試される校正者の観点[校正・校閲の練習問題]

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試される校正者の観点[校正・校閲の練習問題]

次の文章【A】~【C】の中には、校正の観点から指摘を出すべきポイントが含まれています。いくつ見つけることができるか、校正してみてください。

[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]

『ラフマニノフ』(ヤマハの楽譜出版)
『ラフマニノフ』(コトバンク)
『現代仮名遣い』(文化庁)

問題文[A]

セルゲイ・ラフマニノフは、18世紀に活躍したロシアの作曲家・ピアニストである。1873年にロシアの貴族の家に生まれ、ペテルブルグとモスクワの音楽院で学ぶ。1892年に卒業した後は、作曲家・ピアニストとして、ロシア国内のみならずドイツやアメリカでも活躍した。1917年にロシア革命が勃発すると、パリを経てアメリカに渡米し、精力的に演奏活動を行った。1943年、カリフォルニア州のビバリーヒルズで没した。現在でも人気が高く、ラフニマノフの名を冠したピアノのコンクールも開催されている。

間違い箇所

セルゲイ・ラフマニノフは、18世紀に活躍したロシアの作曲家・ピアニストである。1873年にロシアの貴族の家に生まれ、ペテルブルグとモスクワの音楽院で学ぶ。1892年に卒業した後は、作曲家・ピアニストとして、ロシア国内のみならずドイツやアメリカでも活躍した。1917年にロシア革命が勃発すると、パリを経てアメリカに渡米し、精力的に演奏活動を行った。1943年、カリフォルニア州のビバリーヒルズで没した。現在でも人気が高く、ラフニマノフの名を冠したピアノのコンクールも開催されている。

解説

<1つ目>
セルゲイ・ラフマニノフは、18世紀に活躍したロシアの作曲家・ピアニストである。1873年にロシアの貴族の家に生まれ、ペテルブルグとモスクワの音楽院で学ぶ。1892年に卒業した後は、作曲家・ピアニストとして、ロシア国内のみならずドイツやアメリカでも活躍した。1917年にロシア革命が勃発すると、パリを経てアメリカに渡米し、精力的に演奏活動を行った。1943年、カリフォルニア州のビバリーヒルズで没した。現在でも人気が高く、ラフニマノフの名を冠したピアノのコンクールも開催されている。

①人名の表記揺れ
1文目では「ラフマニノフ」、最後の文では「ラフニマノフ」と人名が揺れています。特に単語の最初と最後の文字が合っている場合、間の文字が入れ替わっていても気づきづらいので、1文字ずつ確認するように心がけましょう。なお、正しいのは1文目の「ラフマニノフ」(Rahmaninov)です。

<2つ目>
セルゲイ・ラフマニノフは、18世紀に活躍したロシアの作曲家・ピアニストである。

②年代
誕生(2文目より、1873年)の時点で19世紀なので、「18世紀」との年代は適切ではないと考えられます。ファクトチェック(事実確認)が作業に含まれない案件であっても、数字の整合性には注意が必要です。

<3つ目>
1917年にロシア革命が勃発すると、パリを経てアメリカに渡米

③重複表現
「渡米」=「アメリカに渡ること」なので、「アメリカに渡米」は重複表現となります。「アメリカに渡り」あるいは「渡米し」のみにするのが適切です。

問題文[B]

今の住まいの間取りは1Kだ。こじんまりしているが、それなりに気に入っている。この部屋を選ぶ決め手になったのは、キッチンの収納スペースが広いことだ。料理が好きなので、調理器具をいろいろ持っているし、よく使う調味料はいつも常備しておきたい。そのほかのこだわりとしては、在宅勤務が多いのでオンオフの切り替えをしやすくするため、寝室と仕事部屋を分けていることだろうか。

間違い箇所

今の住まいの間取りは1Kだ。こじんまりしているが、それなりに気に入っている。この部屋を選ぶ決め手になったのは、キッチンの収納スペースが広いことだ。料理が好きなので、調理器具をいろいろ持っているし、よく使う調味料はいつも常備しておきたい。そのほかのこだわりとしては、在宅勤務が多いのでオンオフの切り替えをしやすくするため、寝室と仕事部屋を分けていることだろうか。

解説

<1つ目>
今の住まいの間取りは1Kだ。こじんまりしているが、それなりに気に入っている。この部屋を選ぶ決め手になったのは、キッチンの収納スペースが広いことだ。料理が好きなので、調理器具をいろいろ持っているし、よく使う調味料はいつも常備しておきたい。そのほかのこだわりとしては、在宅勤務が多いのでオンオフの切り替えをしやすくするため、寝室と仕事部屋を分けていることだろうか。

①部屋の数
冒頭では間取りが1K(居室1つ+キッチン)とされていますが、最後の文には「寝室と仕事部屋を分けている」とあり、居室が少なくとも2つはあると読み取れます。部屋の数の整合性が取れていない点を指摘する必要があります。

<2つ目>
こじんまりしているが、それなりに気に入っている。

②仮名遣い
現代仮名遣いの指針となる内閣告示の「現代仮名遣い」では、「こんまり」ではなく「こんまり」とされています。「こじんまり」を許容として掲載している辞書もありますが、現時点では「こぢんまり」としておくのが無難でしょう。

<3つ目>
よく使う調味料はいつも常備しておきたい。

③重複表現
「常備」=「いつも用意しておくこと」なので、「いつも常備」は重複表現です。

問題文[C]

近年、インターネット上での広告戦略はより一層重要性を増してきている。私はその最新事情を探るため、第一線で活躍している人々へのインタビューを行った。

初めにインタビューしたのは、SNSのフォロワー数300人を誇るインフルエンサーのAさんだ。Aさんは現役の大学生でもある。インタビューの日時について相談したところ、「大学の授業と重ならない時間帯以外なら大丈夫です」とのことだったので、僕は木曜日の午後にAさんを尋ねた。

間違い箇所

近年、インターネット上での広告戦略はより一層重要性を増してきている。はその最新事情を探るため、第一線で活躍している人々へのインタビューを行った。

初めにインタビューしたのは、SNSのフォロワー数300人を誇るインフルエンサーAさんだ。Aさんは現役の大学生でもある。インタビューの日時について相談したところ、「大学の授業と重ならない時間帯以外なら大丈夫です」とのことだったので、は木曜日の午後にAさんを尋ねた

解説

<1つ目>
近年、インターネット上での広告戦略はより一層重要性を増してきている。はその最新事情を探るため、第一線で活躍している人々へのインタビューを行った。

初めにインタビューしたのは、SNSのフォロワー数300人を誇るインフルエンサーのAさんだ。Aさんは現役の大学生でもある。インタビューの日時について相談したところ、「大学の授業と重ならない時間帯以外なら大丈夫です」とのことだったので、は木曜日の午後にAさんを尋ねた

①一人称の表記揺れ
書き手の一人称について、「私」「僕」が揺れています。明確な使い分けの意図が感じられない限り、統一する指摘を出すのがよいでしょう。

<2つ目>
初めにインタビューしたのは、SNSのフォロワー数300人を誇るインフルエンサーAさんだ。

②数値の妥当性
「インフルエンサー」として、SNSのフォロワー数が300人というのは少なすぎると思われます。今回のケースでは「Aさん」と仮名になっているので実際の数値をファクトチェックすることはできませんが、こうした場合でも常識的に考えておかしいと思われるときはアラートを出す必要があります。

<3つ目>
「大学の授業と重ならない時間帯以外なら大丈夫です」とのことだったので

③否定表現
「大学の授業と重ならない時間帯以外」=「大学の授業と重なる時間帯」となり、意味が逆になってしまっています。「大学の授業と重ならない時間帯」あるいは「大学の授業と重なる時間帯以外」とするのが適切です。

<4つ目>
木曜日の午後にAさんを尋ねた

④同音異義語
「訪問する」の意なので、ここは「訪ねる」のほうが適切だと考えられます。

おわりに

以上、それぞれの文章内には校正者として指摘を出すべき箇所が3つから4つ含まれていました。いくつ見つけることができたでしょうか。

いずれのポイントも、字面だけを追っているとさらりと読み流してしまいがちなものです。校正をする際は、文章の意味や全体での整合性にも気を配るようにしましょう。