校閲経験者の知識から学ぶ[校正に役立つおすすめの書籍]

information

校閲経験者の知識から学ぶ[校正に役立つおすすめの書籍]

校正の仕事を始めると、「迷う」瞬間が予想外に多いことに驚くかもしれません。校正は、誤字脱字のような明らかな間違いをずばずばと指摘していくだけではなく、伝わりにくく思われる表現や誤読される可能性のある言い回しなどもチェックします。

こうした部分は必ずしも間違いとは言い切れないことも多く、どのように指摘すれば校正者の意図が書き手に伝わって修正してもらえるか、表現をよりよくするためにどのような修正案を提示するか、そもそも指摘を出す必要があるのかどうかなど、考えることがたくさんあります。

出版社の校閲部のように周囲に他の校正者がいる環境であれば、迷ったときに意見を聞くこともできるでしょう。しかし、特に在宅のフリーランス校正者などは、相談相手がおらず自分で判断するしかない場面が多々あります。

そんなとき助けになるのは「経験」です。この「経験」は、自分自身のものでなくてもかまいません。過去の校正者たちが迷ったポイントとその解決策を自分の中に蓄積しておくと、いつか似た事例に当たったときに心強い手がかりとなります。この記事では、そうした事例集とも言える書籍を2冊紹介します。

Recommended Books for Reviewers

校正に役立つ書籍 その1.『校閲至極』

 Recommended Books for Reviewers
毎日新聞校閲センター, 『校閲至極』, (毎日新聞出版, 2023)

毎日新聞出版の週刊誌『サンデー毎日』に連載された、毎日新聞校閲センターの校閲記者によるコラムが書籍化されたものです。

「ら抜き」言葉や、よく取り沙汰される「敷居が高い」という表現などを取り上げて、校閲記者はどのように判断したか、最終的に紙面ではどのような表現にされたかといった対処法を示すものや、日常生活で見聞きした言葉を校正者らしい感度でキャッチして追究するものなど、多彩な内容になっています。どのコラムも単行本で3ページほどのコンパクトなものですが、事例に絡めてうまくオチをつけるなどよくまとまっており、ライティングの参考にもなりそうです。

筆者が新聞の校正者であるため、限られた時間の中で膨大なファクトチェックが必要になることや、多種多様な分野の記事を校正すること、紙面に誤りが見つかった場合「おわび」が掲載されることなど、新聞特有の苦労がうかがわれます。もちろん、カタカナの「ニ」が漢字の「二」になっている、固有名詞の漢字を似た形の字と間違えるなど、媒体を問わず校正者をひやりとさせる事例も多数挙げられています。

また、意図せず人を傷つける言い回しになっていないかという観点について言及されているコラムもあり、校正者としては一読しておきたいところです。そうした言い回しに対してアラートを出すのも校正の重要な役割ですが、実際にどのような表現が問題になりうるかを学べる機会は多くありません。

校閲記者がどの部分に引っかかりを覚えてアラート出しをしたのか知ることで、自分の中に刷り込まれている無意識の先入観やステレオタイプにも気づき、表現に対する感度を高めることができるでしょう。

校正に役立つ書籍 その2.『校閲記者も迷う日本語表現』

 Recommended Books for Reviewers
毎日新聞校閲センター, 『校閲記者も迷う日本語表現』, (毎日新聞出版, 2023)

言葉は時代とともに移り変わっていくものであり、かつては間違いとされた表現が市民権を得ることも珍しくはありません。さらに、同じ時代に生きていても、日ごろどのようなジャンルや媒体の文章に触れているかによって言葉に関する感性は異なってきます。自分にとっては違和感のある表現だが世間的には受け入れられているのか、逆に自分はよく見かける言葉だが世間に浸透したと考えるにはまだ早いのか、校正に迷いはつきものです。

そんなときに指針のひとつとなる書籍が、『校閲記者も迷う日本語表現』です。毎日新聞校閲センターが運営するサイト「毎日ことば」(現「毎日ことばplus」)でのアンケート結果をもとに、言葉の用法や表記について解説されています。

Recommended Books for Reviewers
【公式サイト】> 毎日ことばplus

校閲記者がピックアップしているだけに、「『違和感を感じる』は適切な表現か」「ほどよい『かたさ』のイチゴという場合、どの漢字を使うか」「『初老』は何歳くらいのイメージか」など、校正者を悩ませる問題が多く取り上げられています。アンケート結果を見ながら、自分の感覚が世間でも多数派なのか、あるいは世間の感覚とずれているのか考えていくと興味深いです。

ちなみに、「初老」が指す年齢のイメージについては、「60代」との回答が40パーセント弱で最多ではあるものの、「50代」が約30パーセント、「40代」も約25パーセントだったとのことです。本書では国語辞典類での記述を引きながら、かつては「初老」は40歳を指していたが現在では60代を指すことが多く、今後さらに変わっていく可能性もあるとしています。言葉への意識の変化を示す一例と言えるでしょう。

以上、校正をしていて迷ったときに参考になる書籍を紹介しました。

校正を仕事にしている人であれば、「昔たまたま読んだ本や聞いた話から得た知識が、思わぬところで校正の役に立った」という経験をしたことがあるでしょう。ここで紹介した2冊も、読んでおくといつか助けになってくれるときが来るはずです。

毎日新聞 校閲センター 公式X(Twitter)

X(Twitter)からも為になる情報が発信されています。実際に起こった間違いや、普段よく使う用語の解説など色々と紹介されているので役立つこと間違いなしです。是非一度覗いてみることをおすすめします。