「渡る」と「亘る」の意味と違い[例文で使い分け解説]
「わたる」の漢字表記としては、「渡る」または「亘る」が主に使われます。この記事では、「渡る」と「亘る」の意味の違いや使い分けについて解説します。
[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]
・『漢字の使い分けときあかし辞典』
・『広辞苑』(岩波書店)
・『デジタル大辞泉』(小学館)
・『明鏡国語辞典』(大修館書店)
・『記者ハンドブック 第14版』(共同通信社)
「渡る」と「亘る」の意味と違い
まず、「わたる」という語の意味を見ていきます。この語にはさまざまな意味がありますが、概ね以下の2つに分類することができます。
① 間を隔てている空間や時間を越えて向こう側に達する。
例:橋をわたる
留学するためアメリカへわたる
中国から文物がわたってきた
② 一定の範囲に広がる。
例:3年にわたって調査をした
公私にわたって支援する
さまざまな分野にわたる知識
漢字表記する際は、
① の意味合いの場合は「渡る」、② の場合は「亘る」とするのがよいでしょう。
『漢字の使い分けときあかし辞典』(円満字二郎、研究社)によれば、
「渡」という漢字は本来「川や海などを越えて向こう側へ行く」ことを表します。ここから転じて、より広く「何かの向こう側へ行く」という意味でも使われるとされています。
一方で、
「亘」という漢字は、「上下に二本の横棒が引いてあるように、“端から端まで連なる”ことを表す」とされます。このことから、広い範囲にわたることを表現するのに使われるとのことです。
「渡る」と「亘る」の例文
前述の説明を踏まえて、次の例文中の「わたる」を漢字表記する場合、それぞれ「渡る」と「亘る」のいずれが適切か考えてみてください。
例文
Q
1. 海峡を泳いでわたる。
2. 長時間にわたる話し合い。
3. 県の全体にわたって被害が出た。
4. 土地が人手にわたる。
解説
Q 1. 海峡を泳いでわたる。
例文の1つ目は、「海峡」を越えて向こう側に達するという意味なので、上記の①に当たり、「渡る」とするのが適切です。
A 海峡を泳いで渡る。
Q 2. 長時間にわたる話し合い。
2つ目は、「長時間」という範囲に及ぶ「話し合い」が行われたということで、意味は上記の②に当たります。漢字表記する場合は「亘る」とします。
A 長時間に亘る話し合い。
Q 3. 県の全体にわたって被害が出た。
3つ目は「県の全体」という範囲に「被害」が広がっているということで、②に該当し、漢字表記するなら「亘る」となります。
A 県の全体に亘って被害が出た。
Q 4. 土地が人手にわたる。
4つ目は「土地」が「人手」(=他人の所有)に達することだと考えると、①の意味に含まれると判断できます。漢字表記する場合は「渡る」とするのがよいでしょう。
A 土地が人手に渡る。
おわりに
以上、「渡る」と「亘る」の意味と違いについて解説しました。
ただし、「亘る」は常用漢字ではないため、媒体や読者層によってはひらがなとするほうが望ましい場合もあります。新聞社をはじめ、文章を書く際の用字用語の指針としてよく用いられる『記者ハンドブック 第14版』(共同通信社)では、②の意味の「わたる」はひらがな表記にするとされています。