
目 次
「ニャー」と君が鳴いたから その日漢字は「猫」になった ―「猫」という字が生まれた時
ふだん何気なく使っている「猫」という漢字。
この一字には、猫が獣であることを示す部分と、鳴き声を思わせる音の部分が組み合わさっていると考えられています。
現在は「猫」と書きますが、古くは「貓」という字形も用いられていました。どちらにも共通しているのは、獣を表す部分に、音を表す「苗」が添えられていることです。
では、なぜ猫を表す漢字に「苗」が使われているのか。
その理由としてよく知られているのが、猫の鳴き声に由来するという説です。
「ニャー」「ミャオ」と鳴く声が、漢字の音に取り込まれた。
そう考えると、「猫」という一字は、猫の姿だけでなく、その声までも映し込んだ文字に見えてきます。
[記事作成にあたっては、以下の書籍・辞書・サイトを参考にしています]
『広辞苑 第七版』(岩波書店)
『明鏡国語辞典 第二版』(大修館書店)
『漢字源』(学研プラス)
『新漢語林 第二版』(大修館書店)
『角川新字源 改訂新版』(KADOKAWA)
『大漢和辞典 修訂第二版』(大修館書店)
『デジタル大辞泉』(小学館)
1.「猫」は形声文字
『漢字源』『新漢語林』『角川新字源』『大漢和辞典』など、主要な漢和辞典・字書では、「猫」は形声文字として説明されています。
形声文字とは、「意味を表す部分(意符)」と「音を表す部分(音符)」を組み合わせて作られた漢字のことです。
・意符 →「犭」… 四つ足の動物・獣であることを示す
・音符 →「苗」…「ビョウ/ミョウ」という音を示す
左側の「犭」は、「けものへん」と呼ばれる部首で、狐・狼・猿など、四つ足の獣を表す漢字にも広く用いられます。 そのため、「猫」に「犭」があることで、この字が獣の一種を表していることがわかります。
一方、右側の「苗」は音を表す部分です。「苗」には「ビョウ/ミョウ」という音があり、「猫」の音読みである「ビョウ」と対応しています。
2. 古い字形は「貓」だった
現在よく使われる字形は「猫」ですが、古くは「貓」という字形も用いられていました。
・貓 →「豸+苗」…「豸」が獣を表し、「苗」が音を表す
・猫 →「犭+苗」…「犭」が獣を表し、「苗」が音を表す
「貓」の左側にある「豸」は、しなやかな体つきの獣を表す部首です。豹や貂などにも使われています。
猫の細くしなやかな体つきを思えば、「豸」は猫を表す部首としてよく合っています。一方、現在の日本では、より一般的な獣の部首である「犭」を用いた「猫」が広く使われています。
ただし、古い「貓」でも現在の「猫」でも、基本構造は同じです。
どちらも獣を表す部分に、音を表す「苗」を組み合わせています。
3. なぜ「苗」が使われたのか?
では、なぜ猫を表す漢字の音符として「苗」が選ばれたのか。

「苗」は本来、「田に生える若い草」や「なえ」を意味する漢字で、猫そのものの姿や性質とは直接関係があるようには見えません。
ここでの「苗」は、意味ではなく音を示す役割を担っています。
「苗」の音読みは「ビョウ/ミョウ」で、現代中国語でも miáo と発音されます。 とくに「ミョウ」や miáo の響きは、猫の鳴き声を表す「ミャオ」「ニャー」を思わせます。
そのため、猫という動物を表す字を作るときに、鳴き声に近い音を持つ「苗」が音符として選ばれた、という説があります。
このように、動物の鳴き声をもとに名前や文字を作る発想を、字書では「擬声的命名」と呼ぶことがあります。
この見方に立てば、「猫」は単に「獣の一種」を表す字ではありません。
「ミャオ」「ニャー」と鳴く獣――
そのようなイメージを、一字の中に込めた漢字と見ることができます。
4. 鳴き声から漢字が生まれるという発想
猫の鳴き声は、言語によって少しずつ表し方が異なります。けれども、並べてみると、言語をこえて、猫の声はどこか似た音で聞き取られてきたことがわかります。
・日本語 → ニャー/ニャン
・中国語 → 喵(miāo/ミャオ)
・英語 → meow(ミャウ)
・フランス語 → miaou(ミャウ)
・ドイツ語 → miau(ミャウ)
もちろん、どの言語でも完全に同じ音になるわけではありません。それでも、「ミャ」「ニャ」「ミャウ」に近い響きで猫の声を捉えている点は共通しています。
「苗」の「ミョウ/ビョウ」という音も、猫の鳴き声を思わせる響きと重ねて見ることができます。
つまり、「猫」という漢字が生まれた背景には、猫の声に近い音を持つ字を選び、それを音符として用いるという、擬声的な発想があったと説明されることがあります。

5. 中国で生まれた「猫」という漢字
「猫/貓」は日本で生まれたものではなく、中国で成立した文字です。 日本に伝わったあと、この字は和語の「ねこ」を書き表すために使われるようになりました。
では、日本語の「ねこ」という呼び名はどこから来たのか。こちらも確定した定説はありませんが、代表的な説がいくつかあります。
よく知られているのは、「寝子(ねこ)」説です。猫が一日の多くを眠って過ごすことから、「よく寝る子」「寝る子」という意味で「ねこ」と呼ばれるようになったとする見方です。
もう一つは、古い形である「ねこま」が短くなって「ねこ」になったとする説です。平安時代の辞書『和名類聚抄』には、猫の和名として「禰古万(ねこま)」が記されており、文献上の根拠がある点が特徴です。ただし、「ねこま」が縮まって「ねこ」になったのか、その逆なのかは、はっきりしていません。
このように、漢字の「猫」は中国で生まれ、日本では和語の「ねこ」に当てて使われるようになりました。一方で、「ねこ」という呼び名そのものの由来には、今もいくつかの説が残されています。
おわりに
見慣れた「猫」という漢字には、猫の鳴き声そのものが刻み込まれていると考えられています。
古代中国で「猫」という字が生まれたとき、目の前で「ニャー」と鳴いたあの声が、ひとつの文字の音となって現代にまで残っている――そう考えると、いつもの「猫」の字も少し違って見えてくるのではないでしょうか。







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