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文章の校正:素読みで効果的にミスを見つける2つのやり方[部分読み・総合読み]
文章校正を行う際は、落ち着いて丁寧に注意深く行うのが基本です。ただ、どんなに注意深く作業しても、別の人が読み直したら誤字脱字があったという経験が一度はあるのではないでしょうか。
このような場合は「部分読み」と「総合読み」の2つの読み方を組み合わせるのが効果的です。
ここでいう
「部分読み」とは、一字一字、もしくは数文字単位での見方
「総合読み」とは、文の流れを重視した見方
のことを言います。
文章を漠然と読んでいるだけでは間違いを見つけるのは難しいです。目的意識をもって読むと格段に視点は変わってきます。
文章校正が苦手という方は「部分読み」「総合読み」のどちらかが疎かになっているか、もしくは「部分読み」「総合読み」の両方を同時に行っている可能性があります。
少し意識を変えるだけで文章の見え方は変わってきます。文章を読む機会が多いという方は是非参考にしてみてください。
[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]
日本エディタースクール_『校正実務講座』_「誤植の発見」
日本エディタースクール_『標準 校正必携 第8版』_「縦組の校正記号」
1. 文章校正で見落としやすい誤り
大人が本や記事などを読むとき、たいていの人は一字一字を目で追ったり、発声したりしながら読むわけではありません。長年の経験から文章の流れに従って「語句」を一かたまりずつ読み取り、書かれている内容を把握していきます。
特によく知っている語句や内容、見慣れた用語であればあるほどその傾向が強くなります。
次の例文を読んでみてください。
「猫」と「描」、「菅」と「管」などの字形の似た文字は娯殖になりやすいと、日本エディタ―スクールの授業で教わりました。
この例文では、「誤植」の文字が「娯殖」となっています。他にも「エディター」の「ー(音引き)」が「―(ダーシ)」となっています。
この例文だけなら注意深く読めば誤りに気づけると思いますが、何行にもわたって続く文章中にあったとしたらうっかり見落としてしまうかもしれません。
大人の読み方では「語句」を一かたまりで読み取ります。「誤植」の意味を「印刷物で文字が誤っていること」と知っている人ほど、文章の内容を推測して「娯殖」を「誤植」と見誤ってしまう可能性が大きくなります。
「日本エディタ―スクール」の文字も、一字一字確認すれば、ダーシ(―)が混じっていると気づけますが、「日本エディタースクール」という名称を知っている人ほど、語句を一かたまりで見てしまうため誤りに気づきづらくなります。
このような見間違いは誰にも起こりうることで珍しいことでもありません。
「娯殖」が「誤植」になるという間違いは、この例文用に作成したものなので普通の制作現場ではまず起こりません。文字をスキャンしたなどの特殊な場合であるなら起こる可能性もありますが。
一方で「エディタ―スクール」の間違いは、普通の制作現場でも起こることがあります。
間違った理由を推測すると、「エディタ」とまず入力して、後から音引きの入れ忘れに気づき「―(ダーシ)」を入力してしまったと考えられます。普通に「えでぃたー」と入力して変換していれば、音引きがダーシになることはありません。
この場合、「えでぃたーすくーる」と入力して変換していればこのようなミスは起こらなかったはずです。
現在では文章入力ソフトの変換精度も上がっています。細切れで変換するよりも、ある程度の文で変換したほうがうまくいくこともあります。
2. 校正ミスを減らすための2つの読み方
現段階では、校正・校閲作業で誤りを100%見つける方法はありませんが、見つける確率を上げる方法はあります。何もAIやデジタルツールに頼るだけが手段ではありません。
文章校正で間違いを見つける確率を上げるには、
「部分読み」で一字一字、もしくは数文字単位で確認し、
「総合読み」で全文を読み直して確認することです。
この2つの読み方を意識して習慣化することで、文章に対する見方が変わってきます。
3. 部分読みとは?
「部分読み」は、幼児の読み方に似ています。
幼児の読み方とは、一字一字を見ていく読み方です。まだ文章をすらすら読めない幼児は、声に出して文字を読み上げながら、その音に対応するモノやコトを思い浮かべながら読みます。「部分読み」では、このような幼児の読み方をイメージし、一字一字、数文字単位で見ていきます。
一字一字を声に出したり、ペンなどで印をつけたりしながら、「部分的に」読み進めていきます。声を出すのは小声でぶつぶつ自分に聞こえる程度でも大丈夫です。
わかっていても、仕事が山積みのとき、急ぎの仕事のときは、この「部分読み」ができていないので注意が必要です。
部分読みのポイント
▼ 「部分読み」の際に意識したい基本ポイント
1. 誤字脱字・語句の確認
誤字脱字は、部分読みの段階で潰していきます。難しい表現や熟語が出てきたら、その都度辞書やネットで調べて確認します。わからない語は鉛筆などで印をつけておき、後で一気に検索するというやり方も効率的です。
> 校正・校閲で役立つ辞書サイト[チェックしておきたいサイト一覧]
2. 漢字の変換ミス、送り仮名のミス
現在ではパソコンで書かれたテキスト原稿がほとんどです。便利になった反面、変換ミスもよくあります。特に、同音異義語の変換ミスが顕著に見られます。見慣れた簡単な漢字ほど読み飛ばしてしまう可能性があるので注意しましょう。
また送り仮名には本則と許容があります。許容が間違いとは言えないため、両方が文章内に混在していることがあります。漢字だけでなく送り仮名も含めてミスがあるという意識で確認します。
3. 語句の不統一(表記統一)
「など・等」「とき・時」「こと・事」など、一つの原稿の中で語句の不統一がないか確認します。校正する案件によっては、表記統一のためのリストが用意されていることもあります。
「時」や「とき」など意図的に使い分けをしていることもあるので、機械的にどちらかに統一すればいいというわけではありません。
現在では、表記統一はWordやPDF、校正ツールでも検索可能なので、部分読みでなく別の工程を設けてもよいです。
4. ページ数、章番号、図表番号など
番号が振られている場合は、連続性が正しくなっているか確認します。この確認は文章を読みながらではなく、該当部分だけに絞ってみていくと大抵は見つけることができます。文章の追加や削除のあとによく起こるので注意が必要です。
5. 約物の使い方(句読点やカギカッコ、三点リーダなど)
句点が抜けていないか、かっこの起こしと受けが対応しているか、三点リーダの使い方が原稿の中で統一されているかなど、約物の確認も部分読みで行います。
6. 段落の一字下げ/末揃え
段落の一字下げ、文末の揃えも、その部分だけをピンポイントで見て確認するのが効果的です。
7. 文字の大きさやフォントの違い
文字・記号などの大きさが違っている箇所がないか、明朝・ゴシックといったフォントが正しく反映されているかを確認します。上付き、下付き文字なども要注意です。
8. 数字の全角・半角の不統一
数字には全角と半角があります。数字だから、必ず半角で表記するというわけではありません。文章内で数字を一つだけ使う場合、たとえば、1つ目、2つ目などの場合は半角だと目立たない場合があるので、あえて全角の数字にしていることもあります。ルールを確認し全角・半角の不統一をなくします。
以上のことを部分読みで確認していきます。
どれも基本的なことばかりですが、これらを頭で覚えるのではなく、簡単なものでいいので確認項目を付箋や紙などに書いて自分なりのチェックリストを作ってやっていくのが効果的です。
4. 総合読みとは?
「総合読み」は、大人の読み方で行います。
大人の読み方とは、「素読み校正」で行うような全文を通して読んでいく読み方です。部分読みで一字ずつ読んでいくと、どうしても文章全体が論理的な流れになっているかという確認が難しくなります。全体を通して読むことで、読みやすい文章になっているか、つながりの悪いところがないかを確認していきます。
そこで2つ目の読み方の「総合読み」が大事になってきます。
総合読みのポイント
▼ 「総合読み」の際に意識したい基本ポイント
1. 主部・述部が対応しているか
主部と述部が合っていないと、意味がわかりにくい文になるばかりか違った解釈をされることがあります。主語を意識しながら術部と対応しているか、しっかり確認していきます。
2.「てにをは」や接続詞の誤り
1と同様に「てにをは」部分は特に意識して確認します。鉛筆などで区切り線を入れたり、丸を付けたりして「てにをは」部分を強調させるとよりわかりやすくなります。
3.「〜たり、〜たり」が正しく使われているか
「〜たり」は繰り返す形で使うのが本来の用法です。1つ目の「たり」が出てきた時点で、2つ目の「たり」があるかを確認します。
4. 内容の矛盾点や前後の記述に食い違いがないか
内容的な矛盾・食い違いは、総合読みで丁寧に確認します。疑問に感じたときは、鉛筆書きで疑問出しをします。
5. 不要の重複語、冗長な文章がないか
推敲が足りない文章は、不要な重複語などがありがちです。同じことが繰り返されている文、削っても問題がない部分がないか確認します。ただし、校正・校閲では原文尊重が原則なので、おかしな点があったとしても赤字を入れるのではなく疑問出しで対処します。
6. 見出しやリードが本文の内容と違っていないか
見出しやリードがついている場合、その内容と本文が合っているか確認します。本文に変更が多いと見出しと対応しなくなることがあります。見出しと本文との対応は、部分読みでは見つけられないので総合読みで確認します。
7. 熟語の意味が文章に合っているか
部分読みで熟語の漢字の確認は済んでいると思いますが、その熟語がもつ意味がその文章に本当に合っているのか、もう一度確認します。
8. 事実関係の誤り、不適切な表現がないか
文章を読んでいて事実と反することがあった場合などは、複数の辞書や公的なサイトで調べて申し送りをします。
総合読みをするときには、文章の流れをしっかり読み取るという意識で確認を行います。一回読んで終わりではなく何度か読み直すことも大切です。
読んでいて違和感があったり、読みづらかったりする場合は、一旦そこで立ち止まって、該当部分を声に出して読んで確認します。「主述関係」や「てにをは」などがおかしくなっていることがあります。
おわりに
文章校正では、ある程度適切なやり方があります。やみくもに文章を読むよりも目的意識をもって挑むのが効果的です。
「部分読み」「総合読み」は、無意識にやっている校正者もいます。自然とそういう読み方に到達したという方も多いと思います。意識するだけでも視点は変わるので、文章を読んでいて見落としが多いという方、色々なところが気になって注意が散漫になるという方は、是非一度実践してみてください。
慣れてきても「部分読み」と「総合読み」を同時に行わず、2つの作業を分けて行うようにしましょう。両方を同時に行うとどちらかが必ず疎かになります。2つの読み方を意識して効果的に間違いを見つけていきましょう。