校正・校閲のやり方[共通する確認ポイント(基礎編)]
校正・校閲のやり方は一つではなく、個人や企業、媒体によって違ってくるものです。絶対的に正しいといえるやり方は存在しませんが、ある程度似てくるポイントがあります。
共通となるポイントを押さえておくことで、色々な校正物に対応する基礎を身に付けていくことができます。
1.誤字脱字等の単純誤植
2.表記
3.表現
4.数字関係
5.体裁
実際の校正の現場では、この他にもいくつものポイントが存在しますが、1~5の項目はどの現場においても程度の差はあれ共通する基本となるものです。
以降、これらのポイントを具体的に説明していきたいと思います。
1. 誤字脱字などの単純誤植
校正と聞いてまずイメージするのは、誤字脱字のチェックかもしれせまん。校正作業の基本ともいえる部分ですが、実はミスを完璧になくすのは難しいところです。
たとえば、この見出しの1文目の文末が「しれません」ではなく「しれせまん」になっていたことに気づいたでしょうか。
人間の認知機能の性質として、単語の最初と最後の文字が正しければ、間の文字が入れ替わっていても読めてしまうのです。ちなみにこれには「タイポグリセミア現象」という名前がついています。
そのほか「校正」と「構成」のような同音異義語も、同じ音として読めてしまうために見逃すことがあります。
校正者がこうした見落としを防ぐために行っているのが、単語や文節といった単位ではなく文字単位での確認です。
前述の「しれせまん」を例に取って考えてみます。これをひとまとまりの単語として見てしまうと、脳が勝手に補正するため「しれません」と正しく読んでしまう恐れがあります。
しかし、「し」「れ」「せ」「ま」「ん」と1文字ずつ区切って読んでいくと、文字が入れ替わっていることに気づけます。同様に、「校正」と「構成」も「こうせい」とまとめて読むのではなく、「校」「正」、「構」「成」と分解して読めば違う語であることが明らかです。
校正者は1文字ずつ確実に読むために、鉛筆やペンの先で文字をひとつひとつ押さえながら読み進める、マーカーで1文字ずつ塗りつぶすといったやり方をしています。
2. 表記
表記を統一することは、文章全体の統一感という点で重要です。統一すべき要素は、漢字の閉じ開き、数字表記(漢数字・算用数字・ローマ数字など)、正式名称と略語を併記する場合の順序や体裁など多岐にわたります。
ただし、表記が混在していても機械的に統一すればいいとは限りません。たとえば小説で登場人物ごとに「私」「わたし」「ワタシ」と一人称を変えているなど、意図的に表記が使い分けられているケースもあるためです。
校正者としては、表記がばらついているときはまず使い分けの意図がないか考え、傾向が読み取れなければ表記ゆれの可能性があるとみて指摘を出します。
近年ではWordの校閲機能をはじめとして、表記ゆれをチェックできるツールも出てきていますが、前述の通り機械的に統一できるわけではないので、ツールのみで表記統一を終わらせることは現状では難しいです。
といっても、人間の見落としをツールがカバーしてくれる場合もあり、使い方次第で校正の精度を向上させることができます。現時点では、表記のばらつきを洗い出すためにツールを利用し、それを表記ゆれと見なして指摘を出すかどうかの判断は校正者自身の目で行うというように、それぞれの強みを活かす使い方をしています。
なお、表記統一をどの程度厳密に行うかは、案件によって幅があります。クライアントや媒体によって「キーワードは全体で統一し、一般語は見開き内程度の近接した範囲でそろえる」「提供された表記リストにある語はその表記に合わせ、それ以外の語はゲラ内の多出にそろえる」「各章ごとにそれぞれの多出にそろえる」など、方針はさまざまです。校正する際は案件ごとに方針を確認し、それに沿って表記統一するようにします。
3. 表現
校正者は、多くの文章に触れることで培ってきた言語感覚を頼りに校正していますが、同時にその感覚に囚われすぎないようにも心がけています。自分の感覚では違和感がある言い回しでも、辞書を引いたりウェブで検索したりしてみると適切な表現だとわかることがあるためです。
「自分は変だと感じるのでこの表現はおかしい」と短絡的に指摘を出すのではなく、一度立ち止まって、自分の感覚のほうが世間一般からずれているのではないかと疑うことも大事です。
また、かつては正しかった感覚が時代にそぐわなくなるケースもあります。よく言われることですが、言葉は時代とともに移り変わっていくものです。慣用表現の誤用の例としてたびたび取り上げられる「敷居が高い」があります。
2010年に発行された『明鏡国語辞典』(大修館書店)の第二版では、「敷居が高い」について「程度や難度が高い意で使うのは誤り」とされていました。しかし、2021年発行の第三版では「程度や難度が高い」を新しい意味として追加しており、この意味での用法が受け入れられつつあることが窺えます。
このように、許容される表現の幅は時間とともに変わっていくことが少なくありません。また、新語や流行語も次々に生まれ、一部は日本語表現として定着していきます。校正者としては、辞書は最新の版を参照するようにしたり、幅広いジャンルのニュースに触れたりして、意識のアップデートに努めています。
そのほか表現に関しては、想定されている読者層に適しているかどうかも意識しています。たとえば、児童書や絵本に難解な語が使われていたら、平易な言葉への言い換えや説明の補足を提案します。
4. 数字関係
年月日や大きさ・重さなどの数字は、校正者が特に気をつけて見ている部分です。
たとえば、価格の記載ミスは大きな損害につながることがありますし、医薬品の投与量の桁が1つ間違っていたら人命にかかわる可能性もあります。クレームや事故を防ぐため、数字については細心の注意を払ってチェックしています。
実際の校正・校閲のやり方は以下のようになります。ファクトチェック(事実確認)の必要がある場合は、元データと合っているか確認します。依頼者から元データを提供されていればそれと照合し、提供されている資料がないときは、国や企業のホームページなど公的な情報に当たります。
ファクトチェックの必要がない場合は、ゲラの中での整合性に注意してチェックします。具体的なチェックポイントは、「○日後」「○年間」「○倍になった」などの表現がゲラ内の記述と合っているか、割合の合計が100パーセントになっているかといった点です。また、西暦と和暦が併記されている場合は、対応が正しいかどうかにも注意します。
5. 体裁
文字情報だけでなく、体裁的な部分の確認も校正の作業範囲です。チェック項目は媒体によってさまざまですが、たとえば書籍であれば、見出し類・図版・柱などがあります。
見出し類については、文字の大きさやフォント、前後の空きの広さなどがゲラ全体でそろっているかを確認します。大見出し・中見出し・小見出しなど複数の種類がある場合は、体裁がそれぞれそろっているかどうかに加えて、大見出しであるべき箇所が中見出しの体裁になっていないかといった点もあわせてチェックしています。
図版に関しては、図版そのものだけでなく、タイトルやキャプションにも目を配ります。タイトルやキャプションについて見ているポイントは、文字の大きさ・フォント・図版との間の空きの広さが統一されているかといった部分です。
柱については、書名や章タイトルと文言が合っているかどうかはもちろん、全体を通して同じ位置に入っているか、文字の大きさやフォントがそろっているかも確認します。また、空白のページや図版のみのページの柱の有無がばらついていないかにも注意しています。
おわりに
校正・校閲のやり方は、一つではなく正解もありませんが、やり方の基礎となる共通ポイントはあります。
まずは基礎を固めて、そこから色々なやり方を吸収することで、様々な案件への対応力を身に付けていくことができます。