[例文で学ぶ]校正時の表現の統一性とその重要性

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[例文で学ぶ]校正時の表現の統一性とその重要性

校正をする際、「とき/時」「十分/充分」のような「表記」のばらつきには注意を払っている人が多いと思います。では、「表現」についてはどうでしょうか。「表現の統一性」と言われても、具体的にどのようなことを指すのかぴんと来ないかもしれません。この記事ではそうした表現の統一性について、例をあげながら解説します。

表現の統一性に関して注意すべきポイントには、次のようなものがあります。

 1. 文体がそろっているか
 2. 想定読者層がぶれていないか
 3. 話し手の口調が乱れていないか(特に小説などにおいて)

こうした点で統一が取れていないと、読者に違和感を持たれたり、内容の理解が難しくなったりする恐れがあります。

なお、どの程度の範囲で統一を図るべきかは、場合によって異なります。ひとりの著者による作品であればゲラ全体でそろえたほうがよいですし、複数の著者が章ごとに分担して執筆しているような場合は、各章の中でそろっていればよしとすることもあります。特に著者が複数いる案件で大きなばらつきが見られるときは、クライアントに方針を確認しましょう。

それでは、上であげた注意すべきポイントについて、具体例に沿って見ていきます。

1. 文体がそろっているか

次の文章を読んで、表現の統一性の観点から指摘を出すべき部分はどこか考えてみてください。

<例文>

校正では誤字脱字をはじめ、さまざまなポイントを確認する必要があります。やみくもに読むだけでは非効率で、見落としも多くなってしまいます。確認すべき内容を以下のようにリストアップし、ひとつずつ確実にチェックしていきましょう。

・誤字脱字がないか
・慣用句やことわざなどが正しく使えているでしょうか
・表記が統一されているか
・ゲラ内での整合性が取れているか
・見出しと本文が対応しているか

修正点>

「正しく使えているでしょうか」→「正しく使えている」とする

<解説>

文体が不統一になっている例です。箇条書きの5項目のうち2つ目だけが「です、ます調」になっているので、他とそろえる指摘を出します。

基本的な文章作法ですが、「である調」「です、ます調」の混在には注意が必要です。ただし、混在していれば必ず誤りというわけではなく、使い分けられているケースもあります。

上の例文では、本文は「です、ます調」・箇条書き部分は「である調」となっています。まず全体の傾向をつかみ、そこから外れている箇所があれば指摘を出すようにしましょう。

2. 想定読者層がぶれていないか

次の文章は、校正初心者に向けて校正のやり方を説明するものです。表現の統一性の観点から指摘を出すべき部分はどこでしょうか。『初心者に向けて』というところがポイントです。

<例文>

校正をする際は文字情報だけでなく、体裁のチェックも必要です。体裁に関しては、章扉、柱、ノンブルなどを確認します。

章扉は各章の最初、本文が始まる前に入っているページです。柱とは本文の欄外にある見出しで、書名や章のタイトルなどが入る場合が多い部分です。ノンブルとはページ番号のことです。全体で数字が通っているかどうかはもちろん、空白のページのノンブルの有無などにも注意しましょう。

図が入っている場合は、キャプションも確認します。キャプションのチェックポイントとしては、「図に対して適切な文言が入っているか」「図が複数ある場合は、字の大きさやフォントが全体でそろっているか」などがあります。

修正点>

「キャプション」にも説明を入れる提案をする

<解説>

例文の説明として「校正初心者に向けて」とあることに加え、文中では「章扉」「柱」「ノンブル」についてそれぞれ説明が入っているので、読者として想定されているのは印刷・出版用語にあまり詳しくない人だと考えられます。「キャプション」もやや専門的な表現なので、説明を入れたほうが親切です。

特に自分が詳しく知っている分野の内容だと、詳しい説明がなくても理解できてしまうため、読者に対して不親切な表現があっても気づきにくいです。どのような読者が想定されているのかを念頭に置き、その読者にはゲラ上の表現がどう捉えられるのかイメージしながら読むようにしましょう。

3. 話し手の口調が乱れていないか(特に小説などにおいて)

次の文章は小説の一部です。表現の統一性の観点から指摘を出すべき部分はどこか、考えてみてください。

<例文>

 突き返された企画書を手に、うなだれて自席に戻ると、隣の席の先輩が苦笑いで迎えてくれた。
「お疲れさまー。また駄目だったの?」
「また駄目でした……」
 フィードバックの付箋まみれの企画書を覗き込んで、先輩は「ひえー」って声を漏らした。
「どの指摘も確かにその通りではあるんですけど……それにしても厳しい……」
「あの人、言い方がきついとこあるからねー。悪い人ではないのだが」
 なんか手伝えることあったら言ってね、という先輩の優しさに感謝しながら、指摘された箇所を修正すべくパソコンに向かった。

修正点>

「先輩」のセリフの「悪い人ではないのだが」→「悪い人じゃないんだけど」などとする
「ひえー」って声を漏らした→「ひえー」声を漏らした などとする

<解説>

この例文中には、表現の統一性に関して指摘を出すべき部分が2か所あります。

「先輩」のセリフは全体的に砕けた口調ですが、1か所だけ「ではないのだが」と固い口調になっています。複数の人物が出てくる場面では、読者は口調によってどの人物のセリフか判断します。口調がばらついていることによって違う人物のセリフだと読み間違えられてしまう恐れもあるので、全体の統一性に注意が必要です。

口調のばらつきに注意が必要なのは、かぎかっこで囲まれたいわゆる「セリフ」のみではありません。特に一人称視点の小説では、地の文は主人公が語っている部分であり、広い意味でのセリフと捉えられます。

かぎかっこで囲まれたセリフと同様、表現がばらついていないか確認しましょう。上の例文では、地の文は比較的固い文体になっており、「~って」という口語的な表現はややそぐわないと考えられます。

おわりに

以上、校正時に注意が必要な表現の統一性について、具体的な文例を示しながら解説しました。

表現の統一を図る目的は、読者が違和感なく読み、内容をスムーズに理解できるようにすることです。校正する際は主観的に読むだけでなく、読者の目も意識し、どのように受け取られるかに注意を払いましょう。