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素読みをするときの基本ポイント[文章校正の基礎]
素読みとは、原稿を参照せずにゲラのみを読んで校正することです。誤字脱字のチェックはもちろん、内容の整合性や体裁など、気を配るべきポイントがたくさんあります。
この記事では、素読みにおける主なチェック項目を「文章面でのチェックポイント」と「体裁面でのチェックポイント」の2つにわけてみていきたいと思います。
素読みと聞けば、文章のチェックのみをイメージする方も強いですが、体裁面でのチェックも文章を読む上では大切な要素になってきます。
Point1. 文章面でのチェック
1. 誤字脱字
誤字脱字は校正の基本中の基本とも言えるチェックポイントですが、単純に経験を積めばすべて拾えるようになるわけではなく、ベテラン校正者でも見落とすことがあります。しかし、チェックの制度を上げるコツはあります。
原稿が手書きだった時代は「人/入」のように似た形の字と書き間違えることがあり、そうした観点での確認が重要でした。近年では原稿のほとんどがデジタル入力されているため、こうした間違いは起きにくくなっています。わざわざ1文字ずつ入力しなければ、「にんげん」が「入間」となることはありません。その代わりに間違いの頻度が上がっているのが同音異義語の変換ミスです。
同音異義語は音が同じである分、さらっと読み流してしまいがちです。たとえば前の段落の末尾に「チェックの制度」とありますが、「精度」のほうが適切だと気がついたでしょうか。こうした同音異義語の誤りを拾うためには、「せいど」と単語単位で読むのではなく、「制」「度」と文字単位に分解して読むことが有効です。
また、同音異義語には「保証/保障」のように使い分けに迷いやすいものもあります。迷った場合はまず辞書を引きましょう。『明鏡国語辞典』(大修館書店)には表記の使い分けについて詳しい解説が載っています。『記者ハンドブック』(共同通信社)にも同音異義語の用例が豊富にあげられており、校正の指針になります。
漢字だけでなく、ひらがなやカタカナが連続している箇所は誤字脱字が生じやすいうえに、読んだときに頭の中で補完してしまうため間違いに気づきにくいです。「するととともに」といった衍字(誤って入った不要な文字)も頻出します。ひらがなやカタカナが続いている部分は、1文字1文字鉛筆の先や指先でなぞるなどして特に丁寧に読みましょう。
難解な漢字に対しては誰でも目が行きますが、ひらがなやカタカナについては意識がやや薄れてしまいます。漢字も大切ですが、簡単だと思われる「ひらがな」や「カタカナ」部分にも大きなミスが潜んでいることも意識しておきましょう。
2. 文の構造
文の構造のチェックも校正の必須作業です。具体的なチェックポイントとしては、
・主語と述語の対応
・表現の近接
・1文の長さ
・読点(テン)の数
などがあげられます。
表現の近接とは、たとえば1文の中に「~だが、~であるが」と逆接表現が複数回使われていたり、2文続けて「また、~」と始まっていたりといったものです。強調などの意味で意図的に繰り返されているケースもあるので、機械的に指摘すればいいわけではありませんが、同じ表現が続けて出てきたときには引っかかりを感じることができるよう、ひとつひとつの表現に注意を払いながら読んでいきます。
何おかしいなと感じたら、鉛筆で薄く丸をしておくか付箋を貼るかして対処しておきましょう。決して頭の中で覚えておくようなことは避けましょう。そのときは覚えていても、他の問題が出てきたら忘れてしまう可能性が大きいです。
1文の長さについては、あまりに長いと読みづらいため、途中でいったん文を切るといった指摘を出すことがあります。適切な文の長さは文体や内容によっても変わってくるので、単純な文字数で判断するのではなく、一読してスムーズに理解できるかどうかを基準にするのがよいです。
読点の数については、著者の個性が表れやすい部分なので、一概に指摘するのは難しいところです。ただ、読者の視点から見てあまりにも読みにくい場合や、ゲラの傾向と照らし合わせて違和感がある場合にはやはり指摘が必要です。
たとえば、数行に渡る文の中に読点がまったくない、全体として読点が少なめな文体なのに一部分だけ妙に読点が多く使われているといったケースがそれにあたります。
3. 慣用表現
慣用表現の誤用も、校正の指摘として頻出するものです。
たとえば次のような例です。
1.「膝を割って話す」(「腹を割る」と「膝を突き合わせる」の混同)のように複数の慣用表現が混同されたケース
2.「滂沱の汗」(「滂沱」は涙に対して使われる表現)のように組み合わせが誤っているケース
他にもさまざまなパターンがあります。慣用表現と思われるものが出てきたら、まず辞書を引いて確認します。頭の中に知識を蓄えるというよりも、違和感を持ったときにはこまめに辞書に頼るのが得策です。
なお、辞書は複数冊、できれば最新の版を引くことをおすすめします。言葉の用法は時代とともに変わっていくものであり、自分にとって違和感のある表現でも、最近は世の中に受け入れられている場合があるためです。文化庁が毎年行っている「国語に対する世論調査」では、慣用表現の意味についての意識が調査されています。こうしたデータを、時間の空いたときにでもこまめにチェックすることで、移り変わっていく言葉への感度を高めていくことができます。
【参考】
> 文化庁「国語に対する世論調査」
> 第1452回放送用語委員会「語形・用法について 〔意見交換〕」(2021年7月2日)
企業勤めの方は辞書を経費で購入できますが、フリーランスの方は自腹になるので最新の辞書の購入も負担になると思います。そのようなときは以下のサイトを参考にしてみてください。
4. 表記統一(表記揺れ)
表記統一については、会社や媒体によってルールが定められている場合があるので、まずはルールの有無についてクライアントに確認しましょう。ルールがあればそれに従い、特にないようならゲラ全体の傾向にあわせる指摘を出します。表記ルール自体も古くなっている可能性もあるので、最新のものであるか常に確認するようにしましょう。
表記のばらつきが生じやすいものとしては、漢字の閉じ開き、数字表記(漢数字/算用数字)、西暦と和暦を併記する場合の体裁、参考文献等の書誌情報の体裁などがあります。こうしたものが出てきたら、メモを取るかゲラ上に印をつけておくと表記統一の効率が上がります。
ポイントとしては、表記がバラつきやすいようなものには、見当を付けてあらかじめ鉛筆でチェックを付けておくことです。バラツキを見つけてからページを遡って確認していては効率が悪いからです。
また表記ルールがない物件で、表記のバラつきが多く出るようであれば、その時点でクライアントに判断を仰ぎどうすべきか解決しておくのも得策です。
5. 整合性
ゲラ内で整合性が取れているかのチェックも校正の重要な作業です。具体的なチェックポイントとしては、数字関係、論理展開、時系列、図表や見出しと本文との対応などがあります。
1. 数字関係
数字関係では、「○日後」「○年間」といった表現と本文中の記述が合致しているか、「~つの例をあげる」などの表現とゲラ内での数が合っているか、割合の数値の合計が100パーセントになるかどうかといった部分に注意します。数字に関する表現が出てきたら鉛筆で印を付けておくなどすると、後で見直すときに役立ちます。計算が必要な際は、暗算でなく必ず電卓でしましょう。
2. 論理展開
論理展開については、前と後で主張が変わってしまっていないか、同じ内容が重複していないかなどに注意します。こうした部分の矛盾を見逃さないためには、誤字脱字や日本語的な表現のみに注目するのではなく、内容を理解しながら読み進めることが必要です。全体を俯瞰する目が必要になってきます。
3. 時系列
特に小説などのフィクションでは、時系列の確認が非常に重要です。時系列の設定が誤っていることで、推理小説のトリックが成立しないようなこともあり得るためです。
「○月○日に○○へ行った」「○時には留守だった」「○年にはすでに卒業していた」などといった記述が出てきたら、メモを取ったり表にまとめたりします。作中で矛盾が生じている場合は注意喚起が必要です。
ノンフィクションについても、書き間違いや記憶違いによって時系列の乱れが生じていることがあります。「著者が事実に基づいて書いているのだから間違いはない」とは考えず、フィクションの場合と同様に注意を払いましょう。
4. 図表や見出しと本文との対応
図表や見出しと本文の整合が取れているかどうかも、見逃しやすいポイントです。
確認すべき点としては、
・図表中の数値と本文中の数値が一致しているか
・図表と本文で表記がばらついていないか
・見出しが本文に対して適切な文言になっているか
などがあります。本文に集中しているとつい見落としがちですが、忘れずにチェックしましょう。
6. ルビ(ふりがな)
ルビはふりがなとも呼ばれますが、その知識をあまり必要としない方も多いかもしれません。ルビの知識は非常に複雑で、例外が適用される場面も多いでます。そのため、すべてのルビのルールを知るというよりも、携わる媒体で必要なルールを学習していくのがルビの効果的な勉強方法です。
【参考】> 熟語ルビの配置処理
▼ ルビをふる元の文字は親文字と呼ばれます。
ルビは文字の級数小さいため「小さいやゆよ」などは、他の大きさの文字と合わせることも多いです。
他のルビの入れ方として、漢字の後に丸かっこでルビを付ける方式もあります。
たとえば
「乙骨(おっこつ)」
というようにします。これは、文章を縦書きから横書きに変更する、書籍からWebなどに展開する場合に、ルビの体裁が崩れないようにするためによく使用されます。
▼ ルビの例(ごく一例ですが)
A 肩付き(文字に対して上揃えでルビを付ける)
B 中付き(文字に対して中央揃えでルビを付ける)
C 拗促音を使う(小さい「やゆよ」など)
A 肩付き
B 中付き(各親文字に対して中央揃えでルビがつく)
C 中付き/拗促音あり
▼ ルビの頻度
ルビを付ける頻度もあらかじめ決めておく必要があります。全体初出、章初出、総ルビなどといった方式です。
1. 文章全体の漢字すべてにルビを付ける総ルビ
2. 文章全体を通して、同じ漢字が複数出てくる場合は、一番最初に出てきた漢字のみにルビを付ける全体初出
(※たとえば、2ページ、15ページ、32ページに「乙骨」の文字が出てきた場合は、一番最初の2ページ目の「乙骨」だけにルビを付けるというやり方です)
3. 章を通して初めて出てきた漢字のみに付ける章初出(※全体初出の範囲が狭い漢字です)
この他にも色々な方式がありますが、どれが正しいというわけではありません。これらは会社や媒体によって異なります。どの程度ルール化されているかも変わってきます。事細かに定めている会社もあれば、特にルールはなくゲラ内で統一されていればよしとする会社もあります。
また、児童書のレーベルのみルビに拗促音を使用するなど、同じ会社でも複数のルールを設けている場合もあります。まずはクライアントにルールの有無を確認し、それに従うようにします。
素読みでのルビの校正ポイントは、ルビのみをチェックする時間を取るのが一番有効です。全体の素読みのときには親文字(ルビが付いている文字)を含めて読んでいるので、親文字が正しければルビが間違っていたり抜けていたりしても気づかないことがあるためです。
特に児童書や絵本など総ルビの案件は、平易な漢字にルビが振られていなくても違和感なく読めてしまうため、通して読むだけではルビの抜けを見落としやすいです。ルビのみに注目する段階を設けて、すべての漢字にもれなくルビが振られているか確認していきます。
ちなみに、素読みの作業のひとつとして「難読語にはルビを付ける提案をしてください」と依頼される場合があります。特に指示がなければ、主観で難読だと思われる語について提案をすればよいですが、多くの校正者は一般の読者より漢字に詳しいことに留意しましょう。校正者にとっては当たり前に読める語であっても、一般読者には難しいことがあります。「難読」のハードルを自分の感覚より少し下げてルビの提案をすると、読者に対して親切です。
Point2. 体裁面でのチェック
前半は「文章面でのチェックポイント」の説明でしたが、ここから紹介する「体裁面でのチェックポイント」も素読みでは重要な要素です。
良い文章と整った体裁がセットになってはじめて、読者が文章をスムーズに読むことができるからです。
1. 見出し類
大見出し・中見出し・小見出しなどのそれぞれについて、級数やフォント、前後のアキの広さといった体裁がそろっているかを確認します。
見出しがページの末尾に来ていないか、つまり本文と泣き別れになっていないかにも注意が必要です。ノドの泣き別れ(右開きの書籍なら、見開きの右ページの末尾に見出しが来る)は許容とされる場合もありますが、小口の泣き別れ(左ページの末尾に見出しが来る)のはほとんどの場合不可です。見出しを次のページに送る指摘を出しましょう。
見出しには番号が振られていることも多いですが、ページの入れ替えや削除等により、順番が通らないということもあります。
たとえば、1章・2章・3章・4章・5章の、3章と4章のページが入れ替わり、1章・2章・4章・3章・5章となることがあります。
小見出しなどでもページが削除されることによって順番が通らないことがよくあります。
たとえば、(1)(2)(3)(4)(5)の小見出し(3)が削除されて、(1)(2)(4)(5)となってしまうことです。
すぐ近くに数字があれば間違いにも気づきやすいですが、番号が数ページ先にある場合には気づきづらくなっています。
ただし、これもルビと同様に、この部分だけ通しで確認すると容易に間違いを見つけることができます。
2. 図版・キャプション
図版については、本文に対して適切な位置に入っているかを確認します。該当する本文と離れているときは、その旨の指摘が必要です。
図版に「図1」「表2」などの番号がついているときは、番号が全体で通っているかどうかのほか、本文中にその番号が入っているかにも留意しましょう。全体として本文中に番号が入っているのに1点だけ抜けている、あるいは逆に1点だけ番号が入っているといった場合は指摘を出すようにします。
キャプションについては、まず文言が図版の内容と合っているかを確認します。医学系や学術系では、似たような図もあるので、パッと見ただけでは判断ができない場合もあります。
他にも、体裁面のチェックポイントとしては、級数・フォント・図版に対する位置が全体でそろっているかなどがあります。
3. 目次
目次については、まず文言とノンブルが本文と合っているかどうか照合します。異なっている場合は、原則として本文に合わせるように指摘を出します。
目次に載せる要素は、「章タイトルのみ」「章タイトルと大見出し」「小見出しまで含めてすべて」など、案件によって異なります。そのゲラにおける傾向をつかみ、漏れがないように注意しましょう。
級数やフォント、行頭の字下げなどの体裁についてもチェックが必要です。目次全体で統一が取れているか確認します。
最終段階で本文の見出しが変更されて、目次と対応しないという例はよくあります。
4. 扉
本扉のほかに章扉などがある場合は、文字の配置や級数・フォントなどのレイアウトが統一されているか確認しましょう。
情報量が少ない場合もあるので、サラッと確認して終わりという方も多い思いますが、意外と体裁が違っている場合があります。そのため、各扉だけ抜き出し、横並びで確認することをおすすめします。
5. 柱
柱については、本文と表記が一致しているか、級数・フォント・位置が全体でそろっているかといった点を確認します。また、空白のページや図版のみのページの柱の有無がそろっているかにも注意が必要です。
1ページごとに確認するのではなく、ページの入れ替えや追加などによりおかしくなることがあるので、最終段階で通しで確認します。
6. ノンブル(ページ番号)
数字が通っているかどうかはもちろん、位置やフォントがそろっているかも確認します。柱と同様、空白のページや図版のみのページのノンブルの有無もチェックします。
バックの色と同化して、ノンブルが見づらいときなどには指摘します。
おわりに
以上のように、素読みでチェックすべきポイントは多岐にわたります。
どのような順番で作業をするかは校正者によって、またゲラの性質や納期などによっても異なりますが、少なくとも文章部分のチェックと体裁に関するチェックは別々に行うのがよいでしょう。一度に複数のことをチェックしようとするとどれも中途半端になり、漏れが生じる危険があるためです。
素読みが苦手だという方は、一度にあれこれ同時にやろうとしてどれも中途半端になっている可能性があります。文章を読むのに没頭していたり、間違いが多くて気を取られていたりすると作業の抜け漏れが起こりやすくなります。作業ごとにわけて確認することで、各作業に集中でき今以上に品質をあげることができるかもしれません。
そういう方は、自己流でいいので簡単な作業リストを作ってみることです。かなり頭の中がスッキリするはずです。作業リストには、抜け漏れを防ぐという効果もありますが、こういう項目を確認しているというノウハウの継承にもなります。