
校正・校閲がミスを無くすためにすべきこと
漢字の使い分けや用法は、多様でかつ膨大であるため、いち校正者がすべて覚えきるのは到底困難なことです。しかし、校正者は、常に間違いを見つけなくてはならない過酷な立場にいます。
その膨大な情報のどこから手を付けて行くかを考えたら途方に暮れるかもしれませんが、やるべきことは決まっています。
まずは、身近に起こった間違いから着実に潰していくことです。起こる可能性の高いミスから優先的に頭に叩き込み、起こる可能性の低いものは優先度を下げます。
市販の辞書などで、漢字の使い分けや用法などを覚えるのは後回しで大丈夫です。
実際に校正する媒体によって使う漢字も表現も違ってきます。ジャンルによって、ある程度は言葉もカテゴライズされます。
例えば、
ファッション雑誌に携わる校正者が、約款などに使われる漢字や表現を覚えたところでその使用頻度は低いので効果的とはいえません。
そのためにも、校正の知識やノウハウの蓄積・共有は必須になってきます。
現場に則した勉強材料
自分の周りで実際に起こった誤変換や漢字の使い分けなどを蓄積したものから、ランダムに抜粋したものを下記にまとめてみました。
自分の制作環境にとっては役立つものばかりです。新人研修などにも活用できるため効果は大きいです。
実際に起こった間違いの蓄積
実際にデータとして間違いを蓄積する際は、「日付」「起こった媒体」「補足説明」なども記載する必要があります。
蓄積していくとよく起こる間違いが次第にわかってきます。
蓄積の際は、ワードなどで文章の形式にするのではなく、エクセルで蓄積していくことをおすすめします。なるべく、1セル・1メッセージにするよう心がけます。
そうしておくと、デジタル校正ソフトなどに単語登録する際に取り込みやすくなります。
蓄 ・ 畜 | 蓄圧式~ |
郡 ・ 群 | 住所で使うのは「郡」 |
縁 ・ 緑 | 広縁~ |
躯 ・ 駆 | 躯体~ |
複 ・ 復 | 複層ガラス~ |
会 ・ 界 | ○○工業会が「界」になっていた |
板 ・ 版 | メラミン化粧板~ |
國 ・ 国 | 「柳田国男」と入っていた。人物名はいわゆる旧字体も多い。 |
賃 ・ 貸 | 見間違えしやすい文字 |
径 ・ 経 | 見間違えしやすい文字 |
間口 ・ 開口 | 見間違えしやすい文字 |
保温 ・ 保湿 | 見間違えしやすい文字 |
若手 ・ 苦手 | 見間違えしやすい文字 |
仕様 ・ 使用 | 誤変換しやすい文字 |
動線 ・ 導線 | 誤変換しやすい文字 |
持って ・ 以て | 誤変換しやすい文字 |
日本初 ・ 日本発 | 誤変換しやすい文字 |
追求 ・ 追及 | 「追求」は追い求める、「追及」は追いつめる |
実績 ・ 実積 | 「実績」は積み重ねられた業績、「実積」は実際に測った面積 |
伺う ・ 窺う | 「伺う」は聞く・問う・訪ねる、「窺う」は探る・察する・待つ |
気密 ・ 機密 | 「気密」は気体を通さぬこと、「機密」は政治・軍事上の大切な秘密 |
侵入 ・ 浸入 | 「侵入」は不法に入ること、「浸入」は水が入ること |
滅菌 ・ 減菌 | 「滅菌」の所に「減菌」と入っていた。よく似た字なので注意。 |
観賞 ・ 鑑賞 | 「観賞」は見て楽しむこと。(例:観賞植物、観賞魚) 「鑑賞」は芸術作品を理解し、味わうこと。(例:名画を鑑賞する) |
粗い ・ 荒い | 「粗い」は大まか・ざらざら、 「荒い」はげしい・荒々しい・甚だしい・ごつごつ。 「あらびき」は「粗」の方 |
傷める ・ 痛める | 「傷める」は破損、「痛める」は痛苦 |
偽装 ・ 偽造 | 「食品偽造」と入っていた。 |
店舗 ・ 店鋪 | 「鋪」は旧字体 |
人口 ・ 人工 | 人口○○万人~ |
渾身 ・ 懇親 | シェフ渾身の~ |
消火 ・ 消化 | 消火設備~、消化器官~ |
化学 ・ 科学 | 化学繊維~ |
賞品 ・ 商品 | 賞品の当選者の発表は~ |
短辺 ・ 短編 | 短辺側○○mm~ |
出展 ・ 出典 | イベントに「出展」と引用文章の「出典」 |
偲ぶ ・ 忍ぶ | 「思いが忍ばれる」というような誤用があった。 「忍」は耐え忍ぶときに使用。 |
確率 ・ 確立 | 可能性についていうときは「確率」 |
褒章 ・ 褒賞 | 勲章(紫綬褒章)のしょうの字が「賞」に |
受章 ・ 授章 | もらったので「受」章のはずが、さずける方の「授」章に |
良く ・ よく | 良し悪しの意味での使用は、良く。 頻度を表す場合は、よく。 |
標準形/形式 ・ 標準型/型式 | 「型」と「形」はよく混同される字。 |
ギ(「示」+「氏」) 祗 | 祇園の「祇」の字は「示」+「氏」または「ネ」+「氏」。 「氏」の下にヨコ棒がついた「祗」は別の字。 |
これらはほんの一例ですが、社内で起こった間違いを日々蓄積していきます。蓄積した間違いは、系統によってカテゴライズしていきます。校正する媒体ごとで分類するのもありです。
それを校正者内で共有することは当然ですが、製作サイドとも共有することで社内全体の品質向上が達成できます。
校正者だけでできることは限られてくるので、他の職種と連携してミス削減に取り組んでいくことが大切です。地道な活動ですが必ず品質向上に貢献します。
効率よく学習する
知識的なことは、効率よく覚えていくことです。日本語の使い分けや用法は、一生掛かっても覚えきれるものではありません。
そのためには、まず次のことから取り組んでいくことです。
・自分が校正していて、実際に起こった間違いを蓄積する
・実際に起こった間違いから、他にも同じような間違いがないか考える
・自分が携わる校正物をパラパラと捲ってみて、間違えそうなものがないか推測してみる
間違いを蓄積する基準としては、
『次にその間違いが起こったとしても誰もが見つけることができるか』の視点から情報を残しておくことです。
不要だと思う情報は極力取り除いておくことです。情報として色々と残したくなりますが、通常業務の負担にならないようにしておくことです。
負担になってくると、やがて蓄積することが面倒になってきます。