校正・校閲の『朱を入れる』と『赤字を入れる』とは?意味と違いを詳しく解説

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校正・校閲の『朱を入れる』と『赤字を入れる』とは?意味と違いを詳しく解説

校正・校閲の仕事では、文章の間違いに対して訂正指示を入れる際、『朱を入れる』や『赤字を入れる』といった表現が使われます。同じ意味として使用されることが多いですが、厳密さを求めた場合、少しニュアンスが違ってきます。

この記事では、『朱を入れる』と『赤字を入れる』の意味や違いについて解説します。

[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]

『新明解国語辞典 第八版』(三省堂)
『広辞苑 第七版』(小学館)
・『精選版 日本国語大辞典』(小学館)
・『字通 普及版』(平凡社
・『校正ハンドブック 新版』(ダヴィッド社

1.「朱」と「朱を入れる」の意味

朱(しゅ)」とは、日本や中国の伝統色名で、やや黄を帯びた赤色のことをいいます。印鑑に使う「朱肉」の色を想像するとわかりやすいと思います。

  

朱色は目立つ色であるため、昔から文章の訂正や加筆に使われてきました。特に、誤りを明確に示す必要がある場面で活用され、現代においても書道などで「誤りを正す色」として広く認識されています。

を入れる」の「」はこの色のことを指しています。

 

朱を入れる」という言葉は、誤字や誤った表現を「朱色の筆(朱筆/しゅひつ)」で訂正していたことに由来します。そこから、「文章を直す」ことを「朱を入れる」と表現するようになりました。

現在の校正・校閲では、「赤字を入れる」という表現のほうが一般的ですが、そのルーツをたどると、かつて朱筆を使って訂正していたことに由来します。「赤字を入れる」という言葉は、「朱を入れる」という行為から派生した表現ということになります。

2.「赤字」と「赤字を入れる」の意味

赤字」も「朱色」と同じように、文章の誤りや修正を示す際に使われる目立つ色であり、広く知られています。

  

特に出版・印刷業界では、「赤字」という言葉は単に赤い文字を指すのではなく、誤字や脱字、表現の修正が必要な部分を示すための「記号」や「指示」のことを意味します。

原稿や印刷物の誤りを指摘する際には、赤色のペンや鉛筆を使って訂正箇所を示しますが、この行為を「赤字を入れる」と言います。

 Proofreading correction instructions

すなわち、間違っている箇所に対して赤字で訂正指示を書き込むことです。

3.「朱を入れる」と「赤字を入れる」の違い

校正・校閲業務において、「朱を入れる」と「赤字を入れる」という表現には、どちらも誤りや修正が必要な箇所に印をつけるという共通点があります。現在では、赤ペンや赤鉛筆の普及により、『朱色』が『赤色』に置き換わり、同じ意味として扱われることも多くなっています。

ただ、それぞれの表現には微妙なニュアンスの違いがあります。

赤字を入れる

 

「赤字を入れる」という言葉は、主に誤字・脱字や文法ミスなどの明確な誤りを修正する行為を指します。文章の正確性を高めることが目的であり、誤りを見つけて正しく直す作業に重点が置かれます。校正の基本原則である、原文を尊重するという姿勢が常に必要です。

朱を入れる

 

一方「朱を入れる」は、校正・校閲の範囲にとどまらず、「添削」という意味合いも含んでいます。単なる誤りの指摘だけでなく、文章をよりわかりやすくしたり内容を補足するために注釈を加えたりする際にも使われます。                                        

「朱を入れる」という行為は、古くから誤りの訂正にとどまらず、文章をより良くするための工夫を加える役割も果たしてきました。その歴史や使用範囲を考えると、「朱を入れる」という表現には、単なる誤りの指摘以上の意味が含まれていることがわかります。

前述したように、「朱を入れる」という言葉が使われるようになったのは、昔から文字の誤りの訂正や修正に「朱色」が使われてきたことが関係しています。

「朱を入れる」という言葉の歴史

朱を入れる」という言葉は、中国で古くから誤りの訂正や注釈を加える際に使われていた朱色の筆に由来します。この習慣は儒学を通じて日本に伝わり、奈良・平安時代には書物の注釈や修正に朱色が用いられました。

鎌倉・室町時代には、禅僧や学者が中国の古典を読む際に朱筆で注を加えることが行われるようになり、江戸時代にいたっては学問や出版の発展に伴い、寺子屋などで先生が生徒の文章を添削する際にも朱筆が一般的に使われるようになりました。

朱を入れる」という表現は江戸時代にはすでに使われていたと考えられますが、明治時代に活版印刷が広がると、校正作業でも誤字や脱字を直すために朱色が多用され、現在のような意味合いで定着しました。今日でも書道の指導などで朱色が用いられることが多く、この伝統は続いています。

朱を入れる」という行為には、『文字を訂正する』という意味だけでなく、『文章を直す』という意味もあり、そこには『間違いを正す』『必要な情報を加筆する』『添削する』という意味も含まれます。

おわりに

以上のように、校正・校閲における「」や「赤字」は、訂正内容を示す「記号」や「文字」そのものを指し、その行為を「朱を入れる」や「赤字を入れる」といいます。

校正・校閲業務においては、「朱を入れる=赤字を入れる」との認識で問題ありませんが、校正以外の分野では「朱を入れる」という表現は、その目的において微妙な違いがあります。「朱を入れる」には、訂正するという意味から添削するという意味まで含みます。

ちなみに、「朱を入れる」と同じような意味として、朱書き(しゅがき)朱入れ(しゅいれ)入朱(にゅうしゅ)赤入れ(あかいれ)という言葉もあります。これらもすべて使い方は同じです。