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校正者として勉強してよかったこと・もっと勉強すればよかったこと
こちらの記事は、正社員として出版社等の校閲部で経験を積んだ後、フリーランスの校正者として独立された方に執筆いただいた記事です。
昔から「学校の勉強が社会に出てから役に立つかどうか」は議論が尽きません。しかし、少なくとも校正という仕事においては、学んだことはすべて役に立つ可能性があります。
私はフリーランスの校正者で、主に書籍の校正を請け負っています。これまでに、一般文芸やライトノベルから漫画、実用書、学術書まで、さまざまなジャンルのものを校正してきました。その中で、学校で学んだ内容が役に立ったこともあれば、もっと勉強しておけばよかったと悔やむこともありました。
この記事ではそうした自分の経験をもとに、勉強しておいてよかったと思ったこと、もっと勉強しておけばよかったと思ったことを紹介します。
1. 勉強しておいてよかったと思ったこと
① 英語
まず、私は決して「英語が得意」と胸を張れるようなレベルではなく、最低限の読み書きはできるものの会話は苦手という典型的な日本人です。それでも校正をする中で、英語を勉強しておいてよかったと思うことはたびたびありました。
日本語で書かれた文章の校正であっても、事実確認をしていると、示されている出典や役に立ちそうな資料が英語の文献だというケースはあります。翻訳サイトやブラウザの翻訳機能が充実してきている時代なので、ある程度は機械翻訳で乗り切れるかもしれません。しかし、現状の機械翻訳の精度は100パーセント信頼できるものではありませんし、何より逐一翻訳をかけていては手間と時間がかかりすぎます。本の目次やサイトのトップページなどをざっと眺めて、どのあたりに求める情報がありそうか当たりをつけられる程度の英語力は、校正の効率を格段にアップさせてくれます。
また、英語からの翻訳小説などを校正する場合、作業内容に原書との照合が含まれることがあります。一言一句の確認まで求められることはあまりありませんが、段落レベルで訳文に漏れがないか確認したり、日本語訳を読んで意味が分からないときに原文ではどうなっているか参照したりする必要は出てきます。そんなときも、ある程度は自分で読解できる力を身につけておいてよかったと思います。
② 世界史
私は大学受験では世界史を選択しました。当時はそれなりに勉強していたものの、受験が終わった途端に何もかも忘れてしまった……と自分では思っていましたが、一度詰め込んだ知識というものは思いがけず深く染みついているものです。校正の仕事を始めてから、歴史上の人物や事件が出てきたとき、意外なほど記憶に残っていることに驚きました。
「人名や出来事の名前を聞いたことがある」程度の知識であっても、まったく知らない状態から始めるよりは遥かにスムーズに内容が理解できます。納期に追われながら校正をしているとき、遠い記憶が時短の助けになり、受験生だった自分に感謝しています。
2. もっと勉強しておけばよかったと思ったこと
① 日本史
世界史とは逆に、日本史についてはもっと勉強しておけばよかったと思うことが多いです。大学受験で選択しなかったからというのは言い訳ですが、一般教養レベルの日本史の知識もあやふやで、密かに恥ずかしく思う場面があります。
個人的な感覚ですが、がっつり日本史について述べられている歴史小説などより、ところどころでさらりと歴史的な話題に触れている実用書のような案件のほうが、自分の知識のなさに苦しめられます。
歴史小説の場合、読者にも理解できるように人名やその相関、出来事の流れが丁寧に描かれているため、事実確認をしているうちに自然と内容が飲み込めます。しかし歴史がメインテーマではない案件だと、「皆さんご存じのあの事件ですが……」というように流されることも多いです。私は「当然存じておりますよ」という風を装いつつ、内心焦って調べ物に奔走します。そんなとき、もっと日本史を真面目に勉強しておけばよかったと悔やむのです。
② 日本語の活用
日本語を使って生計を立てている身ではありますが、日本語に精通しているかというとまったくそんな自信はありません。特に自信がないのは、動詞などの活用です。
恥ずかしながら最近知ったものとして、「捧ぐ」という語の活用があります。「○○に捧ぐ」というように文の末尾に来る場合は問題ありませんが、「○○に捧ぐ本」のように後に名詞が来る場合は適切でないそうです。「捧ぐ」は「捧げる」の文語形で、活用形は下二段活用、そのため名詞につながる連体形は「捧ぐる」になります。上記の表現は、文語のままにするなら「捧ぐる本」、口語とするなら「捧げる本」が適切な活用形です。
活用形についてしっかり勉強していれば、「捧ぐ」と「捧げる」が同じ語の活用の違いではなく口語・文語であることにすぐ気づけたかもしれません。文法の勉強をフィーリングで済ませていたことを反省しつつ、自分の中の「気をつけるべき表現」リストに書き加えたのでした。
おわりに
以上、私にとっての勉強しておいてよかったと思ったこと、もっと勉強しておけばよかったと思ったことを紹介しました。
私と同じように、学生時代にもっと勉強しておけばよかったと悔やんでいる校正者の方もいるかもしれません。しかし、校正の仕事の奥深く、かつ面白いところは、一生勉強が続くところです。仕事を通して新しい文章を読み、知らないことを調べていく中で、着実に知識が蓄積されていきます。
ゲラを読んでいて、「これ、前に別の案件で読んだやつだ!」と気づくときの爽快感は素晴らしいものです。仕事を続けるほどにそうした瞬間は多く訪れるようになるので、未来に目を向けて果敢に挑戦し続けることをおすすめします。
・動詞の活用形については以下のページを参考にしています。
https://salon.mainichi-kotoba.jp/archives/111555

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