジタル校正ソフトやWord、Excel、検索だけならPDFでもできます。
【関連記事】
> Wordで全角・半角英数字を一括でチェックするやり方
> Wordの検索・置換を活かすコツ[原稿の校正に役立つ置換の使い方]
⑤ 指定外の変更
▼ 分類後
前述した修正側が誤って修正箇所を間違えてしまったというケースです。
このような間違いが多く起こる現場では、デジタル検版が有効です。DTPでは特に珍しい機能でもありません。よく使用されるもので実践しているオペレーターは多いです。
校正者が入念にめくり合わせをして確認するよりも、オペレーターにチェックをしてもらうほうが効率的です。ページ数が多くなればなるほど、その効果は歴然です。
そのためオペレーターとミスを共有し連携していく必要があります。
※オペレーター
4. ミスの妨げとなる制作環境や意識
色々とミスの対策を講じても、なかなか改善されない場合は職場環境がそうさせている可能性があります。
・オペレーターの修正精度が悪くて間違いが多い……
・原稿整理が甘くて疑問点が多く出る……
・確認すべき原稿の種類が多い(※)……
などが原因で、校正者に過剰な負荷がかかっているケースです。他にも、長時間労働や急ぎの仕事、飛び込みの仕事が多いなども同様です。
この手の問題はどこの職場でも見られることですが、長年常態化しているとこの環境が当たり前だと思い込んでしまうので、環境がミスを誘発させているという考えには至りません。
(※)対策としては、原稿の一本化や校正回数を増やすなどが考えられます。
またデジタル校正ソフトが部分的にでも使えるようになってきた今、校正者に対する意識改善も必要です。
すべての間違いを校正者が見つけてくれる、校正者が最後の砦であるかのような昔ながらの考えもミス削減を阻む要因となります。ミス削減は関与者全員で取り組むもので、校正者だけが見つけていくものではありません。
このような考えの制作現場では、マンパワーが重視されデジタル的な効率化が軽視されがちです。ある意味、校正者に信頼を寄せているともいえますが、頼りすぎても負荷をかけるだけです。
ソフトで解決できる間違いまで人の目に任せていると、校正者の負担が増すばかりです。
当然ながら校正者自身の意識改善も必要になってきます。来た仕事を受けて目の前の仕事だけをこなしているような状態では、ミス削減の意識は芽生えてきません。
ミスの原因は別のところにあっても、ミスが顕在化するのは校正者の周りであることが多いです。そのためミスを発見して終わりではなく、その原因を探る意識をまず校正者自身が持つ必要があります。
以上のような制作環境であったり関与者の改善意識が低い状態であったりするなら、ミスを分類して対策を立てたとしても得られる効果は極めて少ないでしょう。
おわりに
制作物の間違いは校正者だけが見つけるものではありません。ミスは様々な角度から防ぐのが効果的です。
またデジタル校正ソフトだけが校正作業の効率化を図るものではありません。原稿の作り方や校正手順の見直し、マニュアルの作成、制作サイドと校正との連携、校正の依頼の仕方などで改善できる部分も多くあります。
まずは身近なミスを収集・分類して、その原因と対策を考えていくことです。校正者だけでなく周りの職種とも相談しあって解決策を探れば、改善への道はきっと見えてきます。