「代理」と「代行」の意味と違い

「代理」と「代行」の意味と違い

「代理」と「代行」には、「他の人に代わって何かをする」という意味がありますが、どちらの漢字を使ってもいいというわけではありません。適切な使用場面があります。

「家事代行」や「運転代行」では「代行」が使用されます。
これらは、「家事代理」や「運転代理」とはしません。

「私の代理でこれをやってください。」
「私の代行でこれをやってください。」
この2つの文にはどういう違いがあるのか？

「代理」と「代行」の適切な使用方法を理解すれば、両者の使い分けやニュアンスも理解できます。

1.「代理」と「代行」の意味

「代理」と「代行」の辞書での語釈は以下のようになります。

どちらの言葉にも「その人に代わって何かをする」という意味が含まれます。一見すると違いがないように思えますが、2つを区別するポイントは、意思決定の有無が影響してきます。

■「代理」の意味

「代理」は、法律に基づいて権限を付与された代理人が、依頼人に代わって意思決定を行う行為とされます。依頼人に代わって意思表示や法律行為を行うことをいい、法律上、代理人は依頼人のために意思表示をし行動することで、代理行為の結果が依頼人に反映される形となります。

・代理 

→「代理」では、 Aの意思決定はBに付与されます。
　端的に言えば、A = B となります。そのため、Bの意思決定は、Aの意思決定となります。

■「代行」の意味

「代行」は、依頼人に代わって物事を遂行することですが、法律行為に限定されず、幅広い行為を対象としています。代行人は、依頼人の意思や指示に基づいて行動するものとされ、単に業務や作業を引き受けるものであり意思決定は伴いません。

・代行

→「代行」では、 意思決定はAにあり、Bはそれに基づいて行動します。
　端的に言えば、A ＞ B となります。そのため、Aの意思に基づいてBは行動することになります。

この「代理」と「代行」の違いを意識することで、どちらの表現が適切なのかを判断することができます。

2.「代理」と「代行」を使った言葉

①「運転代行」や「家事代行」サービス

これらのサービス業は、依頼人の指示や意思に従うことが前提となり、独自の判断で行動することはしません。すなわち、意思決定権を持ちません。

たとえば、運転代行業者が依頼人に代わって車を運転する場合、代行業者は具体的な指示を受けて行動します。依頼人の意思を重視して行動するため、代行業者は運転という作業を行うだけで、その行き先やルートを決定するのは依頼人です。代行業者の意思で仕事の範囲を変えることはありません。

このような場合には「代行」が適切といえます。

②「○○代理」や「○○代行」の肩書き

企業によっては、「○○代理」や「○○代行」という肩書きを見かけることがあります。

たとえば、「部長代理」であれば、部長が不在の際などにその役割を代わりに果たし、業務の実行や意思決定までも引き継ぎます。部長と同様の権限を一時的に持つことになります。

一方、「部長代行」であれば、部長の意思を代わりに伝える役割を担い、部長の意向に基づいて行動します。代理のような独自の判断で、業務を遂行することはありません。

（※ここでの区別は、あくまで言葉上の定義であり企業によって解釈は異なります）

③「退職代行」と「退職代理」

近年話題のサービスである「退職代行」も条件が整えば、「退職代理」とすることができます。

前述の繰り返しになりますが、「代理」は、依頼人のために意思決定を行う権限を持ち、法律行為などの重要な手続きを直接行うことができます。代理人が自身の判断で法律行為を行う権限を持ちます。一方、「代行」は、法律行為以外の事務や作業を含む概念であり、法的効果を発生させることを目的としていません。

ここから「退職代行」と「退職代理」が区別できます。

「退職代行」とした場合には、退職希望者に代わって、代行業者が会社への意思伝達を行う業務になります。代行業者は、依頼人の意思や方針に基づき、それを具体的な行動に移す役割を果たします。言い換えれば、そこまでしかサービスの範囲となりません。

ただし、弁護士が依頼人の代理となり、意思や権限を引き継ぎ、法律行為などを正式に代わりに行うのであれば「退職代理」と呼ぶこともできます。

このように法的な効果を伴う行為なのか、単なる事務や作業の肩代わりなのかによって「代理」と「代行」を使い分けられます。

おわりに

「代理」と「代行」は、いずれも「他の人に代わって何かを行う」ことを指しますが、状況によって適切な使用方法があります。

一般的な解釈として、使い分けで迷った場合には、
・意思決定権があるか？
・法律行為が関係しているか？

この二つを基準に考えてみればわかりやすいです。