ノドの意味と校正者が知っておきたいこと
1. ノドの意味・位置
▼ ノドの意味・位置
ノドは、本を開いたときの綴じ目部分のことを言います。見開きで見たときの本の中央(背に接する部分)に位置します。
「ノド」と「ノドのアキ」をセットで「ノド」と呼ぶことも多いです。
このノドの付近には、適切なアキ(ノドのアキ)が必要とされます。適切なノドのアキが確保されていないと、綴じ方(製本方法)によっては、文字が読みづらくなってくるからです。
2. ノドのアキは綴じ方で変わる
▼ 本の綴じ方の代表例
【出典:日本エディタースクール出版部_本の知識】
中とじ・無線とじなど、この綴じ方によってノドのアキが変わってきます。
結構重要なことですが、校正しているときに、とじ方まで意識している人は少ないと思います。最低でも、自分が携わる媒体のとじ方は覚えておくとよいです。特に、見開き2ページを使用してレイアウトされるような誌面の校正をするなら必須の知識です。
■ 校正するときに覚えておきたいポイント
「中とじ」と「無線とじ」双方にメリット・デメリットがあります。校正者として押さえておきたいポイントは以下になります。
▼ 中とじの例(BRUTUS:2021年1月1-15日号)
【出典:マガジンハウス:BRUTUS(ブルータス)2021年1月1-15日号_P.54・55】
中とじは、ページをノド部分までしっかりと開くことができます。そのため、ノドの近くに文字があったとしても文字が隠れて見づらくなることがありません。
▼ 無線とじの例(BRUTUS:2020年10月1日号)
【出典:マガジンハウス:BRUTUS(ブルータス)2020年10月1日号_P.86・87】
無線とじは、ノド部分(背に接する部分)を糊付けするため、ノド付近を完全に開くことができません。そのため、ノド付近に文字があれば隠れて見えなくなることがあります。
上の例でもノド付近は完全に開ききりません。ただ、このBRUTUSは160ページ程で紙の質もいいので、ノド部分はかなり見やすいです。
紙の性質にもよりますが、一般的にはページ数が多くなるにつれノド部分が開きにくくなります。そのため、ページ数・紙の質を考慮した「ノドのアキ」が必要になってきます。
3. ノドのアキ(ファッション誌で確認)
以下、宝島社:InRed(インレッド)2021年1月号の誌面を参考にしています。
▼ ノド部分
【出典:宝島社:InRed(インレッド)2021年1月号】
InRedは無線とじなので、ノド部分が完全に開ききりません。ノド付近に文字があると隠れて見えなくなることがあります。そのため、適切なノドのアキが必要になってきます。
※InRedも前述のBRUTUS同様、紙の質がよくページ数が多くはないのでノドはかなり見やすいほうです。
▼ 特集ページ(P.26-P.27)
見開き2ページを使ってレイアウトされたものです。
▼ 無線とじなのでノドのアキ(赤枠)がちゃんと確保されています。製本された状態(無線とじ)を想定して、レイアウトされています。
ページ上部の見出し「鏡を見たくなる!2020年 ベストコスメ大賞」は、ノドのアキに文字が掛からないように、ノドのアキを境に左右のページにわけられています。
左ページ → 鏡を見たくなる!2020年
右ページ → ベストコスメ大賞
見出しの級数や字間を見れば、単純に左と右とで文をわけたというよりも、文の区切りがよくなるように調整していることが窺えます。
4. ノドの注意点
校正するときに気を付けておきたいポイントは、見開きにまたがっている文です。
▼ 見出しの「鏡を見たくなる!2020年 ベストコスメ大賞」のすぐ下(赤線)にも文が入っています。
■ 見出し部分の拡大
[文の内容]
たった数滴やひと塗りで、肌や表情、気持ちまで引き上げるコスメの力は偉大。美容のプロたちが、「鏡に映る自分にときめかせてくれた」コスメを厳選しました! 撮影=草間大輔
見開き2ページにまたがる一つの文ですが、ノドのアキを考慮して、次のように文の途中で区切られています。
” ~プロたちが、「鏡に映る自分にときめ かせてくれた」コスメを~ ”
このようなページをまたぐ文に赤字が入った場合、起こりやすい間違いがあります。
▼ 間違い例
・トル(トルツメ)の赤字が入ってきた場合
● 左ページだけで調整されている
● 左右のページで1つの文なので、削除した分を右ページから持ってこないといけません。
【適切な結果】
一つの文がノドのアキによって離れているので、間違いにも気づきにくくなります。この手の間違いは、素読みをする場合には文が途中で切れるので気づきやすいです。ですが、単純な赤字の照合だけなら見落とす可能性が高いです。
■ 以上の間違いを実際の誌面で見ると次のようになります。
・トル(トルツメ)の赤字が入ってきた場合
・良くない結果
■ その他の例(見出しの場合)
・トル(トルツメ)の赤字が入ってきた場合
・良くない結果
・右ページの文を詰める?
・右ページから文を詰めたいところですが、そうすると文の区切りが悪くなります。
もともと文の区切りがいい位置で調整されているものは、修正後もそうする可能性が高いです。見出しなら尚更です。
この場合の修正には、色々なパターンが想定できます。単純に右ページの文を詰めるということも考えられます。文字の級数を調整して対処するかもしれません。右ページでなく、左ページを調整することも想定できます。もしくは、文自体をリライトすることも考えれ、校正では判断できないところです。
そのため、この場合は「文字をツメル」というよりも「アキを調整する」指示を入れておくほうがいいかと思います。
おわりに
校正ゲラは単ページで出力されることが多いので、校正も単ページで確認することが多くなりがちです。
ですが、見開きでデザインされているものは、単ページの確認では成立しないことがあります。もう片方のページの確認も必要になってきます。
そのときは、校正ゲラを横に並べて、見開きページを一つの視野に入れて確認することです。文字だけでなく、左右のページで画像や表、イラストの高さが違っていることが意外と多いのに気づくと思います。
このようなノドに関する知識は、校正の実務に入る前の研修で教わることです。決して経験を通して学ぶものではありません。知識として持っておくだけで実践で役立ちます。
[記事内で使用の雑誌]
・マガジンハウス:BRUTUS(ブルータス)2020年10月1日号・2021年1月1-15日号
・宝島社:InRed(インレッド)2021年1月号