これからの校正の仕事と勝ち残るために身に付けるスキル

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これからの校正の仕事と勝ち残るために身に付けるスキル

1. 校正・校閲を取り巻く環境

これからの校正を考えるにあたって、これまで校正が主戦場としてきた地盤である印刷産業の『出荷額・事業所数・従業員数推移』が2019年8月に発表されています。


【出典:一般社団法人 日本印刷産業連合会『印刷市場の動向』】

印刷業界全体としては、下げ止まりの傾向が見られますが依然と右肩下がりにあるといえます。校正という職種も印刷業界に括られることが多く、その枠で見ると校正職も印刷業界と同様右肩下がりにあると考えられます。

また印刷業界だけでなく、その上位を取り巻く環境を考えると、日本経済自体が少子化や労働人口不足に直面しているという現状を念頭に入れて置かなくてはいけません。

少子化は、労働人口不足ばかりか購買層の縮小を招きます。高齢化による医療費問題なども加わり、経済成長を著しく低下させます。

現在行われている働き方改革の目的である「一億総活躍社会」に対しても、問題はもう目の前に来ているのに課題は多く残されているといった状況です。


SalesZine ニュースより

2. 転職サイトから校正の仕事の需要を知る

現在は、バブル期並みの求人で売り手市場だといわれています。大手転職サイトのトップ10に入る3つのサイトで校正の求人状況を検索してみました。

3つのサイトのうち2つのサイトはクリエイティブ系に強いといわれる転職サイトです。調べた月は12月上旬で首都圏のみ(※12月は賞与月であるため、比較的求人が多くなる時期です)

・校正校閲の正社員(実務のみ)…2件
・編集と校正、ライターと校正など、校正が付属的な職としての求人…6件
・契約社員や紹介予定派遣(実務のみ)…9件
・派遣社員やアルバイト(短期・長期含め)…未計測

労働不足といわれる中でも、校正の実務のみの正社員の募集は多いとはいえない状況です。その反面、フリーランスの校正者の募集は多く見られます。

校正は重要な仕事ですが、経営は数字で判断されます。利益を生み出しにくい、採算性が見合わないものは合理化の対象とされます。非生産的で価値の測りづらい校正の仕事が、業務委託に切り替えられても何ら不思議ではありません。

民間企業においては、大切な職業だからといって保護されるということは考えづらいです。

3. 校正の仕事をなくす様々な要因

品質よりもスピードが要求される時代

大手サイトのニュース記事でも頻繁に誤字脱字が見られます。改善の傾向が窺えないのは、品質よりも記事を掲載するスピードに重きを置いているからでしょう。

例えば、記事内に「でkました。」という間違いが見られることもあり、校正どころか書いた本人すら見直しているかどうか疑うレベルです。

製造現場などの品質検査では、100%の完璧さを求めていたら相当な時間とコストがかかります。そのため、ある程度の許容範囲を持たせて品質検査を行います。

それと同様、ニュース記事でもある程度の品質は犠牲にして致命的な間違いさえなければ、多少の間違いには目を瞑ってスピードを優先させるというのも必然かもしれません。

新鮮度が重要な情報は、時間が掛かれば、その分だけ検索結果にも影響してきます。質よりスピードが優先されるのも当然といえるかもしれません。

誤字に対する耐性

SNSなどのコミュニケーションツールでは、誤字脱字が散見されます。ビジネスでも私的な場面でもです。
スピードを要求されるものでは、多少間違いがあってもわざわざ指摘する人はごくわずかでしょう。社内のメール、知人からのLINEで誤字があっても、文意が伝われば流す人は多いはずです。これは、情報過多で一つ一つの情報を精査できなくなっているのが原因の一つかもしれません。

文字を使わなくても伝達できる技術(3Dや動画)の普及

プレゼン資料や提案書などでは、このパターンが多いです。紙で印刷された資料を持ち歩くのではなく、iPad一つで今では提案以上のことができます。

またコミュニケーションの手段として、わかりやすく伝えることが重要視されるので、グラフや画像が多用されることも多く、その分文章が削ぎ落され、校正する部分も少なくなってきています。

紙からWebへのシフト

これが一番の要因ですが、電通公表による2018年の日本の広告費からも、この傾向が窺えます。

「新聞広告費」(前年比92.9%)
「雑誌広告費」(前年比91.0%)
「インターネット広告費」(前年比116.5%)

【出典:電通_2018年 日本の広告費:2018年(平成30年)の広告費の特徴から一部抜粋】

5年後10年後というスパンで考えたら、これから校正者を目指す人に『紙の校正だけに専念しておけばいい』と言える人はいないでしょう。

だからといって悲観することはなく、こと校正者に関しては、そのスキルが流用できる場面は多いです。紙であろうがWebであろうが正しい情報を正確に伝えることに変わりないです。主戦場を移せばいいだけです。

4. 勝ち残るために身に付けるスキル

Web校正

Web校正に関しては今後も需要が見込めるため、紙媒体だけに特化している校正者は、一度はWebの校正を経験しておくべきしょう。紙にないWeb独特のルールがあります。

例えば、基本中の基本ですが「パンくずリスト」というものがあります。下の画像のオレンジの矢印部分です。
赤と青の丸で繋いでいるところが連動する箇所です。

そのため、見出しが変更されるとパンくずリストも変更される必要があります。紙媒体で例えるなら、本文中の見出しが変更されると巻頭の目次も変更するといった感じです。

パンくず

その他にも「サイトマップ」や「内部リンク」、「階層構造」という知識も必要になってきます。あくまで考え方だけですので特殊な技術は必要としません。

SNSへの対応

SNSでのマーケティングも活発です。情報の正確性を担保するためにも校正は必要になっています。例えば、Twitter(現 X)なら、文字数制限やハッシュタグを複数入れる場合はスペースでつなぐ(#校正 #校閲)という基本的な知識も必要です。

+αのスキル

今後、WordやExcelなどの最低限のPCスキルは必須といえます。文章を入力する、表計算ができるということでなく、それらで「何ができるのか?」を知っておく必要があります。文字情報が紙(ゲラ)に落とし込まれる前に、ミスを食い止めることができます。

これからはデータの段階で、いかに間違いを潰すかという視点がますます必要になってきます。校正ツールもAIの発展とともに増えてきています。有料版をわざわざ購入しなくても、身近なツールであるWordでも文字情報の精度を上げることができます。

校正作業を紙だけでするという考え方はもう時代遅れです。部分的に見れば紙のほうがメリットとなるときもありますが、大部分の校正作業においては紙とデジタルの両方を駆使して校正作業のバランスを取っていくほうが、圧倒的に効率化できる時代にあります。

『校正に依頼する → 校正者が間違いを見つける オペレータが修正する 校正に依頼する』
というサイクルが、仮に3サイクル発生するなら、+αの知識で2サイクルに減らすことも十分可能になってきます。

・これをなぜ校正がやったほうがいいか?

制作工程の上流の品質が上がればあがるほど、校正の負荷は少なくなります。校正の負荷が少なくなるということは、その分、校正の仕事がなくなるといういうことです。

そのため校正者がその領域を先に押さえておくということです。仮にその領域を編集やオペレーターがやり出したら、校正の仕事は少なくなるばかりです。

社内での営業

もし複数の部署がある企業で働いていて、部署間の風通しもよく行動に移せるタイプなら、その企業が傾きさえしなければ仕事に困ることはないです。

校正者の特性を活かせる緻密で集中力を要し、正確性が求められる仕事は社内に山のように転がっているはずです。

ここで取り込む仕事というのは校正者の特性を活かせる仕事です。何でも屋になるということではありません。

おわりに

ニーズはあるけど、それに気づくか気づかないか、気づけてもその時に出来るか出来ないかは大きな分岐点になってきます。情報収集と準備は常にしておく必要があります。

情報収集といっても、セミナーなどに頻繁に行く必要はありません。セミナーのタイトルや講義の内容だけ見れば、どういった内容のものか大体わかります。わからなければ、それを調べればいいだけです。

これからは校正に限らず、どんな職種でも常にアンテナを張って準備しておかないと厳しい状況と言えます。逆に言えば、常にアンテナを張って準備している人が勝ち残っていくということです。