校正・校閲のやり方[整合性のチェック・ファクトチェック編]

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校正・校閲のやり方[整合性のチェック・ファクトチェック編]

校正・校閲と一口に言っても、その作業は多岐にわたります。今回はその中から「整合性のチェック」と「ファクトチェック」について、日々校正の実務に携わる校正者の視点から解説していきたいと思います。

1. 整合性のチェック

校正・校閲の作業としては、誤字脱字のチェックや適切な表現、漢字の使い分けなどが注目されがちですが、整合性も重要な確認ポイントの一つです。一冊の本、あるいは一つの記事の中で矛盾が生じていないかを確認していく作業になります。

整合性のチェックをするにあたっては、常に全体を俯瞰する視点を持っておかないといけません。誤字脱字や漢字の使い分けわけなどを見つける視点(部分的な視点)では気づきづらいものです。

ベテランの校正者でも目の前の文章に集中しすぎるあまり、うっかり見落とす可能性のあるものです。

特に初心者の方は視点が一部に集中しやすいので注意が必要です。また整合性のチェックは、デジタル校正ツールでも発見しづらい箇所でもあります。人の目が頼りになる部分であり、校正者の能力が問われる領域でもあります。

具体的に整合性のミスが生じやすい部分、つまり注意して見るべき箇所は次のような点になります。

1. 数値関係

・同じ出来事なのに、ゲラ内で年月日が異なっている
・「○日前」「○年後」といった表現について計算が合わない
・グラフや表などの割合が合計100パーセントにならないなど、個別の数値と総数が合わない
・初めに「3つの例をあげる」と述べているのに4つあげられているなど、数が食い違っている

2. 論理展開

・初めは「Aがよい」としていたのに途中からは「Bがよい」と述べているなど、主張に矛盾が生じている
・同じ内容が重複して述べられている
・用語などの説明が初出でない箇所に入っている

→ このような間違いは、削除や訂正などの指示によって起こることがあります。そのため赤字が入った箇所だけを確認するのではなく、その箇所と連動するところがないか常に意識しながら校正をしていくのがポイントになってきます。

3. 体裁

・章タイトルや見出し、小見出しが本文の内容と異なっている
・図表とキャプションが食い違っている
・図表や注釈の番号がずれている

→ 誌面内で連動している箇所は、どちらか一方を目にした時点で、もう一方も確認する癖を付けておきます。慣れると自然と目が行くようになってきます。

整合性チェックの精度を上げるには、アナログですがメモや付箋を利用するのがもっとも効果的です。

たとえば年号が多く出てくるゲラであれば、簡単な年表を作りながら読む。「○日前」「1つ、2つ」といった表現が出てきたら、ゲラ上に鉛筆で印を付けたり付箋を付けたりしておく。

そうすることで、漫然と校正するよりも整合性の誤りに気づきやすくなります。あとから見直すときにも楽です。このようなやり方は、校正の経験年数やスキルの有る無しはそれほど関係なく誰にでもできることです。

また意識して俯瞰的に文章を読むことも大切です。

校正をする際は、誤字脱字や文法的な誤りに集中するため、文字単位・1文単位といった狭い視点になりがちです。整合性の誤りは広範囲にまたがっています。部分的な視点で読んでいると気づきづらくなります。

「俯瞰」と「部分」を、章タイトルでたとえるなら、タイトル自体に誤字脱字がないか一字一句チェックするのが部分な視点、本文に一通り目を通したうえでその内容にふさわしいタイトルになっているか確認するのが俯瞰的な視点になります。

一歩引いて俯瞰する意識を持っていれば、矛盾点にも気づきやすくなります。整合性のチェックは、スキルよりも視点が大切になってきます。校正に取り組む考え方を少し変えるだけで自然と身についていくものです。

2. ファクトチェック(事実確認)

現在では、ファクトチェックをインターネットでするという方も多いと思います。ただネットの情報は、ファクトチェックのためには不適当なものもあります。それを踏まえ、ここではインターネットでのファクトチェックについて紹介していきます。

ファクトチェックに使用できるサイトは公式なものであることが原則です。具体的には、国や都道府県、企業の公式ホームページなどがあげられます。

ウェブ上で公開されている事典類もファクトチェックに使用できます。無料で利用できるものとしては「コトバンク」が有名です。百科事典や国語辞典のほか、専門用語や現代用語の用語集も収録されています。複数の事典類を横断して検索することができ、紙の事典よりも使い勝手がいいかもしれません。

校正のオンライン辞書サイト
コトバンク > https://kotobank.jp/

そのほか、有料ではありますが、「ジャパンナレッジ(JapanKnowledge)」にはコトバンクに入っていない辞書・事典、文学全集なども収録されています。コトバンクでは本文の一部しか見られない事典でも、ジャパンナレッジであれば全文見られる場合があります。ファクトチェックをする機会が多い方なら登録を検討してみる価値のあるサイトです。

 
ジャパンナレッジ > https://japanknowledge.com/

一方、各専門家が個人で解説しているブログも多く存在します。実体験に基づいた有意義な情報が多く記載されているので、公的なサイトよりも為になる情報に触れられるという利点があります。

ただ個人サイトは、情報の肉付け(補足)として参考にできる部分は大いにありますが、ファクトチェックには適さないことがあります。専門家が述べた意見でも主観的な見方をしている情報もあるため、信頼度は公的なサイトよりも劣る場合があります。

どうしても非公式な情報しか確認できなかった際は参考資料として提示することもあります。その場合はサイト名やURLを添えて、「非公式なホームページでのみ確認できました」「インターネット検索では異なるデータが見つかりましたがよろしいですか?」などといった申し送りをしておくのが賢明な対処方法です。

情報の網羅性や専門性においては、Wikipedia(ウィキペディア)も有名です。ただ、Wikipediaは誰でも編集できるためファクトチェックの資料としてはやや不適切といえます。

情報が不確かなものに対しては次のようなアラートが表示されることもあります。

ですが、Wikipediaもうまく活用すれば調べる際の手がかりとして有用です。「出典」「関連文献」「出典文献」といった項目が役に立ちます。

ページ内の出典や参考資料には、書籍や公式なホームページなどが記載されていることもあります。それらを辿っていくことで信頼度の高い資料を見つけることが可能です。Wikipediaの情報そのものを資料とするのではなく、あくまで信頼できる資料にたどり着くための取っ掛かりとして利用するのがポイントです。

以上のような原則を理解していても、実際にファクトチェックをしていると判断に迷う場面が出てきます。

その一例として、書誌情報(書籍や雑誌を特定するための情報)があげられます。校正をしていると、引用元や参考文献などとして本の情報(著者名・書名・出版社・出版年など)が出てくることがあります。

書誌情報は出版社のホームページはもちろん、Amazon、書店や図書館のホームページなど、さまざまなところに掲載されていますが、情報の信頼度としては概ね以下の順となります。

1. 実物の本の奥付
2. 画像としての書影(書籍の姿・外観。また、その画像)
3. 出版社ホームページでの表記
4. 国会図書館ホームページでの表記

一般の校正者にとっては、本の実物で逐一確認できることは多くないはずです。現実的には、書影から確認することが多くなると思います。

比較的新しい本であれば、出版社のホームページに書影が載っているので、出版社のホームページを参照すれば事足りるケースがあります。一方、古い本の場合は、出版社のホームページに載っていなかったり出版元が倒産していたりして確認できないことがしばしばあります。

その場合はGoogleの画像検索を利用して書影を見つけることもできます。書影だけでは確認できない出版年などは、国会図書館のホームページから調べることが可能な場合もあります。


国立国会図書館 > https://www.ndl.go.jp/

POINT

書誌情報をどこまで表記するかや表記の順番・体裁等については、企業や媒体のルールが優先されます。ルールが定められているならそれに従う必要があります。特にルールがないようなら、ゲラ内での傾向が読み取れればそれに合わせます。大きくバラついているようならその旨を申し送るのが適切な判断です。

おわりに

以上、「整合性のチェック」と「ファクトチェック」を紹介しましたが、実務でのコツとしては、これらの作業を同時にやろうとしないことです。

人の行うマルチタスクは、ときに非効率であることが証明されています。校正では、それが品質に大きく影響してきます。

校正・校閲の作業は多岐にわたるので、全部を一度にやろうとするとどれかが疎かになってきます。すべて同時にみるよりも、「ファクトチェック」「誤字脱字のチェック」「整合性のチェック」というように段階に分け、ひとつひとつに集中してこなしていくほうが精度が高まります。

特に見出し類や図表については、ゲラ全体での統一をチェックする意味でも、その部分だけをまとめて確認する工程を設けると効果的です。

たとえば次のような流れになります。

1回目は、主にファクトチェックをしつつ、気になった部分に鉛筆で印をつけたりメモをしたりする。
2回目は、誤字脱字や文法的な箇所を中心に、部分的な視点で読む。
3回目は、俯瞰して整合性を確認する。

手順ややり方に正解はありませんが、作業項目を分けて視点を変えて見るという方法は、意識せずともどの校正者も実践していることです。ひとつのゲラを視点を変えて何度も読むようにすることで、情報の精度を高めていくことができます。