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校正の品質を上げたいならこんな依頼者になってはいけない[事例から学ぶ改善のコツ]
校正の仕事を依頼されたとき、作業内容や作業量、納期などが明確に指示され、原稿や校正紙がわかりやすくまとめられていると、校正者はスムーズに作業に取り掛かることができます。このような手配の仕方は理想的といえますが、クライアント全員がそのような対応をしてくれるとは限りません。
この記事では、校正者目線で理想とはかけ離れたこんな依頼は避けてほしいという事例を紹介しています。
※記事内では、校正の依頼者のことを便宜上「クライアント」としていますが、この「クライアント」には、校正を依頼する方、社内社外問わず全員を含んでいます。
「校正者」と「クライアント(校正依頼者)」の関係で述べていますが、クライアントだけが悪いわけではありません。原因は他にあることも考えられます。たとえば、クライアントの上司が無茶を言っているのかもしれません。また、何も言わずに何でも引き受ける校正者がよくないのかもしれません。
この記事が原因を深堀りするきっかけとなり、皆さんのお仕事がストレスなくスムーズに進行することに役立つと幸いです。
1. 仕事を丸投げする
クライアントの中には、原稿を十分に確認せずにそのまま校正者に渡してしまうケースがあります。
たとえば、何も整理しないままの原稿と校正刷り(ゲラ)だけを丸投げするような行為です。通常は、依頼する側が原稿の内容や状態を事前に確認し、修正が必要な箇所の量や使用する参考資料の有無を把握したうえで、校正者に作業内容を説明します。
こうした事前準備を何もせずに丸投げされた場合、校正者はどこをどのように確認すればよいのかわからず、困惑するばかりです。何度もクライアントに質問をするはめになります。双方にとって良くない状態が起こります。
校正は単なる表面的な確認作業ではなく、制作物の品質を高めるための重要な工程です。クライアント自身がきちんと原稿を把握し、指示を明確にすることが、スムーズで効果的な校正作業につながります。丸投げは、結果的に作業の遅延や仕上がりの品質低下を招く原因にもなりかねないので、事前準備を怠らないようにすることが大切です。
近年では出版業界だけでなくどの業界においても人手不足の影響で、皆にしわ寄せがきています。クライアント側に立てば、「忙しくて原稿整理なんてできない」という方もいるでしょう。ただ、この問題は仕事相手への配慮を持っていれば大抵は解決します。
もし自分の仕事が忙しくて校正を丸投げせざるを得ないと考えている方は、仮に自分の会社の社長に校正を依頼すると想定した際、仕事を丸投げするかどうか自問自答してみてください。
この場合、相手が社長だからちゃんと原稿整理をすると考えた方は、人によって態度を変える気質があり、他人への配慮が欠けている可能性があります。
校正者もその他関与者も「いいものを作りたい」という目的は同じです。皆が平等の立場にあるので、校正者に限らず関与者への配慮は欠かさないことが大切です。
2. 指示があいまい・意味がわかりづらい・文字が読めない
原稿に書かれている指示が不明確であったり、意味が理解しづらかったり、さらには文字そのものが読めないことがあります。この場合、正しく意図を汲み取ることが難しくなり、確認のために時間を割くことになります。
たとえば、指示があいまいだと「どの部分を修正すればいいのか」「どのように直せばよいのか」が判断できず、余計な確認作業が発生します。また、手書きの文字が読みづらい場合や、専門用語や略語が不明確な場合も、内容を調べるために時間を費やします。
このような状況が続くと、作業効率が低下するばかりか、スケジュール全体にも影響を及ぼします。
校正作業をスムーズに進めるためには、指示を誰が見ても一目で理解できるよう、明確かつ簡潔に記載することが重要です。手書きの場合は、できるだけ丁寧に書き、書くのが面倒ならPCで入力したテキストを原稿に添付するのも有効です。また、専門用語は、一般の辞典類に掲載されていないことが多く、調べるのに手間がかかります。専門的な用語や略語を使用する際には、『相手は絶対にわからない』という前提で書くように意識付けしておきます。
3. メールや電話などのレスポンスが遅い・返ってこない
校正者は一人で黙々と作業をするというイメージを持たれることが多いですが、実際にはそうではありません。校正作業には、クライアントとの密なやりとりが欠かせません。たとえば、作業内容のすり合わせや、原稿に関する疑問点の確認など、コミュニケーションをとる場面が意外とあります。
しかし、こちらから連絡を入れても返事が遅かったり、まったく返ってこなかったりする場合、作業が大きく滞ってしまうことがあります。疑問点が解消されない場合、次の工程に進むことができず、結果的に作業が中断されることになります。また、これが重なるとスケジュール全体の遅延を引き起こす可能性もあります。
特に校正作業は、クライアントの意向に基づいて進める性質が強いため、スムーズな連絡が重要になってきます。メールや電話などの返事に対して、迅速に対応するかどうかで効率も変わってきます。
また迅速なレスポンスは、信頼関係の構築にもつながります。校正者にとってもクライアントにとってもメリットが大きいので、連絡には常に気を配る必要があります。
4. 短時間で高品質の校正を求める
校正者は常に短時間で高品質に仕上げてくれるものだと思っているクライアントもいます。
しかし、実際には、作業内容や量によって必要な時間が大きく異なります。原稿が多かったり複雑な内容であったり、または多くの修正が必要な場合は、それだけ時間がかかります。
限られた時間内で仕上げなければならない場合には、すべての作業を行うのは難しいことがあります。そのため、校正者とクライアントが話し合い、作業の優先順位や作業項目を決めて、どの部分に重点を置くべきかを明確にする必要が出てきます。
時間がないから、とにかく手を付けるというのは一番悪い選択です。
そして、校正にかかる時間や、作業内容の難易度は、実際に作業する校正者とクライアントとの間で差が生まれることが多いです。
クライアントが「すぐに終わる」と思っていた校正作業が、実際には多くの確認が必要な場合があります。その状況では、校正者に過剰な負担がかかり、結果的に品質が担保されなくなるリスクも生じます。
高品質な校正を求めるのであれば、相応の時間が必要です。無理なスケジュールを強いることは、双方にとって望ましくない結果を招く恐れがあります。そのため、どんなに切羽詰まっていても作業内容や納期については、事前の話し合いが欠かせません。
5. 校正者ならどんな校正でもできると思っている
一部のクライアントは、校正者がどんな分野でも対応できると誤解していることがあります。しかし、校正作業は単なる誤字脱字のチェックにとどまらず、文章の内容や専門用語、文脈の正確性を理解した上で進める必要があります。そのため、分野によっては専門的な知識や経験が求められることが少なくありません。
たとえば、医療、金融、法律といった高度な専門知識が必要な分野の原稿では、その内容を理解していなければ適切な校正を行うことは困難です。専門用語の使い方が正しいか、法律や規則に沿った記述がされているかといった確認は、一般的な校正者のスキルだけでは対応しきれない場合があります。
そのような場合には、依頼を断ったり作業範囲を絞ったりする選択を取らざるを得ません。
校正者にも得意分野がある一方で、苦手な分野や対応できない領域もあります。この点の理解は非常に重要です。
校正を依頼する際には、原稿の内容や分野について事前に校正者に詳しく伝え、その案件に適性を持つ校正者を選ぶことがポイントです。また校正者が可能な作業範囲については、依頼前に十分な話し合いをする必要があります。
校正者は万能ではなく、専門性に応じて対応できる範囲が限られる場合があると理解しておくことが重要です。
6. 校了後に修正の依頼をする
「校了」とは、原稿の最終確認が完了し、これ以上の修正が必要ない状態を意味します。簡単に言えば、「この原稿をそのまま印刷しても大丈夫」という合意が取れた段階を指します。
最近では、一部のクライアントは「校了」の意味を十分に理解しておらず、校了後に再び修正を依頼してくることがあります。
校了後に修正を行うとなると、すでに進行中の印刷工程を中断しなければならず、多くの問題が発生します。まず、印刷会社のスケジュールに影響を与えるだけでなく、納期が遅れる可能性があります。場合によっては、追加のコストが発生することもあります。
このような事態が起こる理由の一つとして、「校了」などの専門用語がクライアントにとってなじみが薄いことがあげられます。特に、出版や印刷に不慣れな方は、「少しだけならまだ変更できるかも」と考えてしまいがちです。
そうならないように、校正者や関係者側からもクライアントに対して「校了」の意味を事前に説明し、この段階をこえると修正が難しいことをしっかりと伝える必要があります。
「校了」という言葉の重みを理解し、校了後の修正は、印刷工程、関係者全体に負担をかけることになると認識しておく必要があります。
7. 進捗の連絡が遅れる
出版や印刷業界では、締め切りに間に合わないケースが珍しくありません。しかし、遅れが発生する理由を明確にし、その後の工程に適切に対応することが求められます。問題なのは、過去に遅れた際に「なんとかなった」という経験から、「今回も多少遅れても問題ないだろう」と安易に考えるクライアントがいることです。このような認識が続くと、制作工程全体に悪影響を及ぼす可能性があります。
スケジュールが遅れることは、その制作物だけの問題ではありません。校正者は多くの場合、複数の案件を同時に進行しています。これはクライアントも同様です。そのため、一つの案件が遅れることで、他の案件のスケジュールにも連鎖的に影響が広がることになります。
特に、他の案件の締め切りが迫っている場合には負担が一層大きくなり、最悪の場合、すべての案件の進行が滞る事態にもなりかねません。進行が遅れることによる影響は、制作に関わるすべての人に及びます。
このような事態を未然に防ぐためには、クライアントがスケジュールの重要性を十分に理解し、予定通りに進行するよう努力をする、もしくは協力をあおぐことが欠かせません。
もちろん、やむを得ない事情で遅れが生じることもあります。ただ、その場合でも、関係者全員に速やかに情報を共有することが重要です。事前の連絡があれば、校正者やその他の関係者もスケジュール調整に追われることもありません。
おわりに
最近では、クライアントが校正の仕事や印刷工程を学ぶ環境に置かれていないこともあるので、一概にクライアントが悪いとは言えません。
「いいものを作りたい」という目的は、クライアントも校正者も変わりません。問題解決には、たった一言がきっかけとなることもあります。どちらか一方がということでなく、双方の歩み寄りが大切になってきます。
そうした事情を踏まえたうえで、関与者の皆がしっかり話し合いながら作業することが不可欠です。