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文章校正での誤字脱字はデジタルとアナログの組み合わせで防ぐ
校正をしていてよく見かける誤字脱字、そして誰もが一度や二度は経験したことがある見落とし。
「頭ではわかっていたのに、文字を書き間違えた……」
「ちゃんと書いたつもりなのに、文字が抜けていた……」
「何度も確認したはずなのに、気付けなかった……」
こういうミスは、時間を置いてから改めて見直すと
『何でこんな間違いをしたんだろう』
『どうしてこれに気付けなかったんだろう』
などと感じることも多いです。
ミスをすることは誰にでも起こります。そして、これからもずっと付きまとうものです。必ずまたいつか間違いをすることになります。
そのためミスをしてしまった場合は、
『次は注意しよう』という精神論だけでなく、具体的な対策も必要になってきます。
ここでの誤字脱字は、「衍字」も含んでいます。
衍字(えんじ)… 語句の中に間違って入った不要の文字
【例】「ありがとうございますv。」 の「 v 」など。
※文章内に「v」の字が入ってしまうのは、コピペする際にCtrlキーの押し誤りから起きます。
1. 誤字脱字の見落としの原因
たとえば、次のような文。
"こんにちは"
"こんばんは"
"ありがとう"
"おはようございます"
"ありがとうごさいます"
ごく簡単な文ですが、最後の文の「ありがとうごさいます」の「さ」の濁点が抜けています。見慣れた言葉ほど、うっかり読み流してしまいがちです。
こういう間違いが長文の中の一部にあったり、他にいくつもの間違いがある中に混在していたりすると、気づくことが難しくなってきます。
この「ありがとうごさいます」の「さ」を「ざ」と読み間違えてしまうのは、
脳が濁点を補完して「ありがとうございます」と認識させているからです。
どうして補完してしまうかは『思い込み』が多分に影響しています。文字を見たときに、脳が瞬時に普段見慣れている 「ありがとうございます」 だと思い、そう読ませています。
目に映るものを脳が処理して映像として見せているのは周知の事実です。
その際に『思い込み』がフィルターとなって、誤った認識を生み出してしまいます。
こういった例は、文字だけから引き起こされるわけではありません。
「アカ」「キイロ」「ミドリ」の丸が並んでいます。
でも、よく見ると「緑(みどり)」の文字が、「縁(えん)」になっています。
アカ・キイロ・ミドリの色から、「赤」「黄」「緑」の漢字が頭に思い浮かび、「赤」が来て「黄」が来て、次に「緑」がくると思い込んでしまいます。
そのせいで、細部の違いがぼやかされて「縁(えん)」が「緑(みどり)」の文字に見えてしまいます。
このような「思い込み」によって、実際に見ているものと違った認識を生じさせる脳の仕組みは、校正時に厄介になってきます。
2. デジタルのメリット・デメリット
人の思い込みを正すためにも、他の情報に惑わされない機械的な目が必要になってきます。そこで期待されるのがデジタルツールです。
昔は、紙の文字情報しかないものをデータ化する場合、手入力で一から文字を打ち込んでいましたが、今では紙の文字情報でもOCRソフトによって瞬時にデータ化できます。近頃ではAI技術を取り入れたOCRソフトもあるので年々精度も向上しています。
今まで手入力していたものを瞬時にデータ化してくれるのは大きなメリットです。
ただ、OCRは英数字に対しては高い読み込み精度ですが、日本語になると精度が高いとは言えません。ひらがなやカタカナ・漢字は、似た文字が多いため誤変換されるケースが多いです。
たとえば、
次のような誤変換はよくあります。
あ ⇔ お
な ⇔ た
は ⇔ ほ
ク ⇔ ワ
シ ⇔ ツ
ソ ⇔ ン
1 ⇔ l(エル)
2 ⇔ Z etc.
また、ひらがなやカタカナの濁点の抜けも起こりやすいです。
が → か
ざ → さ
だ → た etc.
漢字に至っては、中国語の「簡体字」に誤変換される場合もあります。
まったく違う文字に置き換えられるならまだ見つけやすいですが、非常に似た文字に変換されてしまうため判別がかえって難しくなります。
OCRで読み込んだものだと知らないで校正をすると、
「勉強」という文字が簡体字に置き換えられることなど想像もつかないので、「強」の一部が変わっていても気づかない可能性が高いです。
違いに気づいたとしても、単にプリンターの不具合で文字がつぶれているだけかと思い、そのまま流してしまうことも考えられます。
デジタル化により手入力の手間が省けることはメリットですが、校正では見落としが多くなるという可能性があります。デジタルツールの使用が、かえって見落としを増やすということになりかねません。
他にも、校正用のデジタルツールには意外なところに落とし穴があります。
校正で使うデジタルツールは、校正支援ソフトとして有料でも無料でもいくつかあります。その多くは、文の品詞を分解して、そこから正しいかそうでないかを判断していきます。
そのため、文章の言い回しが複雑であったり修飾語・副詞が多用されていたりすると、間違いを指摘する精度が落ちてきます。また、一文に複数の間違いが集中していると、品詞分解が困難なため間違いを見つけるのが難しくなってきます。
日本語は、主語を省略することが多く、曖昧な表現も多いです。受け身と尊敬語なども表現は同じであっても意味合いが違ってきます。
また、〈追求〉と〈追及〉、〈適性〉や〈適正〉などの意味の似ている同音異義語も文脈を理解していないと正しい意味が把握できません。
機械的な見方では、見つけられない間違いはまだまだ多いです。
3. デジタルとアナログの組み合わせが大切
現段階では、デジタルかアナログのどちらかに偏るのではなく、互いの短所を補う形で両方を組み合わせるのが効果的です。デジタルツールは、単純な間違いや人の目で見つけることが困難な間違いを見つけるのに役立ちます。
▼ 見分けがつきにくい文字に次のようなものがあります。
「 一(漢数字のいち)」
「 ー(音引き)」
「 ー(ダーシ)」
「音引き」や「ダーシ」は打ち間違えによるミスも多いです。
これらはフォントによってほぼ同じに見えるので、間違っていても人の目では気づきづらいものです。
たとえば、
「コンピュータ」の「音引き」が「漢数字のいち」になっていてもほぼ見分けがつきません。
■ 正しいもの
● 間違い(「音引き」が「漢数字のいち」になっている)
このような人の目では見つけにくい間違いでも、デジタルツールを使えば見つけることができます。
▼ 以下はWordの文章校正機能を使用した結果です。
文章のおかしいと思われる箇所に、赤の波線が表示されます(※2行目の「タ」の下)。
[補足]
この指摘は、「コンピュータ」の「音引き」が「漢数字のいち」になっているという指摘ではありません。文中でカタカナの「タ」の一文字では意味をなさないので「入力ミスでは?」という指摘です。
※「コンピュ」や「一」も意味をなさない語になりますが、通常の校正設定では指摘されません。
このような指摘は、有料の校正ソフトでは高い精度で指摘してくれます。Wordでも単語登録などカスタマイズをすれば、指摘の精度があがってきます。
4. デジタルの使いどころ
デジタルツールは最終的な手段として使用するよりも、人がする校正の前段階で使うのが効果的です。デジタルツールで事前に簡単な間違いを潰すしておくことで、他の間違いに校正者が集中することができるからです。
前述したOCRの例だと次のようになります。
● 1. OCRで読み込むんだもの → 2. 人の目で校正をする
というよりも、
■ 1. OCRで読み込むんだもの → 2. デジタル校正をかける → 3. 人の目で校正をする
というフローにするとより効果が増します。
工程が増えるので一見手間のように感じますが、工程全体を見たときにはその効果が実感できるはずです。
また英語のスペルチェックは、デジタルツールを使えば高い精度で間違いを発見してくれます。チェックする量が多ければ、紙の辞書や電子辞書で調べるよりもデジタルツールを使うほうが圧倒的に早いので効率的です。
スペルチェック程度なら有料のものでなくともWordでも十分効果が期待できます。
ただ、あくまでもスペルチェックだけなので、「date(日にち)⇔ data(データ、資料)」ような使い分けは、文脈から判断するしかないので人の目に頼るしかありません。
おわりに
校正という仕事においては、デジタルとアナログの両方が欠かせないものです。
「人の目に頼るアナログな校正が非効率」
「機械的に見るデジタル校正が効率的」
ということではありません。
互いの長所を活かし短所を補えるようにすれば、効率化も品質UPも叶えることができます。
デジタルツールと聞いて難しいと感じる方もいるかもしれませんが、すべての機能をフルに使う必要はなく、自分に必要なものだけを使えるようになれれば十分です。
校正のデジタルツールとして有名なものに「Just Right!」があります。体験版が無料で使えるので興味のある方は是非試してみてください。
このツールで何をすればいいかわからないという人は、まずは表記ゆれのチェックからテストしてみることをおすすめします。
【公式サイト】> Just Right! 体験版